冒険者
孤児院の一件が解決した俺は公園の植木に背を預けて地べたに座り込み、青白い空を見上げている。
シャーレはもうここにはいない。
俺を探しに行く為に孤児院を飛び出して現在は行方が知れず、どこにいるのかもわからない。
エルフが生活している国に向かったのか、それとも商会を手当たり次第に動いて探しているのか、それすらも俺にはわからない。
「シャーレ…………」
俺の大切な可愛い妹分。あの可愛い笑みを俺はもう一度見てみたい。
その為に俺は8年間も頑張ってきた。頑張ってきたのに……………………。
「もうちょっと堪え性を持てよ、シャーレ」
いや、院長に騙されて8年間も音通不信だった俺も悪いけど、それは奴隷にされていたからしたくてもできなかったし、あの孤児院から離れていてくれて安心した気持ちもあったけど、後二年どうして我慢してくれなかったんだ、シャーレ。そうすればもう再会できたのに……………。
口から大きなため息を吐いて髪を乱暴に掻くと俺は気持ちを切り換えて立ち上がる。
「まぁ、こんなところにいても仕方がねえし、俺の方からもシャーレを探せば早く見つかるかもしれないな」
シャーレが俺を探しているというのなら俺もシャーレを探してやる。
だけどその前に……………………。
不意にグウ~と俺の腹の虫が鳴る。
「……………金を稼がないとな」
無事だった金銭や商品は全てアイネさんに渡してしまった俺は現在無一文。生きていく為にもまずは金を稼がないと始めらない。
「…………冒険者になるか」
犯罪者でもない限りは誰でもなれる冒険者。
ひとまずは冒険者になって生活費を稼ぎつつシャーレを探しに行くとしよう。幸いにも服や装備は精霊の加護でなんとかなるし、レベルだって十分あるし問題はない筈だ。
そうして俺は新しい一歩を踏み出した。
冒険者ギルド。
冒険者を管理している場所でありとあらゆる仕事が運ばれてくるってウールさんが言っていたな。
この街の冒険者ギルドに足を運ぶと漫画やゲームに出てくるような如何にも荒くれ者の冒険者がいっぱいいる。ゲームのようにギルド内は酒場みたいでギルドの受付場とその近くに依頼書が貼られている掲示板があった。
ゲームのプレイヤーにでもなった気持ちで俺は受付場に足を向ける。
「ご新規の方ですか?」
「はい。冒険者になりたいんですけど」
「それでしたらこちらの書類に記入をお願いします」
受付場にいるお姉さんから渡された用紙に必要なことを書いて渡す。
「はい。承りました。それでは新規の方なのでFランクからのスタートとなります。頑張ってランクを上げて上を目指してくださいね」
「はい」
冒険者ギルドに所属していることを証明するギルドカード。身分証にもなるカードなので大事に持っておかないといけない。失くしたら再発行して貰えるが金がかかる。
そしてウールさんが言っていた通りまずはFランクからのスタートだった。ギルドに貢献することでランクは上がっていくのもウールさんの言う通りだ。
確か最高ランクはSだったな。ウールさんがBランクまで登り詰めていたらしいからまずは俺もそこを目指すとしよう。
早速掲示板に張られているクエストを見ようとした時、一人の男性が俺の前に現れた。
「お前、新人だな?」
「それがなにか?」
「いやなに、冒険者の先輩として冒険者の厳しさを教えてやろうと思ってな」
ニヤニヤと笑みを浮かばせながらそんなことを言ってくる冒険者に周囲の人達の声が聞こえてくる。
「またボルスの奴が新人いびりしているぜ」
「ああ、これで何回目だ? あの新人も可哀想に」
「誰か助けに行ってやれよ。あいつのせいで前の新人が酷い目にあったんだぜ」
「無茶言うなよ。Bランクの〈黒拳〉に勝てるか」
なるほど、ゲームでもよくある展開か。
新人にちょっかい出すのもファンタジー、異世界モノの定番なのかもしれないな。
「なに余裕ぶっこいていやがる!?」
そんな俺の態度が気に喰わなかったのか、ボルスは殴りかかってきた。
だが、その動きはあまりにも遅い為に簡単に躱せる。
「生意気に避けてんじゃねえ!」
いや避けるだろ?
