勇者の資質
辺り一面に青白い輝きを放つ花達は全て人やモンスターを養分にして発光している恐ろしいものだとわかった俺達は一刻も早く養分にされる前にここからの脱出を決意する。
あの桃みたいな果実を食べても何の変化がない所を見ると精霊の加護を受けている俺は恐らくは問題はない。
だけどセシルは違う。いくらさっきのゴブリン達のおかげでレベルが一気に上がったとはいえ、危険なことには変わりない。
どうにかしてここから脱出を………………。
「!?」
「な、なに!?」
どうすれば脱出できるのか、と一考していると突然大地が震えた。
地震が発生して地面が裂け、そこから無数の茨が出現する。
「…………………どうやらなにが何でも俺達を養分にしたいみたいだな」
実の危険性に気付いた俺達を強制的に養分にしようと無数の茨が一斉に襲いかかるが…………。
「だが、悪いな」
俺は全ての茨を一撃で焼き払う。
「チートなんだよ、こっちは」
炎の精霊の力で全ての茨を焼き払う。だが、裂け目から再度茨が出現するも、俺は地面に手をついて土の精霊の力でその裂け目を閉じる。
「師匠……………凄い……………」
「まぁ、これぐらいはな、と」
俺はセシルを抱えて風の精霊の力で空を飛ぶと、俺達がいた場所から土の棘が突起していた。あのままあそこにいれば串刺しになっていたな、危ない。
だけどこれだけでは終わらない。今度は地面から巨大な花が出現して光を放ってきた。それを避けると直撃した地面は溶けて穴ができている。
おいおい、ソーラービームかよ……………。
若干驚きながらもその巨大な花も燃やす。すると今度は植物ではなく小型犬ぐらいの大きさの蜂が襲いかかってくる。
「しつこい!」
その蜂に魅了の精霊の力を使って互いを攻撃させ合う。
どれだけ俺達を養分にしたいんだよ、ここは。
だけどこのまま後手に回っていればキリがない。どうにかこちらから先手を取らないとセシルを守り切れなくなる。
こうなったら仕方がない………………。
「全部焼き払ってやる!」
炎の精霊の力を発揮して獄炎を作り出し、その獄炎の力を持って花畑を火の海に変える。青白い輝きを放つ花達は炎によってその存在ごと消えていく。
すると花達を焼き払われたことに怒ったのか、燃え上がる炎のなかからそいつは姿を現した。
一言で例えるのならそれは巨大な亀だ。
だが、どう見ても可愛らしい亀ではない。顔はまるでドラゴンのように凶暴で鋭い牙が生えていて、その巨体を支えられる太い脚を持ち、甲羅には青白い輝きを放つ樹木が生えている。
その亀は怒りに満ちた目で俺を睨んでいる。
「どうやらここの主みたいだな……………」
地中に潜み、姿を隠していたみたいだけど流石に花達を燃やされて怒って出てきたか。
だけど好都合。後はこの亀さえ倒してしまえばここから脱出することができるかもしれない。
炎の中を平然としているところを見ると炎には強いみたいだが、それ以外の属性全てを一度に叩きつけてやれば流石に生きてはいない筈だ。
レベルは90。思っていたより高いけど俺の敵じゃないな。
すぐに終わらせて………………。
「待ってください! 師匠!」
精霊の力を一気に解き放とうとした瞬間、セシルが制止の声を投げてきた。
「あのモンスターを私に倒させてください!」
「…………………ダメだ。危険すぎる」
いくらここでレベルが上がったとはいえ、まだあいつの方がレベルは上だ。格上の相手をセシルにぶつけるわけにはいかない。
「確かに師匠ならあのモンスターなんて簡単に倒せれると思います。ですけど、それじゃ私が強くなれません。強くなるには自分より強いものとも戦う必要があるのではないですか?」
「それは、まぁ………………だけど」
「師匠の弟子を信じてください」
真っ直ぐ強い瞳で見てくる弟子。その強い瞳に俺は小さく息を吐いた。
ここで弟子の頼みを断れば俺はセシルの事を信用していないことになっちまうな………………。
「わかった。だけど、危なくなったら俺が倒すからな」
「はい!」
あのモンスターと戦う許可を出した俺はセシルを地上に下ろす。だけど剣に精霊の力を少しだけ与えておく。今のセシルの剣じゃまともに戦うこともできないしな。
だけど、これまでのゴブリンとは違ってやつは確実にセシルよりも格上の相手だ。いったいどうやって戦うんだ?
