混血と役割
吸血鬼族の国を救う為に城に潜入した俺だったが、突如現れた冥府の魔王マトハルによって城の地下にある実験場に案内されてそこで漆黒の翼を持つ翼人族を助けたのだが、マトハルは彼女を俺に預けて1人だけ転移魔法で姿を消して俺はこの城を乗っ取っている魔族から逃れる為に一時的に撤退を決断した。そして俺は今、セシル達がいる宿に戻ってその翼人族の女性の目が覚めるのを待っている間に城で起きたことをリスティアに告げた。
「……………………そんな、そんなことのために」
涙を流しながら崩れ落ちるリスティアに俺はそれ以上何も言えない。
研究の為だけのこの国を支配した魔族。そして多くの吸血鬼族がその実験材料にされていた。国を、民を想うリスティアにとっては過酷な話でしかない。
「なるほど………………けど、背後に魔王はいないんだよね?」
「ああ、それは間違いない」
俺の話を聞いたイサベルは両腕を組みながら魔族の背後関係について確認を取ってきた。
そこは看破の精霊の力で確認したから間違いはない。
「まぁでも、やっぱりあそこで魔族を倒しておくべきだったか……………………」
悔やむようにぼやきながら俺はそっと窓から外の見ると兵士達があちらこちらと動いている。あの魔族がリスティアに続いて俺の指名手配書まで作りやがった。
不幸中の幸いなのはまだこの居場所がばれていないことぐらいだ。この宿主の記憶は改竄してあるし、すぐにこの場所に辿り着くことはないだろうがそれも時間の問題だ。
まったくあの魔王め、転移魔法があるのだから自分だけじゃなくて翼人族の人も連れて行けよ。そうすればあそこであの魔族を倒すことができたのに。
内心で愚痴を溢すが、過ぎたことを言っても仕方がないと思い溜息を溢す。
「師匠、この人はどうするのですか?」
翼人族の女性を看病しているセシルがその人のこれからのことについて訊いてくる。
「どうするって言われてもな……………下手に外に出す訳にもいかんし」
目が覚めて外に出したところでまたあの実験場に連れ戻されるのがオチだ。今のあの魔族はこの国の王様を操っているのだからそれを知らない兵士達は操り人形のように王命に従うのみ。
とりあえず目を覚ましたら事情聴取だな。
「……………………ぅ、ここは………………?」
そう思っている最中で翼人族の女性は目を覚ました。
「師匠。目を覚ましました」
「ああ」
「………………………貴方方は?」
「俺はリブロ。貴女の隣にいるのがセシルであそこにいるのがイサベル。そしてリスティアだ。今は彼女はそっとしておいてあげてくれ」
「はぁ…………」
「でだ。貴女は翼人族であっているのか? それとどうしてあの城に捕まっていたのかを教えて欲しいのだがいいだろうか? 一応助けた身としては知っておきたいからな」
「………………………私の名前はフォス。翼人族かどうかと言われたら半分正解です」
「半分?」
「私は翼人族と魔族の間に産まれた混血児です」
その言葉に俺達は驚いた。だが、彼女の瞳の色は紫紺色ではなく空色だ。
「どういうことか私は魔族の特徴である紫紺色の瞳を持たず、翼人族の特徴であるこの翼が黒く染まっているのです。魔族の血が混じった影響だと思います」
忌々しそうに話しながらその漆黒の翼を動かす。
なるほど。翼人族と魔族の混血ならあの魔族が研究材料として重宝する理由にも納得がいく。
「…………………実は貴女を助けようとしたのは俺じゃなくて冥府の魔王マトハルに貴女がいるところまで案内されたからだ。あの魔王とはどういう関係なんだ?」
「………………………それについてはお答えできません」
マトハルとフォスの関係についても教えてもらおうと思ったがそれは無理だったか。だが、2人の間に何かがあるのは確かだと思っていいだろう。
