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レイの悲劇


「······実は僕、もう剣が作れなくなったんです。」


 武器屋のレイさんがそう言うと「それは一体どういう事なのよ」とアイラさんが尋ね、またレイさんの話の続きが始まったのだった。


「ちょっと話すと長くなるんですが······。」


 俺達はレイさんの話に耳を傾けた。




◇◆◇




――――14年前の冬。


 

 鍛冶屋兼、冒険者だったレイの父ロイドは、ノーヴィス村にある「眠りの森」と言われる深い森に来ていた。


「ん!?こいつはっ!」


 ロイドが冒険者ギルドの依頼で討伐した魔物、「サーベルタイガー」の亡骸の後方には、その魔物の子供がいたのであった。


「みゃあー、みゃあーっ!」


 母親を心配して泣いているその一匹の子供は、ごく最近生まれたように見えた。

 そしてその魔物の子供は、ロイドとサーベルタイガーの戦闘に巻き込まれ、体には弓矢による深い傷があった。


 ロイドはその魔物の子供に剣を突き付けるが、彼はどうしてもその子供を斬る事が出来なかった。

 ちょうど彼にも、レイという息子が生まれたばかりで、手にかける事が出来なかったのだ。



 その後、ロイドはその魔物の子供を家に持ち帰り、傷が癒えるまで看病した。


 しかし、その魔物の子は赤ちゃんだったレイにぴったりとくっついて、すっかりレイに懐いてしまったのであった。


ロイドはその魔物を何度も森に返そうとしたが、魔物はロイドから離れようとせず、仕方なくロイドは魔物を自宅に連れて帰るはめになった。


 そして数年が経過してレイが成人した頃になると、レイは成長したサーベルタイガーの魔物「ジルク」と一緒に、珍しい鉱石を採掘しに出かけるようになる。


「おおっ!ジルク、凄いぞー!こいつはミスリルじゃないかっ!」


 ジルクには希少な鉱石を発見出来る不思議な力があり、その発見した鉱石でレイは冒険者が使う剣を作った。


 レイの作る剣は冒険者達の手に良くなじみ、切れ味抜群でしかも耐久性に優れているとすぐに評判になり、父ロイドから受け継いだ鍛冶屋兼、武器屋はたちまち人気店になったのだった。



――――しかし3年後、不幸は突然訪れた。



 街人に内緒で飼っていた魔物の「ジルク」であったが、突然ジルクは姿を消してしまった。


 レイの店から歩いて1時間ほどかかる街外れの森に、ジルクはひっそりと大人しく暮らしていたのだが、魔物狩りに来ていた帝国騎士団に見付かってしまい、ジルクは捕獲されていたのだった。


「そ、そんな······、ジルク、どこへ行ってしまったんだ!」


 その事実を知らないレイは、ジルクが暮らす森に何度も足を運んだが、当然ジルクの姿は無かった。


 そして追い討ちをかけるように、帝国騎士団がレイに店にやって来て厳罰を言い渡される。


「武器屋店主レイ、お前は国の法を破り魔物を飼っていたな! 今日より罰として武器の販売を禁止する!」

「そ、そんな······!!」

「しかし、それでは生活出来ないであろうから、帝国騎士団にのみ、剣の販売を許可しよう。すぐにミスリルの剣や槍の制作にかかるのだっ! 材料の鉱石はこちらで用意しよう。」


 レイはこれまで帝国騎士団にも冒険者にも平等に剣を作って売って来た。

 しかし、レイの刀鍛冶の腕に目を付けた帝国は、レイを監視して魔物を森で飼っている事を突き止め、レイの剣を独占しようと考えたのだった。


 レイは安い対価で、帝国に剣を作り続けなければならず、生活に困窮していった。


「ジルク、今頃どうしているんだ? 無事でいてくれよジルク。」


 レイは生まれてからずっと一緒だった友達、ジルクの事が心配でならず、眠れぬ夜が続いたのだった。


 そして、そんな夜が何度か続いたある日、突然ベルグラードを治める領主から、闘技場への招待状が届いた。

 招待状には、必ず足を運ぶようにと記載してある。


「……闘技場!? 一体なぜ?」


 不思議に思ったレイだったが、帝国から派遣されたこの街の領主、タナトスの命令を無視するわけにはいかなかった。


 そして当日、ベルグラードに数年前に出来た闘技場へレイが足を運ぶと、とんでもない光景が彼の目に飛び込んで来たのであった。


「あ、あれはジルク、ジルクじゃないかっ!!」


 レイが客席の最前列から見た魔物は、何と帝国に捕らえられたジルクだった。

 

 そして、その魔物と対峙し戦おうとしているのは、ミスリル製の長剣を持った帝国騎士団のピケルという男だった。

 



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