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伊賀崎の頭を片手で軽々と掴み、天から叩き落とした男。男の制服の胸にもRの文字が赤く刻まれている。副島も他の甲賀ナインも鮮烈に思い出した。その男の名を。
大伴資定。
理弁和歌山のエースであり、今や日本のエースとの呼び声も高い。
練習試合では、この資定に甲賀は手も足も出なかったのだ。
きちんとボタンが留められたシャツに身を包んでいるが、シャツから溢れる筋肉がシャツを今にも破りそうだ。顔は陽にこんがり焼けている。
資定は帽子を脱いで深々と頭を下げた。
「立て、伊賀崎」
資定は伊賀崎の襟を持ち上げ、無理矢理立たせた。頭を持ち、またも無理矢理に下げさせた。
「副島主将、すまない。今日、遠江高校と練習試合を組んでいただいたのだ。せっかく滋賀に来たわけだから、出場祝いと互いの健闘を述べようと伺ったのだが……。とんだ失礼を」
資定は再び副島に深々と詫びた。
「いや、まあ、そこまで謝らなんでもええよ。こちらこそ先日は練習試合組んでくれてありがとう。あの試合があったから俺らは切符を掴めたようなものやと思ってる」
「そう言ってもらえたら、良かった」
資定に頭を押さえられたまま、伊賀崎は不満げな表情を浮かべていた。伊賀崎の表情を見る限り、激励に来たとは言えなそうだ。
資定は伊賀崎の頭をぽんぽんと叩いて、踵を返そうとした。
「ちょっと待て。それだけかよ」
いつの間にか集まっていたナインから、白烏が言葉を発した。滝音が資定と白烏の間に割って入る。
「奇妙だね。それが本音なら、わざわざこんな田舎まで激励に来てくれてありがたいの一言だけど。……大伴くん、君はこの一瞬で何かを確かめたんじゃないのかい? 一応、僕たちは対戦する可能性もあるわけだ。隠すのはよさないか? 僕は暇があれば本を読むが、どれかの書物にあった。甲賀の始祖とも呼ばれる大伴家には特別な業が備わっている、と」
皆が首を捻る中、滝音はじっと資定を見上げていた。資定は滝音の真っ直ぐな目を受け、ひとつ笑みを溢した。