セシルの戦いを見守りながら怪訝すると、セシルは剣を構えて亀の前に立つ。
亀もそんなセシルの相手をするかのようにセシルから目を逸らさないで身構えている。
恐らくは自分より弱いと判断しているのだろう。俺もだけど迂闊にあの桃みたいな果実を食べた間抜けだからな。だからセシルを倒して次に本命である俺を殺そうと考えているのかもしれない。
要はセシルは自分にとって取るに足らない存在だと認識している。
そんな弟子を見下す亀にセシルはあるスキルを発動させる。
「限界突破!!」
発動と同時にセシルは爆発的な速度で亀に接近。その凶暴な顔を一閃。亀の左眼から光を奪った。
『ぐぁぁああああああああッッ! わ、我が眼が、おのれ、人間の小娘が!!』
突然目を斬られたことに苦痛の叫びをあげて、怒り狂う亀は甲羅にある樹木から茨を生やして攻撃するもセシルはそれらを全て避けて今度は足を攻撃する。
「硬い!」
だけど傷は与えても致命傷には至らなかった。
それでもセシルは圧倒的な速度で亀の攻撃を躱しては攻撃を繰り返して着実にダメージを与えていっている。本来、レベルが低いセシルの方が不利なのに押しているのはセシルが発動させた『限界突破』のスキルのおかげだ。
『限界突破』。そのスキル名の通り、自分の限界を突破した力を発揮できる。
魔力を消費しながら一時的にステータスを何倍にも上げるスキル。スキルレベルが高ければ高いほどに何倍から何十倍の力を発揮することができるが…………………使用後はその分弱体化してしまう諸刃の剣だ。
メリットとデメリットがはっきりしているこのスキルは普通は誰も取得しようとは思わない。いくら強くなれたとしてもそれは一時的なパワーアップに過ぎないからそんなスキルを取得するぐらいなら他のスキルを取得する。
だけどセシルはそのスキルを取得していた。限界突破を発動している今の状態から見るに恐らくはスキルレベルも上げているはずだ。さっき一気にレベルが上がった時に得たスキルポイントをそのスキルに割り振ったのかもしれない。
「無茶をするな……………」
限界突破の効果が切れるのが先か、あの亀を倒すのが先か。どちらにしてもこの戦いの決着はすぐにつく。
「ヤッ!」
『ムッ! 小癪な!』
死角から亀の首を狙うセシルだけど亀は己の死角を常時警戒してセシルの一太刀を躱して顎を開けてセシルを食い殺そうとする。
「《フラッシュ》!」
『ムグッ!?』
閃光で視覚を完全に潰したセシルは亀の顔に何度も傷を与えるも駄目だ。
ダメージは蓄積されているだろうけど、あの亀の防御力が高過ぎる上にセシルには決定打がない。
足を攻撃しても硬すぎて今のセシルでは掠り傷ていどでしか与えられないし、唯一刃が入る顔や首でも警戒えて確実な致命打を与えさせてくれない。
『舐めるな! 小娘!』
怒りに吠える亀が樹木から青白い輝きを高めると思いきや、その光は縦横無尽に放出した。
大量の魔素、魔力の源が大量に蓄積しているその光はただ放つだけでも高い威力を発揮する。いくらステータスを何倍にも上げているセシルとはいえど、一撃でも受ければほぼアウトだ。避けるしかない。
その攻撃を避け続けるセシル。けれど亀はその攻撃を止めることなく放出し続ける。
すばしっこいセシルが相手なら質より量での攻撃を選択して放出を止めない。攻撃が続く相手にセシルは避け続けるのが精一杯で自身が攻撃に転換することができない。
だけどこのままでは限界突破の効果が切れてしまう。
どうすればセシルが勝てる? そう考えていると声が聞こえた。
『リブロ。私の声が聞こえますか?』
この声は…………………。
「光の精霊か……………」
『そうですわ。まさかこんなところで再会できるとは思いもしませんでしたわ』
声の主は光の精霊。かつて俺に加護を与えてくれた精霊の一体。
「どうして精霊がこんなところに?」
『私達精霊はどこへでも行くことができますの。それが異界でも変わりませんわ』
なにそれ、初耳なんですけど? まぁ、でも今は暢気に精霊と話をしている時じゃ………………。
「光の精霊! お前に頼みがある!!」
『え? 突然どうしまして?』
「セシル、あそこで戦っている女の子にお前の加護を与えてやってくれ!」
精霊の加護。それを授かっている俺だからこそその力がどれだけ凄いものなのか良く知っている。
その力があればセシルは確実にあの亀を倒すことが出来る。
『いいですわよ』
「断るのはわかっている! だけど…………え? いいの?」
てっきり断ると思ったのに。
『せっかくの人間のお友達ですもの。お友達のお願いは叶えてあげますわ』
すると光の玉がセシルに吸い込まれて行くように身体の中に入って行った。
『これであの子にも貴方と同じ加護を受けましたわ』
「ありがとう」
本当に精霊達には感謝だ。神の代わりに精霊を信仰する宗教でも作ろうか?
