母親
モンスターの襲撃を受けながらも俺達は順調に街道を進み、二週間とちょっとでエルフが住む国へとやってきた。人間の国や魚人族の国とは違い、自然と調和するような形で木々で建てられた建築物が多く、街の外は木々や植物に覆われていてまるで森の中央に街がある感じだ。
やっぱり種族によって住む環境や生活が違うのだろう。
それにエルフは他種族のなかでも美男美女が多いと聞いてはいたが、本当だな…………。
馬車の中からざっと見ただけでも美男美女しか見当たらない。
そう言えばエルフは魔力が高いから魔力に関する技術、魔導技術もそれなりに発展しているんだっけ?
元主人であるあの商人もその魔導技術欲しさに何度も交渉の通訳役として付き合わされた日々があったな。
奴隷時代の頃を思い出しながら俺はひとまず依頼主であるエリエール・ドリヤースというエルフに会いに行くことにする。
「まずはクエストを終わらせてから観光しようか」
「ええ、それで構わないわ」
「はい」
「うむ」
特に反対もなくまずはクエストを終わらせる為に馬車から降りて依頼主の住む家を人づてで探し始める。
「すみません。エリエール・ドリヤースという方のご自宅はご存知ないですか?」
「ん? あんたエルフの言葉がわかるのか?」
「はい。スキルのおかげで」
「そうか。見たところ冒険者みたいだし、この国に来たのはクエストか? エリエールさんの家はここを真っ直ぐ向かって左に曲がったところにある」
「ありがとうございます」
エルフの店員と思われる方に道を聞いて俺はその人に礼を言う。
こういう時翻訳スキルは言葉の壁がなくて便利なんだよな。
俺達は教えて貰った道を進んでいき、エリエール・ドリヤースの家を発見して俺は早速家の扉をノックする。
『はーい』
家の中から聞こえてくる声。少しして扉が開かれる。
「お初にお目にかかります。冒険者のリブロ・リーベラと申します。この度はクエストを受けて……………………」
そこで俺は扉を開けてきた人を見て言葉を失った。
忘れるわけがない。見間違えるわけがない。例えそれが幼少の頃の記憶だったとしても眼前にいるエルフには面影がある。
「シャーレ……………………?」
車椅子に座っている美少女エルフ。彼女の顔、雰囲気は間違いなくシャーレと同じ面影がある。
しかし、眼前のエルフは小さく首を横に振った。
「私はエリエール・ドリヤース。シャーレは私の娘です」
俺はシャーレのお母さんと出会った。
シャーレの母親であるエリエール・ドリヤースさんに家の中に招かれて俺はシャーレのことについて話した。幼い頃孤児院で寝食を共に過ごしたことも勉強を教えてことも俺の知っているシャーレのことについて全て話した。エリエールさんはその話を嫌な顔せず一つ一つ真面目に聞いてくれた。
「そうですか……………やはり」
話を聞いたエリエールさんはどこか確信染みた物言いをする。
「あの、どうしてシャーレは人間の国にいたのですか?」
孤児院にいた頃からずっと疑問に思っていたことだ。
エルフの国から人間の国まで距離がある。それなのにどうしてエルフであるシャーレが人間の国にいたのかわからなかった。するとエリエールさんが自分の足に触れながら語り始める。
「………………………もう9年以上も前の話になります。娘は人間の盗賊に攫われたのです。この足はその時に」
エリエールさんの夫は既に他界していてエリエールさん一人で娘を育てていたあの日、4歳であったシャーレと共に買い物をしているところを人間の盗賊に娘を拉致され、抵抗するも足を怪我をしてしまいシャーレを攫われてしまった。
エリエールさん自身も下手をすれば殺されそうになったようだが、エルフの警邏が駆け付けてきたことによって殺されることはなかった。だが、足はその時の怪我の後遺症で動かすことができなくなったらしい。
娘を探しに行こうにも動けない足では日常生活すらまともに送れない。
「夫が亡くなってから娘だけが私の生き甲斐でした。けど、娘が攫われたのにこの足では助けに行くこともできず、どうすることもできませんでした。ですが、1年半ほど前に娘が帰ってきたのです」
「シャーレが…………?」
シャーレが孤児院を出て行ったのは2年前。確かに時期は合っている。
それにシャーレを攫った盗賊はもしかして院長が手引きしていた可能性が高いな。幼女エルフを自分好みにする為に盗賊に金でも積んで依頼したのかもしれない。
「それならシャーレはここに………………ッ!」
この家に母親と一緒に生活している。そう思った俺だがエリエールさんは小さく首を横に振った。
「あの子は1週間でこの家を出て行きました。今でもその時の言葉を覚えています。『リブロ君を探さないと』。娘はそう言って家を飛び出したのです」
「そっか……………あいつはまだ……………」
俺の事を探しているんだな。
取り敢えずシャーレが生きていることだけはわかった。それだけでも十分だ。
「娘から貴方のお話はたくさん聞きました。優しくて面倒見がいいと。それと私の大好きな人と」
「そ、そうですか……………………」
にこやかに告げるエリエールさんに俺は思わず頬を掻く。
「こうして会って話を聞いてあの子の気持ちがわかります。貴方は私から娘を奪った人間とは思えない程に優しくて思いやりに溢れた人だということが」
シャーレ。お前の中では俺はいったいどれだけ美化されているんだ? 盛り過ぎだ。
「ここ最近、リブロという冒険者の名前を耳にしてもしかしてと思う依頼したのですけど、まさか本当に娘が話していた本人とは思いませんでした」
まぁ、似たような名前の人も結構いるし、俺ももしかしてと思ってクエストを受けたからな。
「リブロさん。長旅で疲れているでしょう? どうかこの家を我が家だと思ってゆっくりしてください」
「え、ですが………………」
「娘の大切な人を無下には扱えませんよ」
…………………そう言われたら断れにくいな。
「わかりました。ご厚意に甘えさせていただきます。ですがその前にその足を治療しますね」
俺達はエリエールさんのご厚意に甘えてこの家で暫く休ませて貰うことにした。




