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副島の問いに資定は厳しい目を向けた。初出場校のメンタルを慮ることなどしない。そんな目だ。
「うちのスコアラーの見立てでは、甲賀高校のランクはCランクだ。思い知って精進することだ。さあ、伊賀崎、帰るぞ」
資定が身を翻した。伊賀崎がその背中についていく。
「おい、待て。俺らがCランクやと? お前らこそ上からもの見てんじゃねえぞ」
白烏が資定の背中へ反論する。資定は振り向かずに伊賀崎が反応した。
「俺ら1、2年チームにぼろ負けしたん、忘れたんか? 今の資定さんのボールに目を丸くしたばかりやろ。お前らはAからCランクのうち、一番下。俺らはA。お前らはC。それは事実や」
そう言って伊賀崎は舌を出した。突っかかろうとする月掛を滝音が止めた。
「……大伴くん。それならば俺は一つ解せない。俺たちがCランクならば何故わざわざ今日ここに来た? 君たちがAランクならば、よほど他の関西代表校を見るほうが良いだろうに。心眼とやらで。それとも、本当に激励の意味で来てくれたと受け取っていいのか?」
滝音の問いに、資定はゆっくりと歩みを止めた。半身の伊賀崎が勢い余って背中にぶつかる。資定は背中のまま、滝音に返した。
「ひとつ、伊賀崎の言葉を訂正しておく。大阪桐心……。この一校だけSランクとうちのスコアラーは分析している。俺たちAランクが最高ではないのだ。それに、今日ここに来たのは俺の独断だ。激励の思いが半分、偵察の意味も半分だ。……君たちはCランクだが、どうやら俺の身体はSに近いと判断していたようだ」
副島が首を傾げた。
「何なんや、その禅問答みたいなんは。お前にとっては俺らはAランクてことか?」
隣の伊賀崎も意味が分からず、資定をただ見上げている。
「……いや、うちのスコアラーを俺は信じている。君たちはCランクだ。ただ、アルファベットで書くとCが最もSに近い。俺の身体がそう判断したのかもしれない。ただ、今日見た君たちはまだまだCランクだった。Sに変貌するようには見えなかった。精進することだ。……あ、あと……君」
資定が振り向いて、背番号8番の犬走を指差した。資定が犬走へ近寄り、耳元で何かを囁いた。犬走はその囁きに顔を強張らせ、小さく頷いていた。
「では、甲子園で会おう」
そのまま、資定と伊賀崎は東門をくぐっていった。
残された甲賀ナインの表情はみな、悔しさで満ちていた。つよく拳を握る。
地方大会前の練習試合といい、この日の訪問といい、甲賀高校はこの理弁和歌山高校に助けられることになる。
グラウンドの隅に大きな欅の木がある。麓は日陰になっており、暑さを凌げる。そこにちょこんとパイプ椅子に座る老人がいる。橋爪茂平。形だけの野球部監督である。通称、橋じいと呼ばれるこの老人は、この始終を日陰から見守り、ふぉふぉふぉ、と優しく笑っていた。




