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13

 マウンドは平坦でも、資定は山のごとく映った。打席に入った道河原とミットを構える滝音がごくりと唾を飲み込んだ。


「ちっ、本物中の本物ってやつやな」


 道河原が滝音に小声で言うと、滝音は「ああ」とだけ言い、爪先に力を込めた。集中せねば、怪我をする。


 ゆっくりと、それはスローモーションに見えた。

 資定の上腕二頭筋が顔を通りすぎて高く上がる。漆黒のグローブが太陽に重なった。左膝が胸につくように立ち、そこからこちら側へ向かって伸びてくる。背中に隠れていた右手が頭の後ろから現れ、肘が道河原と滝音へ向いたかと思うと、二人のもとを突風が駆け抜けていった。

 全く、見えない。

 道河原はぴくりとも動けなかった。捕ろうとした滝音のミットに白球は収まっていなかった。遠く後ろでバックネットにボールの跳ね返る音が聞こえた。よく見ると、滝音のミット上部の皮が薄く捲れあがっている。


「ストライク。真ん中だぞ」


 静寂に、ぽつりと資定の声が響いた。

 甲賀ナインで声を出せる者はいなかった。たった一球、それで両校の力の差は充分に知れた。

 資定がグローブをとる。資定はもう投げる必要はないと悟っていた。


 しん、と佇む甲賀ナインへとどめを刺す伊賀崎の言葉が発せられる。


「俺らは本大会の決勝までを逆算してピークコントロールしとる。今お前らが見た資定さんのストレートは60%や。……甲子園出るで喜んでんなら、それでええ。甲子園に挑むんなら死ぬほど練習しやがれ。関西の恥になることは許さねえ」


 伊賀崎が資定のバッグをとる。資定は丁寧にそのバッグへグローブをしまった。背を向けたまま甲賀ナインへ言った。


「伊賀崎の言葉は悪いが、俺も想いは同じだ。ここで失礼するが、俺のまだ60%の投球に君たちが何を感じるか。それを期待しておく」


 伊賀崎も自分のバッグを担ぐ。副島が何とか口を開いた。


「今のボールでよく分かった。お前らとの差はな。ひとつ、甲子園経験しとるお前の感想を聞かせてくれ。俺ら甲賀高校の現在地はどこらへんと読む?」

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