闘技場の悲劇再び
タナトスの命により、レイが何のお咎めも無く自宅に帰されると、兵士達はタナトスの予想外の指示に唖然としていた。
「タ、タナトス様、あの者をそのまま返して宜しかったのでしょうか……?」
「構わん。……だが、あの若造の店は潰せ。どんな手段を使ってもな。精神的に追い詰めてから、また最高の悲劇をプレゼントしてやろうではないか。」
しばらく沈黙した後、タナトスは突然手に持った果実酒入りのグラスを地面に叩き付けた。
「ええいっ! あの若造がああああーっ!!大量のミスリルの剣を皇帝に献上すれば私の立場も上がったと言うのにいいっ!クソがああっ!最後は魔物の餌にしてくれるわっ!!」
兵士達はタナトスの言葉に背筋が凍ったのだった。
◇◆◆◇
「酷い、酷すぎる! レイさんの目の前でジルクを殺そうとするなんて!」
「あの領主、 ジルクの鉱石を見付ける力とレイの剣作りの技術を1人占めしようとしたに違いないわっ!」
リアーナさんとアイラさんは、レイさんに起きた悲劇を聞き、それぞれの思いを口にする。
「ても、どうして50Gの借金が出来たのよ!?」
アイラさんがレイさんに尋ねる。
「実は……、ジルクを連れて行かれて、僕は剣を作る作業に身が入らなくなったんです。剣の完成度はどんどん下がって、帝国は剣を買ってくれなくなって……。そしてジルクを傷付けられてからは、そのショックで僕は完全に剣を作る事は出来なくなりました。」
「それで店の経営が傾いて、借金をしてしまったの?」
「はい。材料は値の張る物をずっと仕入れていて、どうにもならずに領主から借りたんです。父の店を潰す訳にはいかなかったので……。」
レイさんは色々な思いが積み重なって、顔を伏せて泣き出してしまった。
―――――すると、店のドアが開いて1人の街人が入って来た。
「レイっ! 大変だ! 旅先でロイドが帝国に捕まった! 」
「……!? と、父さんがっ!?」
「ああ! 何でも闘技場で魔物と戦わされるって話なんだっ!!」
街人から話を聞いたレイさんは、血相を変えて店を飛び出した。
「レイ、待ちなさい!」
アイラさんとリアーナさん、そして俺もレイさんに続いて店を出た。
◆◇◆
「おっと、闘技場に入りたけれりゃ、武器は置いていきな!」
闘技場入口の兵士にアイラさんとリアーナさんは武器を預け、俺達4人は急いで観客席に向かった。
俺達が闘技場へ入ると、客席は大勢の兵士と大衆で溢れ、大変な騒ぎになっている。
そして闘技場の中央に目を向けると、とんでもない光景がそこにはあり、俺は愕然となった。
――――グガアアアアアーっ!!
何と2人のオーガが大きな棍棒をお互いに打ち合い、壮絶な戦いを繰り広げていたのだ。
「どうした、どうした!? 負けた方はその場で処刑、勝てば生き長らえるのだぞっ! もっと全力で殺し合わなくてどうするっ!!」
闘技場の中央では、帝国兵士ピケルが2人のオーガの背中を鞭で交互に撃ち付けている。
「な、何て事を……!! クソおおっ! 帝国の奴らあああーっ!!」
怒りに我を忘れた俺は、オーガ達が戦っているフィールドに走っていこうとするが、アイラさんとリアーナさんに体を抑えられ止められてしまった。
「離せ! あのオーガ達は、きっとあいつらの仲間なんだ! 何も悪い事はしていない!」
「ちょっとセシル! あんた何考えてんのよっ! 帝国に殺されに行くようなもんじゃないっ!」
「ひ、羊飼いさん、落ち着いて! 行っちゃダメっ!!」
俺達がそうこうしていると、戦いの場では1人のオーガが力なく地面にうつ伏せに倒れて、戦いが終わってしまっていた。
そして、勝った方のオーガも天を見上げて、涙を流しながら唸り声を上げていたのであった。




