ダークエルフを放牧しよう!
古びた本に文字が書いてあるのと、自分がその文字を読める事に俺は驚いて、慌ててリーファの方を見る。
するとリーファはまた口に手を当てて、クスクスと笑っていた。
俺は冷静になって、もう一度古びた本を覗きこんだ。
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【名前】 セシル
【職業】 羊飼いのベテラン(レベル18)
【放牧可能な動物】
・羊20匹 ・ダークエルフ1匹
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やはり文字がしっかりと書いてあるし、なぜかその文字が俺には読めるのだ。
「リ、リーファ、これは一体どういう事なの?」
「セシルはね、私のご主人様!」
「へっ!?」
「えーとね、羊とリーファを放牧出来るんだよ!」
「??いや、羊は分かるんだけど、リーファを放牧って??」
俺はリーファの言葉に呆気にとられていると、突然、自分の頭の中で女性のような綺麗な声が聞こえてきた。
<ダークエルフを放牧しますか?>
「······えええ!??何だこれ!?誰!?」
パニックになっている俺の頭の中で、再び同じ声が聞こえて来た。
<ダークエルフを放牧しますか?>
「は、はい······!?」
俺はついついその声に返答してしまった。
<場所を指定してください。>
「場所!?場所って放牧する場所ってこと!?」
再度聞こえてきた声に対して、俺は質問を投げかけてみるが、まったく反応が無い。すると隣にいたリーファが口を開いた。
「リーファねぇ、アトラス山脈がいい!」
「??······アトラスってあそこにそびえ立っている山の事だよね!?え?どういう事なの??」
突然リーファがアトラス山脈に行きたいと言ってくるが、俺には何の事かさっぱり分からない。
<ダークエルフをアトラス山脈に放牧しますか?>
また俺の頭の中で声が聞こえて来た。
「は、はい······!?」
――――その時だった。
俺が意味も分からずその声に返答すると、突然リーファの足元に不思議な模様の魔法陣が現れ、リーファはその魔法陣に足元から沈むようにして全身が飲み込まれていったのだ。
「リ、リーファっ!!」
俺が慌ててリーファを呼ぶと、楽しそうなリーファの声がどこからとなくか聞こえて来た。
「大丈夫だよセシル!リーファ、放牧行ってくる!」
リーファの姿は完全に消えてしまい、そこには呆然と立ち尽くす俺と、何事も無かったように草を美味そうに頬張り続けている羊たちの群れがあった。
牧羊犬のエディは草原に座りこんで、大きなあくびをしている。
◇◆◇
突然消えてしまったリーファの事を考えると、俺はなかなか家に帰る気にはなれなかったが、大分日も暮れてきて家の仕事も残っていたので、とりあえず一度家に帰る事にした。
「······ただいま。」
「おうセシル!遅かったじゃねーか!?」
家の外で薪割りをしていたオヤジがちょっとだけ不機嫌だった。
「いや、それが突然リーファが消えちゃって。」
「ああ?消えただと?森に帰ったんじゃねーのか?」
「いや、違うよ!······ああ、こんな事なら放牧なんてしなきゃ良かった。リーファ帰って来てくれないかな。」
俺がオヤジと会話をしていると、また突然例の声が俺の頭の中で聞こえてきた。
<ダークエルフを呼び戻しますか?>
「へ!?」
<ダークエルフを呼び戻しますか?>
「あ、はいっ!リーファをここに戻して下さい!!」
俺がその声に返答すると、俺の目の前に突然「魔法陣」が現れ、その中からリーファが頭からゆっくりと出て来たのだった。
いや、正確に言うとリーファと1匹の動物が出て来た。
「リ、リーファっ!無事で良かった!」
「あ、セシル、ただいまっ!!」
「もう会えないかと思っちゃったよ!本当に良かった!」
「リーファはね、放牧されてたんだよ。」
「ほ、放牧かぁ······。そ、それでその奇妙な動物は何??」
リーファは見た事ないような奇妙な動物を連れていたのだ。
「あ、これはね、アルパカンだよ!」
「ア、アルパカン??」
俺は好奇心から、その奇妙な動物アルパカンに近づこうとしたが、アルパカンの口から勢い良く唾液が飛んで来て、俺の顔は唾液まみれになってしまった。
それを見たリーファは、楽しそうに笑い転げていたのだった。




