リヴァイアサン
俺は皆と別れてすぐに行動を開始した。
リヴァイアサンの活動は夜。ならその前に話し合いで解決できるかどうかを確かめる為に空を飛び、索敵スキルを使って探している。
流石に今日の相手はセシルには荷が重い。俺と違って海にでも落ちてしまえば大変だからな。
海龍というから海のどこかにいるとは思うけど、なかなか見つからないものだな。
海の上を漂いながらどうやって見つけようと悩んだ俺は魚達の力を借りようと海の中に潜る。
水の精霊の加護を受けている俺は水の中でも普通に息ができるから本当に精霊の加護は凄いものだ。
加護を授かってくれた精霊の感謝しながら通りすがる魚達の声に耳を傾ける。
『もうすぐあいつが起きるぞ』
『急いで逃げろ。喰われる』
『まだあの化物が深海で寝ている間に逃げるんだ』
『ばか、そっちに行くな。そっちはやつの縄張りだぞ』
リヴァイアサンの存在に魚達も怯え、できるだけ遠くへ逃げようと動いている。
あっちか……………………。
魚達が逃げている逆方向に進んでいくとようやく索敵スキルに巨大な反応を捉えることができた。
見つけた。
泳いでいくとそこには巨大な穴があり、その穴の底から索敵スキルの反応があり、俺はその穴に潜る。深海だから真っ暗と思っていたけど海藻のような植物が光を発している為に明るい。そして進んでいくと奴を見つけた。
二十メートルはある巨大な蛇のような体躯にはびっしりと堅そうな蒼い鱗が生えており、海龍というだけあってその顔はまさにドラゴンそのもの。
もはやモンスターというより怪獣だな。
『…………………人間の匂いがする』
海中に響き渡る声。リヴァイアサンは顔を上げてその黄金色に輝く瞳で俺を捕える。
「初めまして、海龍リヴァイアサン。俺は貴方と話をする為に来た」
俺がそう言うとリヴァイアサンは一瞬驚くような顔になるもすぐにその大きな口を歪める。
『ほう? 妾と言葉を交えるのか。いいだろう。話してみよ』
「どうかこれ以上魚人族を襲うには止めて欲しい。皆傷ついて毎日不安と恐怖に怯えている。もうこれ以上彼等を追い詰めないでやって欲しい」
どうにか説得しようとそう懇願するも、リヴァイアサンはそれを鼻で笑った。
『フン、何かと思えば何故妾が矮小な魚如きの為に身を引かねばならんのじゃ? そもそも数千年前に人間の勇者と共に妾を封印した魚には恨みすらあるわ』
なるほど。数千年前にリヴァイアサンを封印したのは勇者と魚人族だったんだな。だから封印された恨みがあると。
「だけどそれは封印されるようなことをしたからではないですか?」
童話ではリヴァイアサンは我が物顔で海を好き勝手に暴れていたから封印されたと書いてあった。それが本当かどうかはわからないけど、封印される理由があったのは間違いはないだろう。
『妾は海龍じゃぞ? 思うがままに欲望のままに動いて何が悪い? 弱者の戯言に耳を傾ける道理などない。妾がその気になれば魚が住む国など何度でも滅ぼせるのじゃぞ?』
それをしないのはただの気紛れってことか……………………。
するとリヴァイアサンはその大きな口を開けて俺に向ける。
『実につまらぬ話であった。妾は不快じゃ、もう消えよ』
そう言ってリヴァイアサンの口からブレスが放たれる。
魔力が込められた水のブレス。直撃すれば並大抵の相手なら木端微塵になるだろう。
並大抵の相手ならだけど。
俺はそのブレスを虫でも払うかのように手で弾く。
『なんじゃと!?』
自分が放ったブレスがあっさりと弾かれるとは思わなかったリヴァイアサンは驚愕するが、首を横に振る。
『妾としたことが手を抜きすぎたかのう? まぁよい。今度こそ消えよ!』
先程よりも強力なブレスだけど結果は変わらない。ペシ、と明後日の咆哮にブレスを弾く。
「………………………出来ることなら話し合いで解決したかったけど、そっちがそのつもりならそうさせて貰うとするか」
仕方がないと溜息を吐く俺にリヴァイアサンは癪に障ったのかその巨大な体躯を動かして戦闘態勢に入る。
『たかが人間如きが調子に乗るのも大概にせよ! 妾は海龍リヴァイアサンじゃぞ!!』
そう叫びをあげて巨躯を活かした突進攻撃。だけど…………。
『なっ!?』
俺はそれを片手で受け止めて空いているもう片方の腕でリヴァイアサンを殴り飛ばす。
『ガハッ! ば、馬鹿な…………………! 妾が、人間如きの拳に痛みを感じるじゃと! あり得ぬ!』
「どう思うのかはそっちの自由だけど、現実はしっかり見た方がいいぞ?」
『ふざけるでない! こんなこと妾は認めるぞ!! 貴様の存在諸共噛み砕いてくれるわ!!』
