偶然的な出会い
魔族に父親、国王様が操られていることを知った王女様は国と父親を救う為に聖人に助けを求める為に遠路はるばる遠く離れたこの地までやってきた。
多くの苦難と犠牲を払い、やっとの思いでここまでやってきた吸血鬼族のヴァンピール王国第一王女、リスティア・クーファ・ヴァンピール様は我が身を犠牲にしてでもその聖人に助けを求めにきた。
まぁ、その聖人が俺なんですけど……………………。
まさか俺の知らない所でそんな御大層な二つ名が付けられていたとは思いもしなかった。
だって異世界に回復魔法と治癒魔法は必須スキルだ。だから優先的にスキルレベルを上げていった。その結果、多くの人を治療してきたけど、まさかそんな噂が流れていたとは……………………。
「きっと聡明で誠実なお方なのでしょう。事情を話せばきっと手を貸して下さる筈です。いえ、仮にそうでなくてももう私には聖人様しか頼れる人がいません。だから、必ず………………ッ!」
1人でやる気を出す王女様。その背からはやる気の炎の幻覚が見えるぐらいに王女様が熱いせいで俺は汗が止まらない。
これはまずいことになった……………………。
別に王女様に協力することは構わない。困っているのなら手ぐらい貸すし、協力だってする。けれどこれはそう簡単な問題ではない筈だ。
先程の騎士達はこの王女様を偽物と言っていたけど、間違いなくこの王女様は本物だ。
鑑定スキルでステイタスウィンドウを少し見せて貰ったけど、間違いはなかった。勿論偽装スキル、ステイタスウィンドウを偽装するスキルレベルを俺の鑑定スキルより上げていなければの話だけど、俺の場合はそれ以外でも真実を確かめる方法はある。
それは看破の精霊の力。
この力は文字通り見抜く力だ。その力を使って王女様は一切の虚実を述べていないのは既に把握済み。
目の前にいるのは正真正銘本物のヴァンピール王国第一王女様だ。
だが、今現在でそれを知っているのは俺だけ。先程の騎士も含めて多くの人が王女様を偽物として認識している。そんな人達相手にどうやって王女様が本物だと証明すればいいのか見当もつかない。
仮に俺が『この王女様は本物です! 偽物はあちらの王女様です!』と言ったところで誰も信じてくれないのが目に浮かぶ。
さっきの騎士達の反応からしてみても、下手をすれば国家反逆罪として死罪なんてこともありえそうで怖い。
…………………ひとまずアリアに相談してみよう。
まずは王女様を一時匿い、アリアと相談した後にどうするかを検討して……………………。
「見つけたぞ!!」
アリアに相談しようと考えていると先程の騎士達が落とし穴から這い上がって来た。
おいおい、結構深い落とし穴を作ったつもりなのにもう這い上がってきたのかよ……………………。
呆れ半分感心半分で這い上がって来た騎士達に少し驚くと王女様はまた俺の背に隠れる。
「貴様! 今すぐにその偽物の王女を渡せ! そうすれば貴様は見逃してやる!!」
いや、明らかに殺気立っているからどう考えても王女様を渡したら即俺を殺すつもりだろう?
でもどうするか。できることなら穏便に済ませたいけどどう見てもそんな雰囲気じゃないし、また落とすか?
そう考えていると王女様が身を乗り出して騎士達に向かって叫んだ。
「私は本物のリスティア・クーファ・ヴァンピールです! お父様は魔族に操られ、お父様の傍にいた私が偽物なんです! どうか、信じてください!」
王女様は自分の潔白を証明しようとするが、その言葉が騎士達には届かなかった。
「まだ言うか、偽物め! やはりここで我々の手によって処断してくれる!」
「そんな………………」
頑なに本物だと信じてくれない騎士達に動揺を見せる王女様だけど、俺は妙な違和感を覚えた。
いくらなんでもおかしくないか? 本物にしろ偽物にしろまずは捕える筈だ。その後に本物か偽物かを証明してからでも遅くはない。それなのにどうしてこの場で殺そうとするほど殺気立っている?
そりゃ偽物を許せない騎士達の気持ちもわからなくはない。だけどこれは過剰だ。偽物を捕まえるにしても殺すにしても騎士達が守るべき国から遠く離れたここまで来てまですることなのか?
少し視てみるか………………。
看破の精霊の力で騎士達を視る。
……………………なるほど。そういうことか。
「これ以上も問答は無意味! 即刻この場で処―――」
王女様を殺そうとする騎士達が動く前に俺が先に動いて騎士達の意識を絶たせる。
「え? ええ? い、いつのまに……………」
一瞬で俺が騎士達を眠らせたことに驚いているが、俺は王女様を手招きして地面に横たわっている騎士達の首根っこにあるものを見せると王女様は口に手を当てて目を見開いた。
「こ、これはなんですか………………?」
騎士達の首根っこにあるのはひし形の焼印。これが騎士達が異常だった原因だ。
「これは法陣魔法。恐らくは偽物の王女を捕えろもしくは殺せという暗示が込められているのでしょう。それもこんな簡略された法陣で暗示をかけられるなんて……………いったいどれだけスキルレベルを上げたらできるんだ?」
「あの、法陣魔法というのはなんでしょうか?」
「簡単に言えば描いた魔法陣によって様々な効果を発揮する魔法のことです」
描いた法陣に魔力を注ぐことで様々な効果を発揮する法陣魔法は描いた後は条件や任意で発動することができる魔法だが、まず取得する人がいないマイナーな魔法だ。
法陣を描くまで時間がかかり、魔力だって消費する。それに相手が法陣が書き終えるまで待ってくれるわけもない。罠としては有効だけどスキルポイントを割り振ってでも取得したい魔法ではない。
それをこんな簡略された法陣で暗示にかけるなんて……………………。
いったい誰が? いや今はそんなことよりこれを排除するとしよう。
俺はその焼印に触れて魔の精霊の力でそれを外部に放出させて焼印を消し去る。
魔の精霊の力は魔に関するあらゆるものを操作することができる。その気になればこの力で相手の魔法すら自由自在なのだが、他の精霊の加護違って扱いが繊細だから苦手なんだよな、これ。
一応、魔の精霊の試練には合格したけど、及第点で合格って言われたからな…………………。
まぁでもこれぐらいなら問題はない。
「さて、これでこの騎士達は問題ありません。ですが、事情が事情ですので俺について来てはくれませんか?」
この件をアリアにも相談しておきたいし。
「わ、わかりました……………。私とそれから我が国の騎士達を助けて下さった貴方を信じます。ですが先に聖人様にお会いしたいのですが………………」
「ああ、それなら心配いりませんよ? ほら」
俺はギルドカードを王女様に見せると王女様の目が点になった。
「リ、リブロ・リーベラ…………………え? もしかして聖人様…………………?」
「そう名乗った覚えはありませんがそうみたいですね」
そう答えると王女様は報われたかのように大量の涙を流しながら感謝の言葉を告げる。
「ああ、この出会いに感謝を…………………」
ただ幻の兎肉を食べようとたまたま今日森に入っただけなのに、本当こんな偶然的な出会いってあるなんて世の中わからないもんだ。




