ポンコツ王女様
魔族に奪われた国を取り戻すために王女様は強くなることを決意した。その決意を無下にしない為にも俺は王女様が強くなれるように全力で協力するつもりなのだが……………………。
「てやー!」
力の入った、けれど微妙に気の抜ける声で槍を大きく振りかぶった王女様はゴブリンに向かって突進する。
『ぬおっ!?』
不意をついての突進にゴブリンは動転の声を上げる。
いくら素人同然の動きでも不意をついての突進で攻撃すればゴブリンにダメージは与えられるはずなのだが……………………。
「あいたっ!?」
その一撃は盛大に空振った。挙句、その勢いのまま転んだ。
まるでコントでも見ているかのように王女様はゴブリンの真横の位置に滑り込み、なんとも言えない沈黙が流れる。
『………………ああ、えーと、驚かしやがって!』
「はぐぅ!」
いったん動きを止めたゴブリンが王女様の腹に蹴りを叩き込む。それから近くに他のゴブリンもいたのか、仲間の声に群がって王女様を集団でリンチする。
その光景を少し離れた位置で見ていた俺は溜息を吐いてセシルに王女様の救援に向かわせる。
「セシル、頼む」
「はい」
集団リンチを受けている王女様を助けに行かせるも、俺は王女様をどうやって強くしようか頭を悩ませる。
「ポンコツ王女様………………」
「言ってやるな」
事実だから否定はしないが。
これまで戦いとは無縁の生活を送っていた王女様が突然戦えるようになるわけがない。だからこれからの育成方法を模索する為にまずはどこまできるかを調べようと思ったが、これは予想以上にダメダメだ。戦闘のせの字もできていない。
「どうするかな…………………」
一応王女様だから近接武器は控えようと思って最初に弓を持たせたけど、矢は変なところに飛んで行くし、弩は弦を引けなかったし、スリリングは逆方向に飛ぶし、ブーメランは自滅だったな……………………。
仕方なく剣を持たせてゴブリンと戦わせてみたけど、かすりもしないどころか手から剣がすっぽ抜けて危うく俺に当たりそうだったし、槍はさっきの通り……………………。
「他に何かあったかな………………?」
「あの様子だと鉄扇とかトンファーとかも無理そうだしね。チャクラムも駄目だろうし」
せめて王女様に手が馴染む武器があればまだどうにかできるんだけど、現段階ではそれすらあるかどうか疑わしい。
「どうするの? あの王女様、本当に筋がないよ?」
「わかっているよ。だけど…………………」
「まぁ、強くなろうと大事な髪をばっさり切ったからどうにかしてあげたいリブロの気持ちはわかるけど」
イサベルの言う通り、王女様は縦ロールしていたその髪をばっさり切って今では肩辺りに揃えられたミディアムになっている。
長い髪は戦いの邪魔になるから。後は王女様自身の決意の表れとして王女様は自ら髪を切った。
後にユミィさんが整えてくれたが、それでも腰ぐらいまであった縦ロールの髪はもうない。
それだけ強くなろうと決意したのだからどうにかしてあげたいけど……………………。
「あ、そういえば王女様の魔法は? 攻撃魔法ならどうにか――」
「聞いたけど使役魔法だったよ。当然スキルレベルは1。使役できてもレベル1のスライムぐらい。それも10回試して1回成功できるかどうかの確率」
「使えねー」
「言うな」
そして当然、戦闘に役に立つスキルもなく手に馴染む得物もない。早くもお手上げ状態だ。
こうなったら仕方がない。あの手でいくか……………………。
俺は近くにあるある果実をもぎ取って王女様に歩み寄る。
「王女様。これをお食べください。これを食べればステータスが上がり、スキルポイントも手に入ります」
「そんな便利な果実が……………」
目を丸くしながら果実を受け取って口にする王女様。すると、口からきらきらしたものが出てくる。
「し、師匠………………それは…………?」
「クレシタの実。食べるだけでステータスを上昇してスキルポイントが手に入るけど、奇跡のように不味い」
かつて強くなる為にウールさんに教わって3年間毎日のように食べていたクソ不味い果実。流石に王女様の口には合わなかったか……………………。
「む、無理です………………。こんなの食べれません………………」
一口食べてギブアップする王女様。
強くなる為と思って頑張って食べろ、と言うべきだろうけど顔面蒼白で涙を流されたら強くは言えないわ。
吸血鬼族の王女様だし、なにより女の人に無理強いはできない。
そうなると他の手はセシルの時のように精霊の加護をこの王女様にも与えて貰えるかどうかだけど、基本的に精霊から声をかけて来てくれないと会話ができない。精霊からは俺の姿は見えて声も聞こえるけど、俺は姿は見えないからな。
他の方法は……………あ、そういえば。
「王女様。確か吸血鬼族には対象の血を吸うことでステータスの一部を吸収したり、魔力を回復させることができると聞いたことがあるのですが、本当ですか?」
「あ、はい。正確には摂取した血の量だけステータスを上昇させて、魔法とスキルも一時的に使うことが出来ます。ですが、魔法やスキルは自分の意思では選ぶことはできません。魔力はある程度回復しますが」
ドーピングのようなものか。まぁ、吸った分だけパワーアップなんて都合のいいことはないか。
