幻の珍獣
「おいセシル、この珍獣は確かアルパカだぞ!」
魔法陣から現れたリーファに驚き、ずっと無言だったオヤジがようやく口を開いた。
「アルパカ?」
「ああ、そうだ、アルパカだ!すげえ希少価値の高い珍獣だぜ。その毛で作った衣類は、かなりの高値で取り引きされてんだ!!」
「······え、ウソ!?」
「ウソなんかじゃねえ。」
「本当に本当なのかっ!オヤジ!?」
「ああ、本当に本当だとも、息子よっ!!」
俺とオヤジはすぐにお互いの両手を高く掲げ、勢い良く叩き付けあった。
「ガハハハハっ!でかしたぞ小娘っ!お前は最高だっ!」
「凄いよリーファ!良く捕まえたね!!」
オヤジと俺に褒められたリーファは、満面の笑顔になった。
「本当!?リーファ凄い!?」
「ああ、本当に凄いよ!これでどうにか冬が越せるよ!」
俺とオヤジはアルパカに逃げられないように、慎重に動物小屋に移してしっかりとカギをかけた。
何でもリーファが言うには、眠りの森から毎日眺めていたアトラス山脈には、ずっと前から一度行ってみたいと思っていたらしいのだ。
そして珍しい珍獣がいたので、日が暮れるまで追いかけてようやく捕まえる事が出来たとの事だった。どうやら捕まえて半時も経たないくらいに、俺に呼び戻されたらしい。
それにしても……
今日の出来事はまるで長い夢を見ているようだったなと、俺は改めて思わされた。
リーファがくれた古びた本と、俺の体の中に沈んでいったペンダント、おそらくこれらのアイテムが俺に不思議な力を与えてくれたのは間違いないのだが、いったいこの力は何なのか?邪悪な物ではないのか? 俺は期待半分、不安半分、といった気持ちだった。
俺は何度か本とペンダントについてリーファに尋ねてみたが、リーファはその話題になると口を閉ざしてしまうのだった。
なので俺はヤキモキしながら、今日の出来事を思い浮かべて夕食を食べていた。
夕食と言っても、野菜の切れ端やヘタを煮込んだだけのスープだが、アルパカで得られる収入の事を思い出すと、そんなスープでも俺は美味く感じたのだった。
まぁ、お金も嬉しいけど、それ以上にリーファが無事に戻って来てくれたのが俺は何よりだった。
「なあオヤジ、アルパカの毛って何で高価なんだ?」
俺は何気なくオヤジに聞いてみた。
「ああ、アルパカはもうこの大陸だと絶滅寸前だからなぁ。元々遠い大陸にいた奴を開拓者達が連れて来たんだ。」
「そうなのか~。それじゃ高値になる訳だな。」
「まあそういう事だ。」
俺とオヤジはお互いのニヤケ顔を見て、2人で大笑いした。
リーファも笑顔でスープをすすっている。
◇◆◇
翌日、早朝からアルパカの毛をせっせと刈り込んだオヤジは、市場にそれを持っていく為に家を留守にした。
俺達が住むノーヴィスの村は、辺境の地にあるので市場は無い。なのでこの村に住む人間は、隣街ベルグラードの市場まで買い物に行く必要があるのだ。
ノーヴィスの村からベルグラードの街までは歩いて半日。もちろんオヤジが市場に着くのは夕方から夜だから、どこかに野宿でもして家には翌日帰ってくる事になっている。
なので、その日の俺はオヤジが放牧している羊30匹もあずかり、合計50匹の羊を放牧してようやく家に帰って来たのだった。
「おーい、セシル!今日はやけに羊の数が多いな!?」
「セシル、久しぶりね。元気にしてた?」
家の近くの小高い丘の上から、幼馴染のトニーとシェリルが駆けて来た。
「やあ、2人ともどうしたんだ? 夕方に顔を出すなんて珍しいな。何かあったの?」
俺は羊達の数を数えながら、2人に尋ねた。
「ああ、実はな、ちょっとした事件があってな。お前にも知らせとこうと思ってよ。」
「······事件?」
いつもは軽口を叩いているトニーが、真剣な眼差しで口を開いた。
「実はこの村の牧場がゴブリンに襲われたんだ。」
「ゴ、ゴブリン!?」
俺はトニーの言葉に驚いて、しばらく呆然としてしまったのだった。




