羊飼い、人を助ける
「あの……、せめてあと3日待っては貰えないでしょうか!?」
「ああっ!? てめえ、ふざけてんのかっ!期限は今日だろうが!?」
「そうだ、そうだ! 払えないんなら店でも何でも売るしかねえだろうが!ああん!?」
武器屋のレイさんが必死で男達に懇願するが、男達はそんなレイさんを無視して強引な金の催促をしている。
「ちょっとレイ、あんたまさか、こいつらに借金してるの!?」
「いや、その、色々とありまして……。」
レイさんは困り果てた顔をしてアイラさんに答えた。
「おうおう、お嬢ちゃんは黙ってな!部外者は口を挟むもんじゃねえぜ!」
「部外者じゃないわ!この店の常連なんだから、潰れたら私達が困るのよっ!」
男はアイラさんを睨んで脅しをかけるが、アイラさんも負けてない。
「いいか、嬢ちゃん、こいつはな100万Gの借金があるんだよ! 借用書だってちゃんとあるぜ。」
「そ、そんな……!借りたのは50万Gじゃないですかっ!」
顔面蒼白にして、レイさんが男達に抗議した。
「ああん? お前はバカか、借金には利子ってもんがある事を知らねーのかっ!?」
「で、でも、いくら何でも返済額が2倍になるなんて……!!」
レイさんは困り果てて、その場に膝を落としてしまった。
「あんた達ねえ! 返済額を2倍にするとか、どんだけ卑劣なのよ!?」
「ああん!? いいか、この男はこの街を治める領主様から金を借りたんだぞ? 俺達は言わば領主様の代理だぜ! それでも何か文句あんのか、お嬢ちゃん!?」
「りょ、領主様……。」
アイラさんは領主という言葉を聞いて何も言えなくなってしまった。
リアーナさんは、ずっとアイラさんの背後で小さくなって怯えている。
「ようやく理解出来たかお嬢ちゃん、植民地の平民が帝国の貴族には逆らったら死罪だもんなあ。」
アイラさんはずっと黙っているが、悔しそうな顔をして男達を睨んでいる。
「あ、あの……では100万G支払えば、問題ないと言う事ですか?」
俺の発言にその場が静まり返った。
「……て、てめえは誰かと思ったら、さっきの小汚ねえ羊飼いじゃねーか! 何ふざけた事言ってやがるっ!!」
「ちょうど手元に100万Gありますので、お支払いしますよ。」
俺はアルパカの毛を売って手にした100万Gを、荷物の中から取り出して男達の前に出した。
「あ、もちろん借用書は頂きますよ?」
「ちょ、ちょ、ちょっとあんたっ!! 何考えてんのよ!? そのお金はあんたの家族が冬を越す為の物でしょ!?」
「そ、そうよ!それじゃ、羊飼いさんと家族の皆さんが生活出来ないよーっ!」
アイラさんとリアーナさんが慌てふためく。
「お、お、お客さん、そんな大金を立て替えてもらう訳にはいかないですよっ! そ、それに今日初めて会ったばかりなのにっ!」
店主のレイさんも取り乱して、あたふたしている。
「いや、いいんですよ。 羊飼いの身分の俺に優しくしてくれた店員さんはあなたが初めてで、俺はとても嬉しかったんですから。」
実際にベルグラードの街に来て、俺はいきなり街の男達に絡まれて殴られ、毛皮の専門店の年老いた店主にも冷たくあしらわれた。
おまけに、アイラさんとリアーナさんと行った食堂でも、嫌味を言われたのだ。
おそらく彼女達がいなかったら、毛皮の専門店でも買取り価格を誤魔化されていたかもしれないし、食堂では追い返されたかもしれない。
それに比べて、レイさんは身分の低い俺にも一般客と同等に接してくれて、俺にピッタリ合う剣を熱心に探そうとしてくれたんだ。
だから100万Gは惜しくないと俺は思った。
「ふん、確かに100万Gあるな。まあ、俺達は借金が全額回収出来ればそれで問題ないぜ。命拾いしたな店主さんよ! じゃあなっ!」
そう言うと、その男と仲間の男達もレイさんの店から出て行ったのだった。
店内にはようやく平穏な空気が戻った。
「……ううっ!あ、あ、ありがとうごじゃ、ごじゃいまじだーっ!!」
レイさんは地面に頭を擦りつけて、号泣しながら俺にお礼を言った。
「いや、そんな、頭を上げてくださいよレイさんっ!」
「あ、あ、あなだの、お、お陰、お陰でええええーっ!!」
俺達はレイさんが落ち着くまで静かに見守った。
しばらくしてアイラさんが口を開く。
「レイ、あなたの店はずっと繁盛してたじゃない? どうしてこんな事になったか聞いてもいいかしら? 」
「……は、はい、もちろんです。」
レイさんはゆっくりと、今までの経緯を俺達に話し出した。