その大きな口を開けて無数に並ぶ鋭い牙で俺を噛み殺そうとしてくるけど、俺は溜息が出た。
まったく、手のかかる駄龍だ。
口を広げて襲ってくるその攻撃を避けて俺はリヴァイアサンの下腹部に移動してその腹に拳を叩きつける。
『ぐほっ!?』
海中から海上へ殴り飛んだリヴァイアサンの角を掴んで俺はそのまま空高くまでリヴァイアサンをつれていく。
『あ、あり得ぬ………………貴様、本当に人間なのか?』
「自分でも少し疑わしいけど一応は人間のつもりだ」
チートにはなったけど、心は人間のつもりだが、今はそれは置いておく。
「さて、リヴァイアサン。お前の話から察するにお前は自分より強い存在に会ったことがないだろう?」
『そ、それがなんじゃ!?』
「自分より強い存在に会ったことがない。だから強い自分が何をしても許される。違うか?」
『それがなんじゃと聞いておる!?』
「うんまぁ、弱肉強食がお前のルールで合っているかなと思ってな」
こいつのレベルは82。確かに強いけどレベルだけならセシル以下だ。恐らくはこれまで自分よりレベルが弱い者ばかりを倒して強くなったのだろう。だから自分が誰よりも強いと思い込み、危機感や警戒心が全くない。まぁそれでも普通のカテゴリーにすれば強い部類には入るけどチートである俺にはただの雑魚だ。
「ならお前のルールに従って俺がお前に何をしても許されるってことになるけどいいよな?」
『そ、それは………………』
「どうした? お前がこれまでしてきたんだろう? なら当然、される覚悟もあるってことだよな?」
『わ、妾が悪かった! もう二度と魚人族には手を出さぬと誓う! だから許してたもう!』
あらら、思っていたより早く降参しちゃったか。まぁ、される覚悟も持っていなかった駄龍だからしょうがないけど。
「何か勘違いしていないかな? 俺は別に怒っているわけじゃないから許しを懇願されても意味がないし、そもそもそれじゃ根本的な解決にはならないと思うんだ」
『な、なら妾はどうしたらいいのじゃ!?』
「…………………いっぺん死んでみる?」
『ひぃ!? ど、どうか命だけは!!』
「安心しろ、冗談だ。別にお前の命に興味なんてないよ。でも魚人族の国から討伐命令を受けているし、このままお前を解放しても魚人族の皆が納得してくれないと思うんだよ」
本当にどうしようか悩むな俺にリヴァイアサンが言ってきた。
『なら妾はお主に絶対の忠誠を誓う! そうすれば妾の命は助かるし、お主ほどの実力者なら魚、いや、魚人族の者達も納得するであろう!』
ふむ、確かにそれは悪くない提案だ。
こいつの手綱を俺が握っていれば俺の実力を知っている魚人族も納得するだろうし、わざわざこいつを殺す手間も省ける。
だけどそれには首輪が必要だな。
「オッケー。その提案を受け入れる。だけどその為に首輪をつけさせて貰うぞ」
呪いの精霊の力を使って俺はリヴァイアサンにある呪いを施すと呪いの証としてリヴァイアサンの首には鎖のような紋様が浮かび上がる。
『こ、これは…………………ッ!』
「呪いだ。一つ、俺の許可及び正当防衛以外での攻撃を禁止する。二つ、俺の命令には絶対服従。三つ、殺害の禁止。これを破ったら体中に激痛が走るからしっかり守るように」
『こ、心得た………………』
頷くリヴァイアサンに俺はひとまず海上まで降りるとリヴァイアサンを解放してあげる。
『うぅ………………妾はとんでもない者を敵に回しもうた』
しくしくと泣き崩れるリヴァイアサンを従えさせることができたのはいいけど、どうやって女王様の元に連れて行こうか。流石に言葉だけで説得するのは骨が折れそうだし。
「リヴァイアサン。お前、人型にはなれるか? なれるのならしろ」
『う、うむ。わかったのじゃ』
するとリヴァイアサンの身体が魔力の繭のようなものに包まれて人が一人は入れるぐらいの大きさになると魔力が一気に霧散した。そしてそこには二十代前半ぐらいの美女が立っていた。
海のように蒼い髪に白色のメッシュを入れた黄金色の瞳を持ち、頬と首筋には鱗がある。そして女性なら誰しも羨ましがる見事なプロポーションをもっているのだが………………見事なまでの素っ裸だ。
「服はどうした?」
「どうして妾が服を着なくてはならぬ?」
そんな着なくても問題がないように言わないでくれ。
「着ろ。命令だ」
創造の精霊の力で服を創ってそれをリヴァイアサンに投げ渡すと、リヴァイアサンは渋々といった感じで服を着る。
さて、それではこの駄龍のことについて女王様に報告するとしますか。




