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甲賀忍者、甲子園へ行く2《甲子園編》  作者: 山城木緑
初戦 文武両道 福岡高校
29/91

2

 福岡公立御三家と呼ばれる猷修館高校、福岡高校、筑紫山高校。その中でも最も伝統を重んじる福岡高校において、不祥事は最も嫌われる。


 山﨑が入学する15年も前、福岡高校である事件が起きた。初めて福岡高校野球部が夏の全国高校野球大会福岡予選でベスト4まで勝ち上がった時のことだ。

 その年、福岡高校には県内有数のエースがいた。プロからも一躍注目される逸材であった。

 二回戦で福岡県の高校スポーツを引っ張る西福岡高校を撃破、続く三回戦で優勝候補の福岡国際大学付属高校を破ると、瞬く間にそのピッチャーは時の人となった。


「甲子園に行けるばい」


 福岡高校は盛り上がっていた。そのピッチャーは学園の英雄となり、自分を見失った。


 迎えた福岡県大会、準決勝。

 既にスタンドは初の準決勝進出に沸く福岡高校全校生徒で埋め尽くされていた。

 試合開始45分前、生徒たちとともにスタンドで笑顔を見せていた校長は、慌てて飛び込んできた野球部部長に肩を叩かれた。


「校長、ちょっと、良いですか? こちらへ」


「どうかしましたか?」


 喉を鳴らした野球部部長の視線は宙をさまよっていた。


 校長はベンチ裏へと案内された。

 ベンチ裏の光景は、嬉々溢れるスタンドの光景とあまりにかけ離れたものだった。部員たちが泣き崩れている。野球部監督の先生が、部員たちの前で腕組みをして、項垂れている。


「先生、どうかしましたか?」


 校長が歩み寄ると、監督の前で一人の選手が土下座しているのが見えた。背中の堂々たる背番号1があまりに小さく見えた。


「つい30分前、部長に高野連の支部から連絡がありました。おたくのピッチャーが飲酒、喫煙していた、と」


 泣いている者もいる。土下座したエースはモルタルの床に両手をつけたまま、動かなかった。何も言わず、ただ、小さなコンクリートの突起に手のひらを押しつけていた。


「今、棄権すると伝えたところです」


 監督がそう言って、エースを首もとから持ち上げた。エースはだらんと背中を丸め、帽子で顔を覆い、呪文のように、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいと呟き続けた。

 福岡高校初の夢は不祥事で途絶え、代わりに大きな汚名を残した。エースは耐えられなくなり、野球部関係者が止める中、秋にひっそりと退学した。



 この事件以降、福岡高校の野球部は地に落ちた。噂は瞬く間に広がり、入部者が激減した。特にピッチャー出身者が入部することはほぼなくなってしまった。

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