ともかく手に馴染む武器がない以上はモンスターを倒してレベルを上げることもできない。ここは基礎中の基礎である走り込みからにしておくか。
ひとまずセシルと一緒に王女様を走らせる。
王女様の訓練を終えたその日の夜。俺は自室で頭を悩ませていた。
王女様でも使える武器について。
今日一日で試せるだけの武器を試してみた結果、全てが不発。ルージュお嬢様やシャリアお嬢様のように素手での戦闘が得意なようにも見えない。
魔法を覚えさせようにもまずはレベルを上げてスキルポイントを獲得しなければいけないから今の王女様には武器は必須だ。
だけど、どんな武器にすればいいんだ? あの王女様が使える武器なんてそうとう限られて、いや、下手をすればないんじゃ…………………。
そんなことを思いながら頭を悩ませていると、コンコンと部屋の扉がノックされる。
「どうぞ」
「お邪魔します」
「なんだ、イサベルか」
「なんだとはなんだ」
部屋に入ってきたイサベルはベッドに腰かける。
「それで? 王女様でも使える武器は考えたの?」
「現在進行形で考え中……………」
「だと思った」
呆れるように息を漏らす親友に若干イラっとした。するとイサベルは。
「少し落ち着いて考えてみたら? 別に王女様が使う武器はこの世界の常識に当てはまるものでなくてもいいんだから」
イサベルの含みのあるような言い方に怪訝する。
この世界の常識に当てはまるものでなくてもいい………………? 王女様が使う武器がこの世界の武器じゃなくてもいいってことか? だけどそんな都合のいいものなんて…………………っ!?
その言葉の意味に俺は気づいてそんな俺を見てイサベルはにやりと笑みを浮かべる。
「気づいた? そう、最小限の動作で高威力の魔法と同等の威力と貫通力を発揮する現代兵器、銃! ソレを作ればいい!! 転生者であり、元はオタクであった私達ならそれができる!!」
力強い言葉で力説するかのように語る親友。要は自分も使いたいから一緒に作ろうぜ、と言いたいのだろう。確かに俺もイサベルも日本にいた時は銃器関係や現代兵器の本を読んだり、自分にはどんな銃が似合うのかと思って色々調べたりなどしてそれなりの知識はある。
材料も揃えようと思ったら揃えられる。足りない分は創造の精霊の力で生み出すことができるから後は試行錯誤しながら組み上げていけば作れなくはないだろう。だがそれは……………………。
「だけどそれは戦争事情を一変させることになるぞ? 銃という存在は知らなくてもそういう武器だとわかれば銃に似た武器を生成される恐れがある。下手をすればこの世界の価値観さえ変えてしまうぞ?」
この世界において現代兵器、もとい銃はチートだ。
あれはこの世界にある魔力や魔法などは使わず、人間の知恵と技術のみで生み出した。それはつまり、この世界でも製作方法さえわかれば製作できるということだ。
現代兵器はこの世界にとってチート同然の武器。それをこの世界に存在させるべきではないと俺は考えている。なにより今は魔族との戦争があるかもしれない時だ。下手に銃の存在を魔族に知られるわけにはいかない。警戒して銃の存在を秘匿するべきだとそう告げるが、イサベルは首を横に振った。
「リブロ。確かに銃の存在は戦争事情を一変させる兵器だけど、リブロが警戒するほどじゃないと思うよ?」
「どういうことだ?」
「私達のいた世界では銃は強い武器だけど、この世界で銃はあんまり強い武器じゃないと思う。だって考えてみなよ、レベルやステータス、魔法やスキルが存在しているこの世界でそれらがない世界で生み出された武器が通用すると思う?」
…………………言われてみれば、確かに。
「そりゃレベルが低い相手には有効だけど、少なくとも私達くらいのレベルに銃なんてよほど魔改造でもされてないと通用しないはずだよ? そりゃ警戒するべき兵器だけど銃がどんな武器が知っているのなら対処できるし、何より魔族にも私達のような転生者がいないとも限らない」
「!?」
「どうして魔族が急に他種族を侵略しようとしたのか。その可能性の一つでしかないけど、もしかしたら魔族に転生者が誕生して現代兵器を作り上げている可能性だって十分にある。そうでないと魔族が急に他種族をどうこうしようとは思わない筈だし」
イサベルの言う通り、それは否定できない。
実際に俺は人間としてイサベルは竜人族として転生した。なら魔族に特典を貰って転生した転生者がいないとは断言できない。
「王女様にも使える武器ということもあるけど、私達にも銃は持っておくべき兵器だと思う」
進言するイサベルに俺は考える。
確かにイサベルの話はあながち間違いではない。魔族が他種族を侵略するその理由についても一応は筋が通っている。それなら俺達も対抗して銃を手にした方がいざという時に役に立つかもしれない。
戦争事情を一変させ、世界の価値観さえも変えるかもしれない兵器だけど、魔族が既に銃の存在を知っているという可能性を考慮して俺達にも銃は手にしておくべきかもしれないな……………………。
「………………………わかった。ひとまずは現代兵器である銃を作ってみよう」
「そうこなくちゃ」
こうして俺達は銃の製作に取り掛かる。




