家庭教師の生活5
双子のお嬢様方は互いを指してどちらかを俺の妾にしてくれとお願いしてきた。
指を向け合うお嬢様方は顔を見合わせて不服そうに文句を言う。
「シャリア。人見知りのあんたに当主は務まらないわ。当主は私に任せてあんたは先生の妾になりなさい」
「…………………や。それにお姉ちゃんは短気。すぐに殴るから向いていない」
「それはあんたも一緒でしょうが!?」
「………………………そんなことないもん」
「あるから言ってんでしょうが!?」
そう言いつつも妹に殴りかかるルージュお嬢様だが、シャリアお嬢様はそれを避けて裏拳を放つ。しかし、ルージュお嬢様はそれを防いで蹴りを放つもシャリアお嬢様はジャンプで躱して空中で一回転からの踵落としをするもルージュお嬢様は横に跳んで避ける。
何今の一瞬の攻防………………? とても8歳児の子供ができる戦いじゃないよね?
瞬く間の攻防に唖然とするもお嬢様方の喧嘩は激しくなる一方。
ってここ旦那様の書斎!?
「こら、お嬢様方」
「う」
「………………むっ」
俺は慌てて喧嘩するお嬢様方の首根っこを掴んで仲裁に入る。
「喧嘩はするなとは言いませんが、時と場所を考えてください。それと私はお嬢様方のどちらかを妾にするとはまだ決めておりませんよ」
そもそも旦那様はなに8歳児の子供を妾にしようとしているんだ。
恨めしい視線を旦那様に向けると旦那様は目を逸らした。
「ならシャリアを妾にしてよ、先生」
あの野郎、と思っているとルージュお嬢様はそう申し出てきた。
「シャリアは人見知りで甘えん坊だから誰かが必要なのよ。でも、これまで呪い子なんて言われていたからシャリアを受け入れてくる人は私達を除いて先生しかいないの。だから………………」
なるほど。シャリアお嬢様のこれまでの境遇と性格を考えて当主の座につかせるよりも俺の妾になった方がシャリアお嬢様は幸せになれる。ルージュお嬢様は姉として妹のことを想っての発言なのだろう。
「………………………それを言うならルージュお姉ちゃんがお妾さんになるべき」
だが、シャリアお嬢様は不服そうに頬を膨らませながら言う。
「…………………これまでいっぱい守ってくれた。だから今度は私の番。ルージュお姉ちゃんは先生と一緒に幸せになるべき」
そしてシャリアお嬢様もまた姉であるルージュお嬢様のことを考えてのことだ。
自身が呪い子にも関わらず、ルージュお嬢様はずっとシャリアお嬢様を守ってきた。だからその恩返しをする為にも自分が当主になってルージュお嬢様は自分の幸せを掴んで欲しいということだろう。
どちらも互いを思いやり、尊重し、大切にしているからこそ俺の妾にして欲しいとそう申し出たのだろう。
まったく双子なだけあってそっくりな思考回路だ。
俺は溜息を吐きながら二人を下ろす。
「わかりました。そんなに妾になりたいのならお嬢様方のどちらかを迎え入れます」
「「じゃ――」」
「ただし、それはお嬢様方が成人してからです」
二人はまだ8歳児の子供。将来なれるのが当主と妾だけではない。この先の未来に自分がなりたいものややりたいことだってあるはずだ。それを見つける前にどちらかを妾にすることを確定するわけにはいかない。
「それまで教えたことをしっかり守って立派な淑女になってください。そうしたら私の方からどちらかを妾として迎えに来ることをお約束します」
そう言ってお嬢様方の頭を撫でる。
「………………………わかったわ」
「………………………ん」
頷くお嬢様方。
その夜、お嬢様方を矯正してくれたお礼としてか旦那様が食堂でささやかながらもパーティーを開いた。いつもより豪華な食事やお礼の品々を受け取り、お嬢様方が眠りにつくまで話をした。
最初は色々と大変だったけど今となれば少し寂しくもある。それでも全てを踏まえて楽しい家庭教師としての生活は終わり、次の日の朝に俺は屋敷を出た。
「まぁ、ということで多少は矯正できたと思う」
「そうね。ルージュかシャリアがいずれ貴方の妾になると思うと私としては少し複雑だわ」
家庭教師としての生活を一通りアリアに報告するもアリアは少し難しい顔をしていた。
まぁ、自分の親戚がいずれ婚約者の妾になるかもしれないのだからそう思うのも無理はないが…………。
「まぁ、後はあの子達が立派な淑女になるのを願うしかないわね。貴方も愛人も妾も好きにしてもいいけどほどほどにしときなさいよ?」
「了解……………」
そもそも本当に作る気なんてないから大丈夫だとは思うけど。
「そういえばセシルとリヴァイはどうしたんだ?」
「セシルなら冒険に行っているわよ。なんでも秘宝の新しい力を試してみたいそうね」
「あ、新しい力が使えるようになったんだな」
「ええ、貴方がいない間もあの子は毎日頑張っていたわ。それとリヴァイは今は厨房で料理の下拵えをしているのではないかしら?」
相変わらずコキ使っているな。まぁいいけど……………………。
それにしても冒険か。今日は一日ゆっくり休んだら俺も久しぶりに冒険でもしてみますかね。
「ああそういえば貴方に指名依頼があったわね。私の方で預かっていたわ」
パチン、とアリアが指を鳴らすと部屋に入ってきたメイドが大量の依頼書を持ってテーブルの上に置いた。
え、これ全部………………?
ざっと見た感じは100枚はありそうなんですけど?
軽くクエストの内容を見てみたら大体が治療系のクエストばかりでこの街の外だけじゃなくて他の種族の国からもクエストが届いている。
「魚人族の国の一件もあって国内外問わず貴方の名前は世間に広がっているのよ」
うわぁ、俺も有名人になったなぁ……………………。
「これだけ名が知れ渡っているのだから貴方が探している人もすぐに見つかるわ」
「―――っ」
それを聞いて俺はようやく理解した。
魚人族の国でアリアが魚人族の怪我を治すように言っていたのも全ては俺の名前を世間に広める為。そうすればこの世界のどこかにいるシャーレが俺のことに気づいてくれるかもしれない。
全部、俺の為に……………………。
「ありがとう、アリア」
「いいのよ。私も得しているのだからお互い様よ」
それでも俺はお前に心から感謝する。
アリアと出会えてよかった。そう思いながら俺はクエストを見ていくと一枚の依頼書に目が留まった。
「……………………アリア。俺はエルフの国に行く」
それを見てそう決意する俺にアリアはそのクエストを見るも不思議そうに首を傾げるが、無理もない。クエストの内容自体は簡単に言えば怪我人や病人の治療のようなものだ。だけど俺が気になったのは内容ではなく、依頼主の名前だ。
―――エリエール・ドリヤース。
見る人が見れば別に不思議に思う人はいない。だけどドリヤースという姓は俺にとって決して無視できるものではない。だってそれはシャーレと同じ姓なのだから。
シャーレ・ドリヤース。それがシャーレの本名。でもそれを知っているのは俺を除いてあの孤児院にいたものだけ。もちろんたまたま同じ姓の別人という可能性だってあるが、それでも俺がエルフの国に足を踏み入れるには十分な理由だ。
例えその国にシャーレがいる可能性が1%以下だったとしても俺は行く。




