勧誘
Bランクに昇格した俺は指名依頼を受けて多くの人を治療した。そして今日も冒険者ギルドに足を運んでクエストを受けようと思った時。
「リブロ。少しいいかしら?」
「はい?」
そんな俺にアリアさん達〈高潔の薔薇〉の皆さんが声をかけてきた。
「仲間を助けてくれたお礼とそれから大事な話がしたいの。少し時間を頂けないかしら?」
「ええ、いいですよ」
ギルドにあるテーブルに腰を落ち着かせて俺とアリアさんは対面するように座ると、アリアさんの横にいる水色の髪をした女性が頭を下げてきた。
「助けて下さりありがとうございました。なんとお礼を申し上げればいいのか。貴方様は私の命の恩人です」
「いえいえ。困った時はお互い様ですよ」
「それでも私からもお礼を言わせてちょうだい。私の仲間を助けてくれてありがとう」
美女二人からのお礼というのはなんとも甘美なものか。
「それで何かお礼をしたいのだけど、何か欲しいものでもあるかしら? できる限り用意するわ」
欲しいものと言われてもな………………ああ、そうだ。
「俺はシャーレという俺と同じぐらいのエルフの女の子を探しているんです。何か心当たりはないですか?」
シャーレのことについて何か知っていると思ったけどアリアさんは申し訳なさそうに首を横に振った。
「ごめんなさい。聞いたこともないわ」
「そうですか………………それでしたらもう一つ、人間以上の魔力、それこそ化物と呼ぶに相応しい存在に会った事はありますか?」
ウールさん達の仇である唯一の手掛かり。何かこれについて情報が得られると思って訊いてみた。
「人間以上の魔力となると、エルフもしくは竜人族か魔族かしら? エルフは高い魔力を持っているし、竜人族は高い身体能力と魔力が備わった戦闘種族で魔族は魔力だけならエルフよりも優れていると聞くわ」
「竜人族と魔族か…………」
どちらかと言えば魔族の方が怪しいけどまだ情報不足だ。これだけで即決はできない。
「ごめんなさい。あまり力になれなくて」
「いえ、気にしないでください」
知らないのなら仕方がない。地道に探していくとしよう。
金に余裕もできたし、一度エルフの国まで行ってみるのもいいかもしれない。俺がシャーレの両親を探していると思って動いているかもしれないし。
「そのエルフの女の子の件については何かわかれば教えるわ」
「はい。よろしくお願いします」
「それよりも今日は貴方に大事な話があるの」
「俺に? なんですか?」
「私のパーティーに入らないかしら?」
それはあまりにも直球な勧誘だった。
「いえ、正直に言えば貴方が欲しい。私達でも苦戦したレッドドラゴンを単独で討伐したその実力。そして重症であったユミィの傷を治した治癒魔法。戦力としても、治療師としても申し分もない。貴方がパーティーに入ってくれれば私達はSランクになるのも夢じゃないわ」
まぁ、そりゃチートですから。だけど…………。
「俺が貴女のパーティーに入るメリットがありませんが?」
「ちょっとリーダーの誘いを断る気!?」
不意にアリアさんの後ろでずっと黙っていた赤髪の女性が突っかかってきた。
「レノア。黙りなさい」
「だってリーダー! こいつは―――」
「同じことを二度も言わせないで」
アリアさんの威圧が入った言葉に委縮して一歩下がって黙り込んだ。
「うちの者がごめんなさい。さて、貴方が私のパーティーに入るメリットについてだったかしら?」
「はい。正直に言いますが、貴女のパーティーに入るより俺一人の方が効率的です」
「そうね。それは否定しきれないわ。貴方はそれだけの実力を持っているのだから」
そこはあっさりと認めるんだな。少しは後ろに人みたいに否定すると思っていたのに。
「でも、いくら貴方が強くても一人では限界があるわ。これは先輩としての助言よ。だからこういうのはどうかしら? 正式にパーティーに入る前に臨時で私達のパーティーと一緒に行動を共にするの」
「お試し期間のようなものですか?」
「ええ。その間に私のパーティーに入るかどうかを決めてちょうだい」
正直女性だけのパーティーに入るのは肩身が狭くて嫌だけど、アリアさんの言っていることにも一理ある。
いくら強くても一人ではできないことだってあるだろうし、ここでパーティーで行動できるようになるのも一つの手だ。臨時だからいつ辞めてもいいし、デメリットもない。
「報酬は山分け。貴方が受けたいクエストがあるのならそちらを優先してもいいわ」
「まぁ、そういうことでしたら断る理由もないですね」
「決まりね」
手を交えて握手する。
「それでそちらの今日の予定は?」
「2~3日は休みを取るわ。治ったとはいえ、しっかりと休養は取らせないと」
「も、申し訳ありません……………」
まぁ、傷は治したけど死にかけていたから当然だな。傷は治せても心の傷までは治せないから。
「それとは別にリブロ、貴方が初めてよ? 私の誘いを断った人は。正直断られるとは思わなかったわ」
「まぁ、肩身が狭いと言いますか、男が俺だけというのは気まずくて………………」
「それでも入りたいという異性はたくさんいるのよ? まぁでも、今はそれでいいわ。それじゃあね」
話が終えてアリアさん達はギルドから出て行くその後姿を俺は苦笑しながら見送った。
あれは俺を諦める気がない笑みだ。絶対に俺をパーティーに入れようとしてくるな。
それにしても…………………。
「仲間か…………」
今まではずっとウールさん達が俺にとっての仲間だった。またあんな風に笑い合える仲間が欲しい気持ちはある。でも、焦る必要はない。俺は俺のペースでやれることからやって行こう。
「さて、クエストに行きますか」
気を取り直して俺はクエストを受けに行くと受付のお姉さんに呼ばれた。
「リブロさん。また指名依頼が届いていますよ」
「あ、はーい」
受付のお姉さんに呼ばれて受付場の方に向かうとその依頼書を俺に渡してくる。
「リブロさんの治癒魔法の腕前はもう街の外にまで広がっていますよ? なんでも欠損した手足まで治してしまうとか」
「噂が広がるのって早いですね」
まだ冒険者になって数日なのにすっかり有名人になってしまった。まぁ、実力より治癒魔法の腕前の方だけど。それでもお仕事はお仕事だ。真面目にやろう。
「この街ではなく近隣の村からの依頼ですね。お一人で大丈夫………ですよね」
「はい。それではこれを受けますね」
「はい。承りました」
クエストを受けて俺は依頼主がいるその村に向けて足を動かす。




