魚人族の国へ
魚人族の国に出現したとされる巨大なモンスター。そのモンスターのせいで多くの魚人族は犠牲になり、魚人族の王様は他種族の国に救援要請を出した。
俺達は魚人族の国を救う為に、そしてシャーレを見つける為に魚人族が住む国に向かっている。
「そういえば魚人族ってどういう種族なんですか?」
秘宝を腰に携えて馬車に揺られながらセシルがそう言ってきた。
「魚人族は魚の特性を持つ人だ。ヒレもエラもあるけど陸の上でも生活することができる種族だ。だからその種族の特性を活かして漁猟をして他国に輸出しているんだよ」
「……………師匠、詳しいですね」
「一度、行ったことがあるからな」
まだ奴隷だった頃魚人族との通訳としてあの商人と共に行ったことがある。海の近くだから潮の香りが凄かった。あと、魚も美味かった。
「だけど今は例の巨大モンスターのせいで漁獲量が減っているし、魚人族にも被害が出ている。いざという時は頼りにしているぞ、弟子」
「はい! 秘宝もありますし、師匠と同じ精霊の加護もありますからどんな相手でも頑張ります!」
気合を入れるセシルに俺は微笑ましくも思う。
セシルには勇者としての資質がある。そして秘宝という強力な武器を手に入れた。今は大丈夫みたいだけど油断や慢心をしないように注意しておくとしよう。
そのせいで万が一に、ということにもなって欲しくないしな。
「ああそれと、セシルは知らないようだから教えておくけど、魚人族の男性に会ってもいきなり攻撃するなよ?」
「え? どういう意味ですか?」
「言い方は悪いけど、魚人族の男性は見た目は魚の化物なんだ。だから一昔前には魚人族の男性はモンスターとして討伐されかけたこともあったんだよ」
「そうなんですか……………………それなら女の人は?」
「女性の場合は下半身が魚で上半身が人の姿をしているんだ」
まぁ、ぶっちゃけ人魚だな。
「女性は成長するにつれて尾鰭が二股になって俺達人間のように陸で生活ができるようになるんだよ」
「へぇ~知りませんでした。でもなんでですか?」
「さぁな。環境に順応する為にそういう進化を遂げたから、かな?」
まぁ、俺もあくまで聞いた範囲でしか知らないけど。
「魚人族の国では魚もだけど音楽も盛んな国よ」
俺の隣に座っているアリアが俺に続いて魚人族のことについてセシルに教える。
「歌、ですか?」
「ええ、魚人族の女性の歌はとても美しくて聞き惚れてしまうほどの美声なのよ。元々、魚人族の女性の歌は相手を魅了したり、大津波を引き起こしたりすることができる特殊な力が込められているの」
「こ、怖いですね……………」
「そうね。でもそれはずっと昔の話で今はそれほどの力を持つ魚人族の女性はいないみたいなの。きっと長い年月でその力も退化していったのね。でも、その美声は今も昔も変わらず、その歌を聴くためだけに魚人族の国に足を運ぶ人は今もいるわ」
「おぉぉぉ………………私も聞いてみたいです!」
「きっと聴けるわ。だから早くお仕事を終わらせましょう」
「はい!」
元気よく頷くセシルにアリアは微笑するも、その話には続きがある。
その美声を金儲けにする輩もいる。魚人族の女性を攫って奴隷にして売り捌く人も少なからず存在している。アリアは話さなかったけど、世の中には他者の命を食い物にする人もいるってことだ。
俺を奴隷として売った院長のようにな……………………。
精々シスター共々牢獄で反省して貰いたいものだ。
「ところでアリア。魚人族の国まであとどれぐらいかかるんだ?」
「そうね。順調に行けば一週間後ってところかしら」
「結構かかるな」
「仕方がないわよ。モンスターや盗賊に襲われないように極力安全なルートで移動しているもの。まぁ、仮に何があったとしても何も問題はないでしょう」
そりゃそうだ。
この馬車にはチートである俺に秘宝を持つセシル。そして今は引退しているけど元Aランク冒険者であるアリアまでいるんだ。これだけの実力者がいる馬車はそうはないだろう。
念の為に索敵スキルを発動させているし、なにかあればすぐに動ける。
「!?」
すると早速、索敵スキルに反応があった。
「何か大量のモンスターがこっちに向かって来ている。数はおよそ30。大きさからして前にアリア達と一緒に倒したティラノボアだ。凄い勢いでこっちに向かっている」
「魔猪ね。わかったわ」
俺の言葉にアリアはすぐに馬車を止めさせて降りる。すると砂煙が目視できるほど近づいて来ているのがわかる。
前みたいに1体ずつ倒していけば馬車にまで被害が出てくるかもしれない。ここは精霊の力で一掃するか……………。
向かって来る魔猪を精霊の力で一掃しようと考えていると。
「私に行かせてください!」
セシルが秘宝である剣を鞘から抜いてそう俺達に言った。
「倒せれるのか?」
「はい! それにこの秘宝の力を試すいい機会です」
自信満々に答えるセシルに俺とアリアは顔を見合わせて剣を見る。
俺もアリアも秘宝であるその剣がどれほどのものか見てみたい。まずかったら参戦すればいいと思って俺もアリアもひとまずセシルに一任することにした。
近づいてくる魔猪の姿が見えてくるとセシルは剣を地面に突き刺す。
「茨の棘剣!」
すると地面から無数の茨が出現してそれが魔猪の身体を縛り上げ、串刺しにしていく。そして全部で30体はいる魔猪をセシルは1体残らず茨の餌食にした。
この茨………………そうか、あの時の茨か。
見覚えのある茨に俺はすぐに気付いた。これはあの空間で出てきた茨だ。
「凄いな、セシル。もうその秘宝が使えたのか」
てっきりまだ全然使えないものとばかり考えていた。だけどセシルは首を横に振った。
「あ、いえ、実は使えるのがこれだけなんです………………。他にも何か能力があるみたいなんですけど、どういうわけか使えなくて………………」
他の能力が使えない? まぁ、秘宝は謎が多い。ゆっくりと使いこなせるようになっていけばいい。最悪の場合は普通の剣としても十分使えるから問題はないだろう。
「さて、それじゃ先に進むか」
そうして再び馬車に乗って俺達は魚人族の国へ向かうのであった。




