ゴブリンの襲撃!
「えっ!?この村にゴブリンが出たのかっ!?」
「ええ。牛や羊達が殺されて奪われたの。牧場の人達はたまたま留守中で無事だったんだけど……。」
シェリルは悲しみを帯びた声で、悲惨な事件を俺に話した。
村人の留守中に起きたゴブリンの襲撃だったらしいが、家畜たちを根こそぎ奪われてしまっては、もう明日からの生活は成り立たない。
俺たちの祖国は、十数年前にグルタニア帝国が支配するようになって、酪農家から徴収する税も一気に跳ね上がったと言われている。
なので、俺たちの暮らしはもう切り詰めようが無いし、蓄えだってある訳がない。
俺は今まで動物だろうが、魔物だろうが、怪我をした奴は治療して助けて来たし、魔物の中には仲良くなった奴だっている。
でも、この時ばかりは、牧場を襲ったゴブリンが憎く思えて、許せない気持ちにもなった。
「セシル、オヤジさん明日まで留守なんだろ? 今夜は俺達が泊まって警備してやるよ!」
そう言うとトニーは、腰に付けていたロングソードを引き抜いて状態をチェックし出した。
「え? 本当かい、トニー!?」
「おう、俺とシェリルに任せとけって。もう冒険者になって2年も経つから、ゴブリンが襲って来たって余裕だぜ!」
「そうね。もしも怪我をしてもセシルの薬液が沢山あるしね。」
人間と魔物はお互いに危害を加えないように共存して来たが、ごく稀に群れから離れて人間を襲う魔物もいる。
なので、そういった緊急時の為に、トニー達のような冒険者と呼ばれる職業の人達がいる。
大昔は冒険者というのは、魔物を狩るのが仕事だったらしいが、今では秘境の地を探索するのがメインで、たまに勝手な行動をする魔物を討伐する事もあるらしい。
俺は2人の申し出をありがたく受け入れ、家の中へ招き入れた。
俺のような貧乏羊飼いをバカにする奴は多いが、この2人だけは例外だ。いつだって2人は俺達親子に良くしてくれるのだ。
トニーとシェリルの2人は家の中へ入ると、先に家に帰っていたリーファに気が付いた。
「あれ? 誰だこの娘? ……ダ、ダークエルフ!?」
「あら、可愛いわねっ!お名前は?」
リーファがダークエルフだと気付いて慌てるトニーと、そんな事は気にせずに名前を尋ねるシェリル。
リーファは人間を警戒しているのか、俺の背後に逃げて来るとそこから小さな顔をちょこんと出して、2人をジロジロ見ている。
「フフ。お姉さん達は怖くないわよ。大丈夫よ?」
シェリルは膝を付いて優しく微笑むが、リーファはそれでも警戒して俺から中々離れなかった。
◆◇◆
夕食を食べ終わる頃には、リーファはようやく2人に慣れて来たけど、やっぱりいつもよりは口数が少ないようだった。
「そういや、セシルもずっと剣の修行してるんだろ?ゴブリンなら倒せるんじゃねーのか?」
トニーが壁に立て掛けてある2本のロングソードを眺めて、俺に聞いてきた。
「いや無理だよ。羊飼いのオヤジに教えてもらう程度の剣術だし。何しろ剣が重くて、まだ自由に振り回せないくらいなんだ。」
「そうか、セシルは羊飼いの仕事で忙しいしな。剣術の修行つってもそんなには時間取れないよな。」
俺の事を気遣って、フォローを入れてくれるトニー。ガサツでおちゃらけている時も多いが、心優しい男なのだ。
シェリルは夕食の後片付けをしてくれている。彼女は家庭的でしっかり者のお姉さんタイプだ。
「あれ? リーファちゃんどうしたの?」
シェリルの言葉を聞いた俺とトニーは、窓の外を気にしているリーファに気が付いた。
家の外では牧羊犬のエディがやたら吠えている。
俺とトニーはすぐにリーファの近くに歩み寄った。
「リーファ、どうしたの? 何かいるの?……まさか!?」
「セシル!ゴブリン来た!たくさん!」
リーファの言葉にすぐさま反応したトニーとシェリルが、勢い良く家の外に駆け出す。
「リーファは隠れてて!外に出たらダメだよっ!」
俺も壁に立て掛けてあるロングソードを手にして、2人の後に続いた。
「う、嘘だろ……!?」
「……こ、こんな事って!!」
トニーとシェリルは絶句していた。
それもそのはず、うちの牧場を襲いにやって来たゴブリンの数は30匹を軽く超えていたからだ。
しかもその内の5匹は、ゴブリンの数倍強いとされる「ホブゴブリン」だったのだ。