「わかった。2人の関係についてはこれ以上の追言はしない。それで貴女の今後についてなのだが、どうするつもりだ?」
「どうするとは…………………?」
「俺達はこの国を救うつもりでここまでやってきた。正直貴女を助けたのは偶然の出来事で俺達は貴女のことまでどうとかする余裕は今はないんだ。帰る場所はあるのか?」
「いえ、私には帰る場所なんて………………」
顔を俯かせて心なしが翼も萎れる彼女を見て、俺は配慮が足りなかったことに気づいた。
翼人族と魔族の混血なんだ。どちらからも毛嫌いされてもおかしくはない。そんなこと少し考えればわかることなのに……………………。
「ひとまずはその人よりも現状を打破する方法を考えた方がいいと思うけど?」
配慮が足りなかったことに悔やんでいるとイサベルが話に入ってきた。
「どちらにしても王様を操っている魔族をどうにかしない限り、この国も王女様もそしてその人もどうすることもできない。なら今は現状を打破する方法を優先するべきだと思う」
「………………………そうだな」
親友に感謝だな。
フォスのことから現状へと話を切り換えるきっかけを作ってくれた親友に感謝しながら俺は今ある情報を纏める。
「まず城の構造だが、これはリスティアが話してくれたとおりだった。全部は見れてはないが、恐らくは殆ど変わりはないと思う。だが、法陣魔法があちこち描かれている可能性はある」
「破る方法はないのですか?」
「…………………難しいな。俺は精霊の加護でどうにかできるけど、セシルやイサベルには多分無理だ」
「なら私達は城の中には入らない方がいいね」
「ああ、それが妥当だろう」
しかしそうなれば城内で何かあればそれは俺が1人で対処するしかない。だが。
「もう1つ問題があるとすれば城にいる魔族が生み出している新種のモンスター、キマイラだ。ぱっと資料を見てみたけど様々なモンスターや吸血鬼族の特徴を組み合わせている。何が起きるかわからない未知の部分も多いから戦うとしたら注意が必要だ」
まぁ、よほどのことがない限りはこの2人に傷を負わせることは難しいだろう。
「潜入がバレている以上は魔族も警戒を強いるはず。それに囚われている吸血鬼族も救い出さないといけない」
「それなら1人は陽動として兵士達を相手にしている間に2人が城に潜入。そして2人の内1人が吸血鬼族の救出でもう1人が魔族の打倒ってとこ?」
「そうなるな……………………」
「なら私は陽動ね」
イサベルはそれが自分の役割だといわんばかりにそう言った。
「あの、陽動なら私が…………………」
「いや、セシルはリブロと一緒に城に入って。外の方が槍を存分に振れるし、派手に暴れやすい」
確かにイサベルの言う通り、イサベルほど陽動に相応しい役はいない。
俺達の中で誰よりも武術に長けて兵士達を殺さない程度に上手に加減もできるだろうし、イサベルの腕前なら多くの兵を集めることもできる。
俺は強過ぎるから加減も難しいし、セシルにはまだ多数との戦闘は難しい。モンスター相手ならともかく手加減をしないといけない相手にはまだ早い。相手を殲滅するならともかく殺さずに戦闘不能にできるほどセシルは手加減が上手ではない。
「それなら私は吸血鬼族達の人の救出に」
「いやセシル。それは俺がいく」
地下牢に閉じ込められている吸血鬼族達の救出に向かおうとするセシルだが、それは俺の方が適任だ。
「法陣魔法をどうにかできるのはこの中で俺だけだ。それに怪我人も大勢いる。治癒魔法と回復魔法が使える俺の方が適任だ」
「ということは……………………」
セシルは最後に残された最も重大な役割に顔を青ざめていく。
そんなセシルに俺とイサベルはセシルの方に手を置いて…………………。
「「頑張れ」」
応援してあげた。
すると不思議なことにセシルはまるで石化でもしかたのように硬直してしまった。




