クエスト
シャーレを探しに行く前に生活費を稼ぐために冒険者になった俺は新人の冒険者らしく〈薬草採取〉のクエストを行っていた。
「お、あった」
街を出てすぐの森に薬草が生えているのを見つけるとそれを採取する。
植物は似ているものが多いから間違えないように気をつけないといけないけど、奴隷だった時に薬草の見分け方や調合の方法まで教わったし、見慣れている。それに鑑定スキルも持っているから間違える筈がない。
「多めにとってついでにポーションでも作ろうかな……………」
回復と治癒魔法を持っているし、精霊の加護のおかげで別になくてもいいけど売って金にすることだってできる。冒険者にポーションは必須だからな。
調合に必用な道具も創造の精霊の加護でどうとでもなるし、うん、やっぱり多めに採取しておくか。
この森には魔素も豊富だからそこら辺に生えているし、これならすぐに規定数以上揃えることができる。
「これならもう一つクエストを受けておくべきだったな」
予想以上に早くクエスト達成できそうだったのでもう一つクエストを受けておくべきだったと思っていると、不意に夜が訪れた。
まだ昼間の時間帯だというのに急に夜が訪れたことに俺は顔を上げるとそこには巨大な翼を羽ばたかせて空を飛んでいるドラゴンがいた。
「赤い鱗、レッドドラゴンか………………」
赤い鱗を持つことで有名なレッドドラゴンは翼を羽ばたかせて空を飛んでいる。まるでどこかに向かっているかのように。
どこに行くつもりなのか? 俺はそれが気になって空を飛んでみるとレッドドラゴンの行き先には街がある。
「まさか、街を襲うつもりか?」
それは困る。
一応は生まれた故郷でもあるし、まだ冒険者にもなったばかりで街が破壊されたら俺の今後の生活に支障をきたす。そうなる前に倒さないと。
剣を持って俺は全速力で空を駆ける。風の精霊の加護のおかげで空を自由自在に飛べる俺はレッドドラゴンに追いついてその首を斬り落とす。
流石は剣の精霊の加護で創り上げた剣。ドラゴンの首も豆腐のように斬れる。
「と、感心している場合じゃなかった」
首を斬り落とされたレッドドラゴンの死体は重力に従って地面に落ちる前に首と胴体をキャッチする。
「本当にチートになったな……………」
しみじみとそう思う。
全長で二十メートルはありそうなドラゴンを軽々と持てる俺はもう既にチートもしくはバグキャラだ。一撃でドラゴンを倒したのもそうだけどその死体を持てる時点で人間を卒業した気分。
「まぁ、ドラゴンの鱗や牙は金になるし、せっかく倒したのだからギルドで換金してもらうとしよう」
そのままレッドドラゴンを持ったまま俺は街へ戻る。
「えっと、リブロさん…………これを貴方が一人で?」
「はい。そうですが」
受付の人が頬を引きつかせながらギルドの床に置いているレッドドラゴンを指してそう尋ねてきた。
「おい、あれってレッドドラゴンだろ?」
「あ、ああ、Aランク指定のモンスターだ」
「手練れのAランクが数人がかりでやっと倒せれる相手だぞ………………」
他の冒険者からも注目を浴びてしまうも、ひとまず俺は換金できるかどうかだけ知りたい。
「それで換金をお願いしたいのですが」
「ちょ、ちょっとお待ちください!」
換金をお願いすると受付の人が奥へと走って行った。やっぱり全てをすぐに換金することはできないか。
それならそれで本来のクエストの報酬だけ受け取ってそれでひとまず飢えはしのごう。流石に〈薬草採取〉の報酬では宿には止まれないし、野宿は確定になるが。
野宿になることを覚悟していると、ギルドのお偉いさんと思われる男性がやってきた。
「これはまさしくレッドドラゴン………………。それを君が?」
「そうですけど、貴方は?」
「ああ、私はここのギルドマスターをしているマックというものだ。もう一度聞かせて貰うがこれを本当に君が一人で倒したのかい?」
「だからそうですよ。街に向かっているのが見えましたので」
流石に何度も同じことを聞かれるとイラってするな。いや、新人がドラゴンを倒すなんて普通はありえないから仕方がないか………………。
内心で小さく息を吐いているとマックさんが俺に言ってきた。
「だが、レッドドラゴンの討伐は〈高潔の薔薇〉が受けたはず。それなのにどうして君が………………?」
「さぁ? 逃げられただけではないですか?」
