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三年生が引退し、新主将に任命された山﨑は図書室にいた。
放課後、貴重な部活の時間を削ってでもやりたいことがあったのだ。山﨑は図書委員に詰め寄っていた。
「リクエストしとっとに、何で取り寄せてくれんとや!」
「山﨑くんのリクエストのは、山﨑くんしか読まんやろもん。なんよ、これ? 『投球力学』、『誰にも打たれないストレート』、『変化球と身体のメカニズム』……入れたところで、山﨑くん以外に読む人なんて30年後にもおらんと思う」
図書委員は細い眼鏡のフレームを人差し指で上げて、毅然と山﨑の要請を断る。
「生徒が入れて欲しいって言いよっとにから」
「それを入れられるくらいなら、今年の芥川賞作品を入れます。はい、終了」
図書委員は読んでいた本をぱたりと閉じ、山﨑を追い払うように手を振った。
「冷てえなぁ……」
吐き捨てるように山﨑が言うと、くすりと奥から笑う声が聞こえた。
山﨑が視線を送ると、一番奥の席で本に囲まれている生徒が見える。
あいつ……たしか、鉢谷って言ったっけ?
山﨑は奥に座る生徒に目を凝らした。前髪が目を覆うほどに伸び、表情は窺い知れない。
鉢谷はほとんどの生徒が部活動に参加している福岡高校で、珍しい帰宅部の一人だ。ほとんど話しているのを見たことがない。
さっき笑ったのは、あの鉢谷だろうか? それにしては全くこちらに興味が無さそうだ。ほとんど身体を動かさず、ページを捲る指先だけが動いている。




