天災
突如エルフの街に3万のモンスターの大軍勢が押し寄せようとしている。それに対処する為にエルフ達は住民の避難と住民が逃げられるだけの時間を稼ぐための戦力をギルドに集結している。
7割以上はエルフで俺達を含めた他種族が3割。それでも300人いるかいないかってところか……………………。
ざっと見渡しただけでこの人数。仮に救援が来たとしても3万のモンスターの大軍勢相手にするには無謀を通り越して死んで来いと言っているのと同じだな。
まぁ、そんなことにはさせないけど……………。
「まずはよく集まってくれた。勇敢なる同胞の者達。それと他種族の冒険者の方々。私はここのギルド長をしているロイマルという。時間がないゆえ早速で悪いが状況を確認する」
エルフの街のギルド長――ロイマルが深刻な事態に陥っている今の状況についての説明が始まった。
モンスターの大軍勢はこの街の北東方面から真っ直ぐにこの街に向かって来ている。この街に到着するまでの予測時間は残り2時間半。現在、エルフの警邏が即席ではあるも防衛ラインとして柵と結界の強化に当たっている。しかし、それでも3万のモンスターの軍勢相手には焼け石に水とギルド長は語る。
「無理に倒す必要はない。街の皆が避難できるだけの時間を稼ぐだけでいい」
ギルド長はそう懇願するように俺達に告げる。
まぁ、妥当なところだろう。
どう考えても3万の大軍勢相手にたかが数100人なんてすぐに数で押し切られてしまう。
普通なら、だが。
「ちょっとよろしいですか?」
「ん? なんだ? 人間の冒険者か? 状況が状況だから手短に頼む」
「では手短に。3万のモンスターの大軍勢についてだが、俺達だけでどうにかできる。だから貴方方は万が一の時に備えて避難の誘導を手伝ってあげてください」
俺の言葉にざわめきが生じる。
ギルド長であるロイマルは一瞬啞然とした顔になるもすぐに顔を元に戻す。
「ば、馬鹿を言うな。たかだか3人でいったいどうやって………………」
「いや、3人じゃない。4人だ。ここにはいないが戦力になるメイドがいるからそいつも連れて行く」
こういう時こそあの海龍を使わないとな。
「いやしかし………………」
「悪いが時間がない。いいから俺の言う通りにしろ」
『はい』
セシル、イサベルを除いたこの場にいる全員が首を縦に振った。
「何をしたの?」
「魅了とカリスマの精霊の力を使っただけだ。さて、駄龍メイドを捕まえて俺達は防衛ラインに行くぞ」
「はい」
「了解」
俺達以外の人達は全員住民の避難に回して俺達は北東方面にある防衛ラインに向かうその道中でアリア達と合流する。
「リブロ。いったい何が……………」
「アリア、悪い。事情は終わってから説明する。お前はエリエールさんを頼む」
「それはどういう………………………いえ、わかったわ。任せなさい」
説明を求めようとするアリアだけどその言葉を呑み込み、俺の頼みを応じてくれたアリアは恐らくは現在の状況を察して気付いたのだろう。
自分が俺達の足を引っ張ってしまうことに。
いくら元はAランクの冒険者とはいえど、アリアのレベルは54。それに対して俺達は最低でもレベルは80は超えている。そこにいるだけで俺達の足を引っ張ってしまうからアリアはただ冷静に自分ができることに応じている。
「リブロさん、セシルちゃん、イサベルさんにリヴァイさんも決して無理はしないでください」
両手を胸に当てながら心配してくれるエリエールさんに俺は言う。
「安心してください。これでもチートですから全員生きて戻ってきます」
それだけ告げてリヴァイの襟を掴んで俺達は防衛ラインに急ぐ。
「リブロ」
「どうした?」
「私、この戦いが終わったら愛人になるの」
「そんなわかりやすい死亡フラグ立てるなよ……………」
というか状況が状況なのに余裕だな、こいつは…………………。
「リブロは昔から頭に血が上りやすいからね。私が落ち着かせてあげないと」
その言葉に俺はイサベルの言う通り、頭に血が上っていることに気づいた。
日本にいた時からそうだった。俺が頭に血が上った時はいつも親友が冗談めいたことを言って落ち着かせてくれた。だから今もそんな冗談を言ったのだろう。
「ここは日本でする喧嘩じゃない。命の値段が安い異世界なんだから落ち着いて行動しないとそれが命取りになるよ?」
イサベルの忠告に俺は素直に頷く。
そうだ、落ち着け。いくらチートでも死ぬ時はあっさり死ぬ。それがこのファンタジー世界だ。
「それに私はもう親友が死ぬところなんて見たくないから」
俺から顔を逸らしながらイサベルはぽつりとそう呟く。
