帰るべき場所
アリアさんの呪いを解く為に止む得ずにキスをしてしまったことからアリアさんとお付き合いすることになった俺はひとまずクエストの達成をギルドに報告後、アリアさんの家に招かれた。
冒険者に身を堕としたとはいえ、公爵家の令嬢でもあるアリアさんの家はアニメや漫画で見たことあるような豪邸で何人も執事やメイドがいた。
そしてごくごく平凡な平民である俺とセシルは身が縮むような思いで居間に招かれてソファに腰を落ち着かせている。
こんな豪邸に足を踏み入れるだけでも落ち着かないけど、俺はともかくただの村娘であるセシルはもはや今にも卒倒してしまいそうだ。
頼むから師匠を置いて先に逝かないでくれよ?
「さて」
紅茶を嗜み、一息ついてからアリアさんは口を開いた。
「今後の事なのだけど」
「はい。えっと、俺とアリアさんはお付き合いをするということでよろしいのですか?」
「ええ。あんなことをされたのですから責任は取って貰うわ」
あ、この人マジだ。
ニッコリと微笑むも目は本気と書いてマジだ。
「で、ですが事前に不快な思いをさせると……………」
「あんなことをされるなんて誰が想像できるのかしら? それに呪いを解く為とはいえ、無断で公爵家の唇を奪ったのだから本来なら良くて鞭打ちもしくは処刑だけどそちらの方がよかったの?」
「それは……………………ほら、俺は平民ですし、身分だって」
「安心しなさい。貴方の実力なら例え身分が違えどいずれはその実力を買われて爵位を与えられても不思議じゃないわ。爵位持ちになるのが少し早まっただけよ」
「まさか……………いくら実力があるからといっても」
「強さは財産よ。実際にAランク以上の冒険者が爵位を持って貴族に迎えられた実例もあるわ」
「ほ、ほら、まだお互い事をよく知りませんし」
「これから知っていけばいいわ。それに私は人の見る目はあるつもりよ? 貴方が他の男とは違うのはすぐにわかったし、貴方は並外れた治癒魔法も取得しておきながら怪我人から金を巻き上げるようなことはしない善人だということも把握しているわ」
「……………………」
「他にもまだ何か言いたいことはあるかしら?」
「……………………ありません」
完全論破されて俺は首を縦に折るしかなかった。
くっ、まさかこんなことになるとは思いもしなかった。いや、よくよく考えれば異性の唇を奪う行為そのものがおかしいか。奴隷生活で色々と感覚がおかしくなっているからたいして気にしなかったが今後は気をつけよう……………………いや、もう遅いか。
「そんな嫌そうな顔をしなくても悪いようにはしないわよ。貴方のおかげで呪いから解放もできたのだから感謝しているわ」
「はぁ、どうも……………」
「貴方が成人したら私と正式に婚約を結んで貰うけど、その前に貴族としての礼儀作法やマナー、それからダンスなどを覚えてもらうわ。覚悟しておきなさい」
「はぁい……………」
人生詰んだ、とはきっとこのことを指すのだろう。
この世界での成人年齢は15歳。今は13歳だから二年間で貴族としてのマナーなどを学び、それが終わればアリアさんと婚約。そして結婚。貴族での生活が俺を待っている。
はぁ、奴隷生活といい俺の第二の人生は何かに縛られて生きていかないといけないのだろうか?
そもそもこの人はそれでいいのだろうか? ちょっと訊いてみるか。
「アリアさんは本当にいいのですか? 自分より年下の平民、それも好きでもない男と婚約しても」
「………………そうね。貴方以外の人ならこんなことは言わないわ」
「え?」
「ユミィが私を庇ってレッドドラゴンの攻撃を受けて瀕死の状態だった。あの時の私はなりふりなど構っていられなくてただユミィを助けたい一心だった。きっとあの時、ユミィの傷を治すためなら何を要求されてもそれに頷いていたわ。それこそ身体で払え、と言われたらそれを断ることもできなかったでしょう」
淡々と語るアリアさん。
「それでも貴方は何も要求してこなかった。お金でもなんでも要求することができた筈なのにそれをしなかった。そして呪われていた私を救ってくれた。そんな優しい貴方に好意を抱くのは当然ではなくて?」
「それは、まぁ………………」
「安心しなさい。変に貴方を縛ろうとはしないわ。何人愛人を作っても文句は言わないつもりよ」
それは冗談なのだろうか? 本気なのだろうか?
まぁでも、この人が本気だということはよくわかった。
「……………わかりました。俺なんかでよければアリアさんとお付き合いさせて頂きます」
「ええ、よろしくね」
異世界に転生して俺は初めての彼女ができた。それも貴族令嬢の。
「それでこれからはどうするのですか?」
この人の目的は呪い解くこと。けれど呪いが解けた今はSランクになる必要も冒険者を続ける必要もなくなった。
「…………………そうね。せっかくAランクまでなって惜しいとは思うけど、冒険者稼業は引退するわ。やることもできちゃったし」
まぁ、そうだろうな。でもそれが一番いいと思う。
「まずは手の届くところから始めるとするわ。貴方はどうするの?」
「俺はまだ、冒険をするつもりです。それにやらなければならないこともありますから」
シャーレを探すこと。それとウールさん達の仇を取ること。
それだけは絶対に成し遂げてみせる。
「そう。でもここはもう貴方の家でもあるのだからちゃんと帰って来なさい。いいわね?」
「わかりました」
「それと私と話すときはちゃんと名前で呼ぶこと。あと敬語を使わないように」
「わか……………わかったよ。アリア。ちゃんとここに帰ってくる」
「ええ」
微笑しながら頷いてくれるアリアに俺は帰るべき場所ができたことに思わず笑みを溢してしまう。
帰るべき場所があるというだけでこんなにも嬉しいものなんだな。