〈高潔の薔薇〉。アリアさんのパーティーが受けていたのか。そう言えばこのレッドドラゴン、鱗に結構傷があるな。そうなると戦闘から逃げて自分を痛めつけた人間に腹を立てて街を襲おうとしていたのか? どちらにしても困った話である。
「確かにそれも考えられるが……………………」
マックさんは猜疑の眼差しで俺を見ている。
「そんなガキがレッドドラゴンなんて倒せるわけねえだろう!? どうせアリアのパーティーから死体をちょろまかしたに決まってる!」
そこに俺にちょっかいを出してきた…………………えっと。
「ボルトさんでしたっけ?」
「ボルスだ!! 〈黒拳〉のボルス!!」
ああそうそうそういう名前だった。
「死体をちょろまかしたって言っていますが、こんな大きな死体をどうやってちょろまかすんですか? アリアさんって皆さんが良く知っている有名な冒険者なんでしょう?」
「そ、そりゃ………………」
口ごもるボルスさん。やっぱり俺にデコピンされたことを恨んでそう言ってきたのか。まぁ、ボルスさんの言葉が無くてもここにいる人達は信じられないようだけど。
チートというのもある意味では不便なものなのだな。
どう説明したらいいのか、と悩んでいるとギルドの扉が勢いよく開いた。
「リブロ! リブロはいない!?」
扉を開けて入ってきたのはアリアさんのパーティー〈高潔の薔薇〉の人達。そしてアリアさんは血塗れの仲間を背負って俺を大声で呼ぶ。
「えっと、ここにいますよ?」
あまりの剣幕に恐る恐る手を上げる。するとアリアさんは。
「貴方、治癒魔法が使えたわよね!? 仲間の傷を治して欲しいの!」
そう叫んで背負っている仲間を床に寝かせる。身体を鋭い爪で引き裂かれたような跡があり、血を失い過ぎているのか顔は青を通り越して白く呼吸も辛うじてしている状態だった。
「私を庇ってレッドドラゴンの攻撃を受けてしまって………………ッ! お願い! お金は後で必ず払うわ! だから!」
クールビューティーだと思っていたその表情は崩れて今にも泣きだしそうな顔で懇願してくる。
「わかりました」
その懇願を受け入れて俺は治癒魔法を使う。
「《エクストラヒール》」
その人に完全治癒魔法を施して傷を全て癒す。痕が残らないようにしっかりと魔法をかけると。
「あれ? 私は……………」
傷を負っていたその人は何事もなかったかのように起き上がった。
その光景にギルド内はわっと騒ぎ出す。
「嘘だろ!? どう見ても致命傷だったじゃねえか!?」
「いや、それ以前にあの新人なんて言った!? 《エクストラヒール》って治癒魔法のスキルレベルがほぼ最大値じゃねえと覚えられねえ魔法だぞ!?」
「何者なんだよ!? あの新人は!」
あー、今日一日で随分と有名になっちゃったな……………。でもまぁ、全部不可抗力だから仕方がない。
一日で有名人になったことに頬を掻く。するとギルドマスターであるマックさんがアリアさんにレッドドラゴンの件について尋ねた。
「アリアさん。貴方方はレッドドラゴンを討伐されましたか?」
「………………いえ、申し訳ないけど仲間が負傷してしまい逃げられてしまったわ。今はどこにいるか……………」
アリアさんは目の前にあるレッドドラゴンの死体を見て固まる。
うん、アリアさんが来る前からそこにありましたよ?
「実はこちらにいる彼がレッドドラゴンを倒して死体を持ってきてくださったのですが、どうにも信じられなくて………………ですが、アリアさんがそう仰るのでしたら彼の言う通りのようですね」
ようやくギルドマスターは俺の言葉を信じてくれた。
「換金は後日支払う。君を疑った謝罪も込めて二割増しで渡そう。それでいいかな?」
「はい。構いませんよ」
金が増えて困ることはないし。
「それからレッドドラゴンを単独で倒した君をFランクのままにしておくのはギルドとしても損害だ。ギルドマスターの権限で君のランクをFからBランクまで引き上げよう」
ギルドマスターの言葉に俺も含めた全員が驚く。
おおっ、一気にウールさんと同じランクまで上がった。
「了解しました。それで文句はありません」
「ではそのように手続きをしておく」
それだけ言って早速手続きに向かうギルドマスターであるマックさん。
一気に注目の的となった俺にアリアさんは口を開いた。
「リブロ…………貴方はいったい、何者なの?」
「ただのチートですよ」
その疑問を俺は笑って返した。




