怒りの羊飼い
30人を超える帝国の兵士から、ロイドとジルクに向かって一斉に矢が放たれた。
「と、父さあああーんっ!!ジルクーっ!!」
大量に放たれた帝国兵士の弓矢を見て、レイは絶叫した。
するとその直後に、サーベルタイガーのジルクが、ロイドを地面に押し倒し、彼に覆いかぶさるようにして帝国の弓矢を全身で受け止めたのだった。
「······ジ、ジルクっ!? ジルク、しっかりしろおおおーっ!!」
そう叫んだロイドの真上で、ジルクは吐血し、ぐったりとしている。
「うわああああぁぁぁぁあああああーっ!!」
それを見たレイは叫び出すと同時に走り出し、帝国兵士の隙を見て剣を奪うと、観客席から飛び降りてジルクとロイドのいる方へと走り出したのだった。
「レ、レイっ!! 行ってはダメよーっ!!」
すぐにアイラとリアーナが彼を追いかけようと走り出すが、彼女達はすぐ近くでも異変が起きている事に気が付いた。
2人の目の前では、セシルを取り押さえていた帝国兵士ばかりか、その近くにいた20人以上の兵士達全員が観客席のあちらこちらに倒れて、動かなくなっていたのだ。
その倒れた兵士達の中央に、静かに立つセシルの姿があった。
「セ、セシル······!?」
「羊飼いさんっ!?」
彼女達が驚いて立ちすくんでいると、闘技場の中央に向かったレイには、10人を超える帝国兵士が彼を殺そうと次々に襲いかかろうとしていた。
それを見たセシルは、凄まじい速さで観客席を横に駆け抜けると、帝国兵士から奪った長剣を力強く振り抜く。
――――その斬撃は突風の様な唸りを上げて、帝国兵士達に襲いかかった。
やがて闘技場の地面には、セシルの斬撃による亀裂と、突き飛ばされた兵士達が全員失神しているのが見えた。
「……な、な、何だとおおおーっ!! い、一体何をしたっ!!どうなっておる!? あいつは一体誰なんだああーっ!!」
椅子にふんぞり返っていたタナトスはその場に立ち上がり、呆然と立ち尽くす。
「う、嘘でしょ!? これって、セ、セシルがやったの!?」
「羊飼いさん……!?」
アイラとリアーナも現実を受け入れられず、その場に固まっている。
「ま、まさか、そ、その斬撃はああああーっ!! あの忌々しい羊飼いなのかあーっ!?」
闘技場の中央にいたピケルも、怯えるようにその場に立ち尽くした。
「お前らは許さない、許さないぞおおおおおーっ!」
怒りに震えるセシルが観客席を飛び降り、残りの帝国兵士達に向かって駆けて行く。
「ええいっ!何をやっておるのだ! そんな小僧1人すぐに殺せええええーっ! 幻覚剤を打ち込んだオーガやホブゴブリンも戦わせろっ!!」
タナトスが号令をかけると、すぐに闘技場のゲートが開かれ、その中からオーガ2頭とホブゴブリン5頭が姿を現した。
「魔物どもよっ! その薄汚い小僧をぶち殺せえええーっ!!」
魔物達は幻覚剤を打たれているせいか、セシルを物凄い形相で睨んで咆哮すると、それぞれの武器を大きく振りかぶって攻撃を開始するのだった。
「くっ! 違う、違うぞ、俺はお前らの味方だっ! 」
魔物たちにセシルの言葉はまったく届かず、彼らは攻撃の手を緩めない。
「いいぞ、いいぞ、魔物どもよ! 少しは役に立つではないかっ! よし、帝国兵士達よ、今のうちにあの若造と父親の首を跳ねるのだああーっ!」
「「はっ!!」」
タナトスの命に返答した帝国兵士達は、レイやロイドに向かって行く。
「レイーっ!!」
観客席のアイラも走り出そうとするが、リアーナに背後から抑えられる。
「ア、アイラ、行ったらダメよおおーっ!」
――――その時だった。
レイの足元に1つ、そしてロイドの足元にも1つの魔法陣が現れ、強烈な光を辺り一面に放ったのだった。
『スキル発動! ――――召還、ホブゴブリンっ!!』
セシルの言葉に反応する様に、2つの魔法陣からホブゴブリンが2頭づつ出現する。
「「グガアアアァァァアアアーっ!!」」
レイの足元の魔法陣から出現したホブゴブリン2匹が大きく咆哮し、1匹のホブゴブリンが手に持った巨大な棍棒を力強く横に払うと、レイを狙った帝国兵士達は一斉に吹き飛ばされたのだった。
「ひ、ひいいいいいーっ!!」
棍棒の一撃から間一髪逃れた兵士らも悲鳴を上げて後ずさりするが、もう1匹のホブゴブリンが次々にその兵士らを打ち倒していく。
一方、ロイドの足元の魔法陣から出現した2匹のホブゴブリンも、大きな咆哮と供に両刃斧を振り回し、ロイドを殺そうとしていた帝国兵士を次々に切り刻んだのだった。




