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 カメラマンは変わり映えしない光景に、一度カメラを下ろした。そこへすさかずディレクターの平手が頭頂部を襲う。


「お前、何年『激闘、甲子園!』やってんだ。撮っとけ。今がこのチームが変わるか変わらないかの岐路だ」


 慌てて構え直したカメラの先に円がある。三塁側であぐらを組む副島の口がまた動き始めた。


「俺はお前らに感謝しとる。お前らがおらなんだら甲子園に出れんかった。……やから、俺、いつの間にかお前らに遠慮しとった。お前らが舞い上がってても、そっとしてた。でもな、眠る前、俺は毎日思い出す。ホームベース上で泣き崩れた滋賀学院の川野辺の姿を。マウンドで血を吐いてまで投げた霧隠の姿を。両側から抱えられてベンチに戻る遠江の大野の姿を。……やっぱ、思うんや。あいつらの想いを背負えない俺は、大人げない。滋賀県代表として、負けていったやつらの想いを背負うより、TVカメラ意識してるお前らに気を遣ってる俺は、情けない。……滝音、お前はどうや。みんなは、どうなんや?」


 皆、一様に身を強張らせた。藤田が唇を噛む。道河原の背中も縮こまっていた。それぞれが滋賀県予選の激闘を思い浮かべていた。

 夏の終わりをこの目で見てきた。高校野球との別れを網膜に焼きつけてきた。そのバトンを俺らは託された。それを……忘れていた。副島の言葉は、大切なものを皆の心の中にまた宿した。


「……分かった。よく分かったよ。俺だけじゃなく、みんなも副島の言葉で分かったはずだ。答えは要らない。浮かれるのは今日までだ。よし、心を入れ替えるぞ。いいな、みんな」


 おうっ!


 皆が声を揃えた。一斉にマウンド中央を見る。皆の視線が一点に合う。


「副島っ、目標は? 副島の口から言ってくれ」


「ったりめーだ。甲子園出場で満足じゃねえだろ。全国制覇だ! やんぞ、おめえら!!」


 おおおおぅ!!


 一斉に立ち上がり、皆が各守備位置へ走った。


「ほら、良い画が撮れただろ?」


 髭を撫で、ディレクターがカメラマンに問う。カメラマンは笑って頷いていた。音声がヘッドホンを少し耳から離す。突然、甲賀高校野球部の声の大きさが変わったからだ。



 グラウンドの隅、この光景を含み笑いで見守る者がいた。


「ねえ、あれ、うちの生徒じゃなくない?」

「……うん。あんなとこに……。誰あれ?」


 ひそひそと甲賀高の女子たちがその者を怪しんで指差していた。

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