そう思いながらもまた避ける。そしてまた避ける。攻撃してきては避けるを繰り返す。
「チッ! ちょこまかと……………ッ!」
自分の拳が一撃も俺に入らないことに苛立ちながらも殴ってくるが避ける。
ウールさんと同じBランクみたいだけど、恐らくこの人はBランクでも下の方だろうな。相手がモンスターならいいかもしれないけど、動きが雑だし、フェイントもない。これがウールさんなら一撃目はフェイントを入れて二撃目か三撃目に相手を倒しにかかる戦い方をするのに。
そしてまた避ける。
それが続けと周囲の人達から視線が集まってくるからまるで見世物になった気分だ。
「凄ぇ、あいつ。ボルスの攻撃を躱してんぞ」
「ありえねえよ。だってボルスはLv40超えの冒険者だぞ」
そんなことを言っているが俺はその三倍以上のレベルなんだけど? まぁ、だから余計に攻撃ができないんだよな。これまではモンスター相手に戦ってきたから手加減をする必要はなかったけど、流石に人相手には手加減した方がいいよな。
……………………デコピンなら大丈夫かな?
まぁ、死んでいなければ魔法で治したら問題はないか。
そう結論を出した俺は相手の拳を避けて懐に潜り込んでデコピンした。
「うへっ!?」
するとボルスと呼ばれていた男性はデコピンの威力に上半身を仰け反り、床に倒れて、男性は痙攣しているかのように身体を震わせている。
それを見た他の冒険者達はまるで信じられないものを見たかのような目で黙って俺を見てくる。
と、とにかく手加減はできた。だけど万が一にここで死なれても大変だし、一応は治癒魔法をかけておくか……………。
「《ヒール》」
治癒魔法をかけて周囲の視線を無視して俺はクエストを見に行く。
「強いうえに治癒魔法も使えるのね」
そんな俺に一人の女性が声をかけてきた。
長い金髪に翡翠色の瞳。軽装を身に纏う女性。その瞳からはどこか冷たい印象を感じるも、荒くれ者の冒険者とは程遠い気品に溢れた雰囲気を漂わせている。
「あんな男に情けをかける必要もないでしょうに」
ゴミを見るような目で床に倒れているボルスを見る。
まぁ、確かにそうだけど………………。
「それはそうですけど、万が一のことがあったら目覚めが悪いですし」
そう答えると女性は小さく笑みを見せる。
「面白いのね、貴方。名前を窺ってもいいかしら?」
「リブロです。リブロ・リーベラ。貴女は?」
「私はアリアよ。また会いましょう、リブロ」
そう言って後ろにいるお仲間さんを連れてギルドを出て行く。
性格がキツそうな人だな、と思いながら俺は新人らしく〈薬草採取〉のクエストを受ける為に依頼書を受付場に持って行くと、受付の人が心底驚いていた。
「お、お強いのですね。ボルスさんは実力だけは高いのにそれを一撃で………………」
「いえいえ、偶然ですよ」
「それにアリアさんのお目にかかる新人なんて私、初めて見ましたよ」
「そんなに有名人なのですか?」
「はい。パーティー名〈高潔の薔薇〉。女性だけのパーティーでありながら全員がAランクの冒険者。その中でもアリアさんはトップクラスの実力者なんです」
へぇ、それは凄いな。
まぁ、それでも俺にか関係のない話か。新人である俺は新人らしくクエストをこなしていこう。
「〈薬草採取〉ですね。はい、承りました」
そうして俺は生活費を稼ぐためにギルドを出る。




