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「さすがだな、滝音家。詫びてばかりで申し訳ないが、心眼しんがんという業を使わせてもらった。簡単に言うと心を読ませてもらった。誤解のないように、野球ではこれは使わないがね。君たちの現在地を確かめさせてもらったまでだ」


 そう言って、資定は小さく頭を下げる。


「……やはりね。昔読んだ書物は本当だったんだ。で? 僕らの心の声を聞いた感想は?」


「正直に言えば、まだそんなところにいるのかと、がっかりした。悪いが、これでは勝ち進めまい。そう感じた」


 資定が腕を組んで言うと、ただでさえ大きい資定を見下ろしながら、道河原が割って入った。


「てめえ。俺らが勝ち進めないだと?」


 道河原の巨躯にも、資定は微動だにしない。資定はグラウンドに膝をつき、バッグからグローブを取り出した。


「ああ、勝ち進めまい。俺は甲子園の偉大さを知っている。君たちは、知らない。……副島主将。もし、あの時の練習試合に意味を持ってくれたのなら、同じことをしよう。君たちは現在地を知っておいた方が良いかもしれん」


 副島が腕組みをしながら、小さく頷いた。それを確認し、資定が漆黒のグローブを手にはめる。


「滝音くん、受けられるか?」


「ああ」


 滝音もミットをはめ直した。月掛が不満そうに副島の側に寄った。


「何で俺らの練習に入れさせんすか? 冗談じゃないぜ」


 小声で不満を垂れると、副島は真面目な顔で月掛に向かった。


「いや、俺らのためだ。お手並み拝見といく」


 平坦なマウンドに資定が進む。滝音がホームベース後ろに座って、隣にいた伊香保に目配せをした。伊香保は頷いて、ホームベースから離れグラウンドの端の端まで移動した。滝音の目配せの意味を分かったようだ。


「道河原くん、打席に入るか? 打ってもらっても構わない」


「上等だ。前にお前らとやった時の俺とは違うぞ」


 道河原がバット3本を持ち上げ、激しい金属音を鳴らしながら5回素振りをした。轟音とともに空気が歪む。周りのギャラリーが後ろに退いた。

 道河原は素振りだけで周りを圧倒できる。畏れ戦く者も少なくないだろう。だが、資定の口許に小さな笑みが浮かんでいた。それを滝音は見逃さなかった。



 グラウンドの隅で夕日TVスタッフたちは、この突然の展開に戸惑っていた。


「おいおい、こんなの今まで見たことねえぞ」


 ディレクターが頭を掻いた。この珍しいエキシビションが後に激闘、甲子園で放送されるのか。カメラマンが手に汗を握ってマウンドとホームベースを画角にとらえていた。

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