………………そっか。そういえばイサベルは俺が死んだ後に転生したんだ。だからその前に俺が死んだという現実を知っている。
「………………………悪い、ありがとう」
「いいよ。親友なんだから」
謝罪と感謝を送るもイサベルは笑ってそう返してくれた。
大切な人が死ぬその痛みは俺もよく知っている。その痛みをまたイサベルにそしてセシルやアリアにまで与えるわけにはいかない。
「師匠! 私は死にません! そして師匠達も絶対に死なせませんから!」
俺達と並走しながらそう言ってくれる弟子に俺は口角を上げる。
「セシル……………ああ、そうだな。頼りにしているぞ、弟子」
「はい! 師匠!」
親友と弟子に励まされて俺の心は落ち着いた。
「妾も何か言った方がよいか?」
「お前は黙って働け」
駄龍を引きずりながら俺達は防衛ラインに到着する。そこにはエルフが即席の柵や魔導技術を用いた結界を強化を行っているが、あれじゃ3万のモンスターの大軍勢相手にはあまり役には立たない。
「エルフの皆さん。貴方方も住民の避難に回ってください」
「はぁ!? お前、何を言って………………………わかりました」
ギルドの時と同様に魅了とカリスマの精霊の力でエルフを街に移動させる。これでここにいるのは俺達だけだ。
「で? 何か策はあるの?」
俺達だけになるとイサベルが作戦について尋ねてくる。
「ああ、だけどここからじゃ街にまで被害が出てしまうから俺達からモンスターの軍勢に近づくぞ」
風の精霊の力を使って俺とそれから皆を宙に浮かせてそのまま皆を引っ張るように空を飛ぶ。
「し、師匠!? そ、空に飛んで……………ッ!」
「飛空魔法? ううん、風の力で空に飛んでいるのね」
流石親友。理解が早くて助かる。
「しかしいったいどうするのじゃ? いくら主様が人間離れしておるとはいえ、3万はきつかろうに」
珍しくも正論を口にするリヴァイ。
人間離れしていることには否定できないから何も言わないが、今はお前に構ってやる余裕はないから本当に黙っていろ。
「師匠! あれ!」
セシルが指すその方向にはモンスターの軍勢が絨毯のように街に向かって行軍している。
「うわぁ、圧巻…………………」
頬に冷汗を垂らしながら俺達の気持ちを代表するかのようにイサベルはそうぼやいた。
よし、ここなら街に被害が出ることはないだろう。
「皆にはもう話したとは思うけど、改めて説明すると俺は翻訳スキルのおかげで精霊の加護を授かることができた。その結果、人間が覚えられる魔法を超える力を手に入れた」
「師匠………………?」
「精霊の力は大自然の力。使いどころを誤れば世界すら滅ぼせる。精霊の力がどのようなものか、よく見ておけ、セシル」
イメージする。
数多の精霊の試練を突破してその力を完全に自分の物にした俺だからこそ全ての精霊の力を行使することができる。
強大な精霊の加護を使って雷雲を呼び寄せ、大地を轟かせ、大気を震わせる。
魔法なんてたいしたことがない。そう思わせる圧倒的なまでの力。誰であろうとも決して抗うことさえできない大自然の脅威。その名は―――
「天災」
その脅威を解放する。
雷雲から降り注がれる落雷の雨、大地を割るほどの地震、全てを呑み込む巨大竜巻。
それらをモンスターの軍勢に解き放った。
モンスターの軍勢は落雷にその身を灰にされ、大地の底に落とされ、竜巻に呑み込まれて空高く飛ばされる。天災を前に抗う術はなし。3万はいた軍勢はあっという間に4割を切った。
「チート……………」
後ろでイサベルがそう呟いた。
ああ、その通り。俺は間違いなくチートだよ。外れスキル‶翻訳〟のおかげでチートになれた。
「もう主様だけでいい気がするのじゃが……………?」
「悪いがそれはできない。精霊の力を酷使すると世界そのものにも影響を与えてしまう。短時間で今の技をもう1回使ったらどんな厄災が起きるかわからん」
「チート能力も考えようってわけね。まぁ、半分以上は減ったから後は地道に倒していきますか」
槍をくるくると器用に回しながら戦闘態勢に入るイサベルに鞘から剣を取り出すセシル。
「主様。妾は元の姿で暴れてもよいか?」
「それがいいが、ここは海じゃないぞ?」
「問題はない。本領を発揮できる海中でなくとも雑魚の一掃ぐらい苦にもならん」
「そうか。なら許可する。存分に暴れろ」
「心得た」
人型から元の姿、巨大な龍の姿へと戻るリヴァイアサン。
「可能であれば敵の統率者は捕縛。残りのモンスターは殲滅。昼食までには終わらせるぞ」
「「「了解!」」」
上空から地上に着地する俺達はモンスターの殲滅に取り掛かる。




