人食いオーガ
「ハア、ハア、……2人とも無事かい?」
俺は我に帰って、地面に倒れているトニーとシェリルの2人に声を掛ける。
「あっ!セシル危ねえっ!!」
物陰に隠れていたゴブリンが俺の背後から襲って来たが、俺は振り向きもせずにロングソードを背後に突き立てると、そのゴブリンはそのまま仰向けになって地面に倒れてしまった。
「……セ、セシルお前、そんなに強かったのかよっ!?」
「え? いや無我夢中で……。」
俺が辺りを見渡すと、20匹以上のゴブリンが血を吐いて倒れていた。
5体のホブゴブリンは俺を警戒しているのか、攻撃するのを躊躇しているようだった。
シェリルは口を半開きにして呆然としている。
すると、ホブゴブリンの中でも、頭1つ分大きい背丈の1匹が、俺の方に歩みよって来た。
「……セ、セシルやばいぞっ!こいつは違う、ホブゴブリンじゃねえっ!」
「えっ!?」
俺の方に歩みよって来たその1匹は、頭に被っていた革製の兜を脱いで地面に叩き付けると、俺の方を物凄い形相で睨み付けて来た。
凶暴性に満ちたその顔はゴブリン達よりも数倍おぞましく、伸びきった黒髪は肩まで届いている。
肌の色もゴブリンの様に緑系ではなく、やや赤みを帯びた肌色だった。そして前歯にはゴブリンの物よりもはるかに立派な2つの牙が生えている。
「こ、こいつはオーガだっ!セシル、シェリル、逃げるぞっ!!」
「えっ!? オーガって、あの人を喰うって言われている魔物っ!?」
目の前のオーガは、俺目掛けて巨大な戦斧を物凄い勢いで振り回して来る。
俺がロングソードでその戦斧をどうにか受け流している隙に、トニーとシェリルは何とか後方に逃げられた。
オーガと俺の激しい攻防はしばらく続いたが、巨大な戦斧を軽々と振り回すオーガに対し、俺の方は肩で息をするまで消耗してしまっていた。
「……なあシェリル、セシルの奴、様子がおかしくないか!?」
「うん、そうね、何かあの剣がやたら重そうに見えるわ。」
「お前もそう思うか!?」
トニーは何か悟ったように、自分のロングソードを俺の方に放り投げ付けた。剣は地面を数回バウンドして俺の足元に転がった。
「おい、セシルっ!俺の剣を使えっ!!」
俺はトニーの意図が分からなかったが、何か考えがあるに違いないと思い、オーガの隙を見て自分の剣からそのロングソードに素早く持ち替えてみた。
「ん!? ……何だこの剣は! めちゃくちゃ軽いぞっ!」
今までの剣の重みが嘘の様に消えて、その剣は俺の手に程良く馴染んだのだ。
「ぐがああああぁぁぁぁああああーっ!!」
そうこうしていると、オーガが俺にとどめを刺そうと凶暴な雄叫びを上げて突進してくる。
ところが、俺はトニーの剣でオーガの渾身の一撃を軽々と受け流す事が出来た。
自分の攻撃を簡単に受け流され、怒り狂ったオーガは再度俺に突っ込んで来る。
だが、オーガの打ち込んでくる戦斧の攻撃よりも、俺のロングソードによる攻撃の手数の方が明らかに上回り、オーガは俺の剣さばきに段々と付いてこれなくなったのだった。
「す、すげえ……!あんな剣さばき見た事ねえぞっ!!」
「セシル、あなたは一体……!?」
俺の攻撃を前にジリジリと後退していったオーガは、怒りが頂点に達して再び咆哮すると、力任せに前に出て戦斧を大きく振り上げた。
俺はここぞとばかりに、その戦斧をロングソードで弾き飛ばす。
武器が無くなり無防備となったオーガに、俺はとどめを刺そうとロングソードを振り上げた。
――――しかし、その時だった。
そのオーガの前には家の中にいるはずの、リーファが両手を高く掲げて、オーガを守るように立っていたのであった。




