何の為のチート
ひょんなことから日本からの親友であるイサベルが愛人になった。とはいえ俺はまだアリアの正式な婚約者ではないので愛人候補という形で収まり、アリアにそのことについて相談してみると即OKを貰えた。寛容というか器が広いというか本当にアリアはいい女だ。
とはいえ、何もしないままでは駄目だったようでイサベルには将来的には当主、つまり俺の護衛兼愛人として働くことで話は落ち着いた。
レベル92の竜人族が護衛をしてくれるのならこれ以上に心強いものはいない。
アリアもそのことを考慮してそう提案したのだろう。
「いや、提案した私が言うのもなんだけど、アリアって心広いね」
「だろ?」
自由気ままに生きる為に俺の愛人になることを提案したイサベルだけど、本人は本当にアリア本人から了承を貰えるとは思っていなかったようだ。
ただ、なれたらいいな、ぐらいで本当はボディーガードで妥協してくれるだろうと考えていたらしい。
それが結果的にはイサベルにとって最高の形でいい結果となった。
「愛人も妾も好きにしていいと言ったのは私なのよ? 自分の言葉は曲げないわ」
「「か、恰好いい………………」」
女に二言はない。
そんなアリアに俺達の言葉が重なった。
「ところでアリアはさっきから何を書いているんだ?」
さっきから羽ペンを持って羊皮紙に何か書いているのが気になって1枚手に取ってみる。
なになに、エルフの文化とその発展について……………………。
「エルフの文化、歴史、技術はどれも人とは違う着眼点や発想から生まれているのよ。せっかくエルフの国に来たのですもの。それなりの情報を持って帰らないと」
エルフと友好を結びながらもエルフが培ってきたものを人間の国にも活かせないかと考えていたわけね。で、今は集めた情報を羊皮紙に書いているのか。
「こんなところまで来てこんなことしなくても…………………ちゃんと休んでいるのか?」
「心配してくれるのは嬉しいけど何かしていないと落ち着かないのよ。でも安心して、休む時はしっかり休んでいるわ」
「それならいいけど無理はするなよ?」
「はいはい。旦那様は心配性ね」
クスリ、と微笑みながらからかってくるアリアに思わず顔が赤くなる。
「あー、そういえば昔からそうだったよね? 拓哉くんや真理ちゃんなんかは特に過保護っていうぐらいにお節介を焼いていたね。たまに会った時にお兄ちゃんが過保護過ぎって愚痴を聞いたなぁ」
「え、嘘!? 本当に!?」
「うん。まぁ、いいお兄ちゃんだと私は思うよ?」
俺の知らない所で親友に愚痴を言っていた弟と妹に俺はショックを受ける。
お、俺ってそんなに過保護だったのか………………?
「ただ無自覚って一番質が悪いよね」
「うっ」
親友の辛辣な一言が俺の胸に突き刺さる。
お、俺はただ兄として大事な弟と妹を心配していただけなのに……………………。
「そ、そんなことはないですよ! 師匠の優しさにきっと弟さんも妹さんも感謝しているはずです!」
「セ、セシル………………」
懸命に俺を励まそうとしてくれる弟子にほろりと涙が零れる。
「…………………妾は主様から優しさの片鱗もないのじゃが? これはいかに?」
「駄龍に与える慈悲はない。さっさと茶でも持ってこい、駄龍」
「やっぱり妾だけ優しくないのじゃ!!」
泣き喚きながらも台所に向かう駄龍メイド。すると俺達の話を聞いていたエリエールさんがくすくすと笑う。
「ふふ、毎日が賑やかでいいですね」
「あ、いつもお騒がせしてすみません」
「いえ、いいんですよ。こういう賑やかな毎日は楽しいですから」
毎日騒がしくしているのにそれを楽しいと言ってくれるエリエールさんは心なしか初めて会った時よりも笑っている気がする。
始めの頃は愛想笑いみたいな、場の空気を読んでいるかのような笑みのように見えたけど今は心からの笑みを見ている気がする。
もしどこかでシャーレを見つけたらまたこの人に会いに来ようかな……………………。
「お、お待たせしましたのじゃ」
そうこう考えているとリヴァイが茶を持ってきて皆の前に置いていく。するとアリアが。
「それで皆の今日の予定は?」
一段落できたアリアが駄龍メイドが持って来た茶を一口飲んで今日の予定について尋ねてくる。
「俺とイサベルは今日も街の外でセシルの稽古だな」
基本的に治療以外ですることがない俺達は暇を持て余している為にセシルに稽古をつけている。だから今日も昨日と同じく一日稽古で終わる予定だ。
「私は今日はこの街の図書館に足を運ぶ予定よ。エリエールさんとついでにリヴァイも一緒に」
「了解」
とりあえずお互い今日も昨日と変わらない一日で終わりそうだ。
お互いの予定を知って俺、セシル、イサベルは家を出てまずは冒険者ギルドに赴こうと足を運ぶが……………。
「やけに騒がしいな?」
ギルドはどたばたと慌ただしい。エルフのギルド職員などはあちこち動き回って冒険者の方は何か深刻な顔をしている。すると一人のギルド職員が俺達の元にやってきた。
「何かあったのですか? 随分慌てているようですが?」
「ど、どうか力をお貸しください! 我々だけではどうすることもできないのです!」
切羽詰まった顔で頼み込んでくるギルド職員の男性に俺達は首を傾げる。
「落ち着いて事情を説明してください。まず何が起きているのかを話してください」
「は、はい! じ、実はさきほど、守備砦の兵士から緊急の報告がありまして、極めて深刻な事態が発覚したのです!」
「深刻な事態?」
「さ、3万を超えるモンスターの大軍勢がこの街に押し寄せて来ているのです!!」
「「「っ!?」」」
さ、3万…………………ッ!?
「このモンスターの軍勢がこの街に接触するまで距離を考えてあと3、4時間! 我々エルフだけでは民間人の避難もままならず! どうか他種族である貴方方にもご協力を!」
協力を求めるエルフに俺は考える。
それだけのモンスターの軍勢がこの街を襲うのは考えにくい。つまりこれは統率者がいる可能性があるな。何が目的でこの街を襲撃しようとしているのかはわからないが……………………。
「セシル、イサベル。悪いけど」
「もちろん私もついていきます! その為に師匠とイサベルさんに稽古をつけて貰ったのですから!」
「まぁ、竜人族の端くれとして戦闘から逃げるわけにはいかないしね」
最後まで言うまでもなく二人はそう答えてくれた。
何が目的でこの街を襲うのかはわからない。だが、この街はシャーレの故郷でシャーレの帰りを待っているエリエールさんの家がある場所。
3万のモンスターの軍勢がなんだ? それに臆して逃げたら何の為のチートだ。
俺達は3万のモンスターの大軍勢と戦うことを決めた。




