旅立ち
領主タナトスが死に、残りの帝国兵もジルクによって倒される光景を、一人離れた場所で観察していた男がいた。
帝国の宮廷魔術師ヴァルサークの従者、シドである。
「我が部族の秘宝は、あの少年を所有者として認めたか······。まあいい、いずれそれは我が部族に返してもらう事になる。また会おうぞ、少年よ。」
シドは不適に笑うと、懐に飼っている精霊に呼びかけて、その姿を消したのだった。
◇◆◇
その頃セシルは仲間の魔物達と、闘技場の地下で監禁されている魔物を助け出していた。
「お頭、戦わされて死んでしまった仲間も沢山いたようでしたが、助けられた仲間もいて本当に良かったです。」
ホブゴブリンのリーダ格、ギルダが悲しみを含んだ笑顔でセシルに話しかけた。
「うん、そうだねギルダ。でも、他の街でも奴隷にされたり、戦わされている魔物は沢山いるのかもしれないから、他の街にも行ってみよう。」
「お、お頭······!!」ギルダは涙を手で乱暴に拭い、話し続けた。
「俺達はセシルのお頭に出会えて本当に良かった。あんたは帝国にずっと命を狙われる事になる。それでも俺達の為に戦ってくれる。うう······!!」
「お、おいギルダ、泣かないでおくれよ! 戦いは始まったばかりなんだから。」
「······そうですね、お頭!」
オーガのイザークも、残りのホブゴブリン達も、そして新たに加わったサーベルタイガーのジルクも、セシルの姿をじっと見つめている。
彼らもギルダと思いは同じだった。
「セシルさんっ!」
レイを先頭にアイラとリアーナ、そしてロイドがセシルの方へ駆け寄って来た。
「セシルさん、 ど、どうかジルクを宜しく頼みます。大きな牙は怖いけど、心優しくていい奴なんですっ!」
「レイさん、分かってますよ。ジルクの事は俺に任せてください。······さあ、皆さんは俺達とあまり一緒にいない方がいい。この場にいる帝国兵は全て倒しましたけど、どこで誰が見ているか分かりませんから。」
そう言うとセシルはスキルを発動させ、足元に巨大な魔法陣を出現させた。
「セシルっ! あんた本当に凄い剣士だったわ! またどこかで会いましょう!」
「またベルグラードにこっそり来てね、羊飼いさん!」
セシルはアイラ達にお礼を言うと、笑顔で手を振った。
「セシルさんっ! このご恩は一生忘れません! 僕はいつの日か、あなたにピッタリ合う剣を必ず作ってみせます!」
「少年よ、私と息子達を救ってくれて、心から感謝する。これから帝国が血眼になって君を探すだろうが、絶対に生き延びてくれよ!」
セシルはレイとロイドにに黙って頷くと、仲間達に号令をかける。
「よし!みんな、ご苦労様! リーファに怒られるから、そろそろアジトに帰ろう!」
「「おおおおーっ!!」」
そう言うと、セシル達は魔法陣の中に姿を消したのであった。
◇◆◇
「それにしても、物凄い奴だったわね、セシルは。」
「ホント、ホントっ! 大金もポーンと渡しちゃうしね。あの子は大物になるわよ、アイラ!」
「そうかもね。」
夕暮れ時、アイラとリアーナは、ベルグラードの中心にある市場付近を歩いていた。
「あ、あの~、アイラさん、リアーナさん?」
「「······!?」」
突然、彼女達は後から声を掛けられた。
「俺ですよ、俺。」
「「······誰っ!?」」
彼女達の目の前には、顔を長い布で覆い隠した怪しさ全開の男が立っている。
「······ひょっとして、あんたは!?」
「はい、セシルです。帝国兵士に見付かるとまずいので。」
何とその男はセシルだった。
セシルは顔に巻いた布を取って、2人に顔を見せた。
「ちょっとおおーっ! びっくりさせないでよっ! どうみても不審者よ!!」
「一体どうしたの!? 羊飼いさん!?」
「いや~、それが留守番をしていた小さな女の子に、お土産を買うのを忘れて······。」
「お土産!?」
「はい。かなり怒られました。」
アイラとリアーナはお互いの顔をじっと見つめ合うと、堪えきれずに大笑いしたのであった。
「ちょっとアンタね、あのまま帰っていれば相当カッコ良かったのに、······ウフフフ、アハハハハーっ!!」
またアイラが笑い転げた。
「よーし、このリアーナお姉さんがセンスのいいお土産を選んであげるわっ!」
「あ、あのとっても言いにくいのですが······」
「何よ!?」
「どうしたの??」
「少しばかり、お土産を買うお金も貸してもらえないでしょうか······?」
また彼女達は大きく吹き出し、いつまでもセシルを笑っていたのであった。