まぁ、今はそれよりも。
「セシル!! 思い浮かべろ! お前にとっての光を! 何よりも強い光の存在を思い浮かべるんだ! それがお前の力になる!!」
「はい!!」
俺の言葉を聞いたセシルは動きを止めて瞳を閉ざす。
『愚かな! 我の前で動きを止めるとは!!』
だけどその隙を見逃す亀ではなかった。その太い脚でセシルを踏み潰そうとする。
しかし―――
セシルから発する強烈な光が結界のようにセシルを守った。そしてセシルの剣には白く眩しい光が集束されていく。
「なんだこれは…………?」
その光に俺は驚愕と困惑に包まれる。
同じ光の精霊の加護を受けている俺とは桁外れの光力。精霊の試練を受けてある程度は慣れた今でもこれだけの光力を発揮できない。それを練習もしないでぶっつけ本番でこれだけの光力を発揮するなんてどうなっているんだ?
『加護にも相性というものがありますの』
疑念を抱く俺に光の精霊が教えてくれた。
『与えられた加護と本人の資質、本質との相性が良ければ与えられた加護の力はその何十倍から何百倍にも跳ね上がりますわ。そしてそういう人間はいずれはこう言われるわ。勇者と』
「え? それってつまり……………………」
『あの女の子には勇者としての見込みがあるということですわ』
「マジですか……………………」
『マジですわ』
驚きのあまり俺は一瞬思考が停止した。
ただの村娘の女の子が実は勇者になるかもしれない資質を持っていたなんて誰が思うだろうか。
驚愕に包まれながらもセシルと亀の戦いはついに決着をつこうとしていた。
純白の光を宿すセシルの剣。そこから感じる威力に後退りする亀は突貫する。
『グォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』
巨体という武器を最大限まで活かしたその突進。普通の人間が直撃すれば間違いなく即死は免れないだろう。アリア達でもこの突進の前では避けるしか選択肢はない。けれど、セシルは剣を構え――――
「光刃破!!」
放たれるは光の刃。
その刃は甲羅ごと亀を一刀両断する。たった一撃で自分よりレベルの高い亀を倒したセシルの剣は役目が終えたかのように砕け散るもこの戦いは間違いなくセシルの勝利だ。
「やったぁぁぁああああああああああああっっ!!」
勝利したことに両腕を上げて喜ぶその姿に微笑ましく見守っていると亀の甲羅にある樹木が枯れてそこから一本の剣が出現した。
青白い輝きを放つ剣。見ただけでその剣がどれだけ強大な力を秘めているのかわかる。
間違いない。あれが秘宝だ。
本当に実在していたんだ。
「し、師匠……………………あれ……………………」
「ああ、倒したお前のものだ。抜いてこい」
「はい!」
限界突破の副作用で弱体化しているのにその剣を見て元気に走るその姿に微笑む。
そうしてセシルは剣を抜いて秘宝を手に入れた。




