3話 各駅停車異世界行 ダァ シエリイェス シエリイェス
かくして俺達は一億年間、修行することとなった。
サタンが何やら魔法名を叫んだ時は正直怖かったが、これで異世界の時間が止まったのだから驚きだ。
「では、これより本当の本当に一億年間修業します!」
気を取り直して、と女神が声高らかに宣言した。
場所を移動しないということはここで一億年間修行するのだろうか?
「なあ、修行はここでやるのか?」
「そうね。本当は温泉に入って身体を清めたり、山に登って精神を清めたり、美味しいものを食べ歩いてお腹を清めたり、映画を見て感情を清めたりしたかったけど……」
「いや、清めるっていうかほとんど遊んでないそれ? なに、お腹を清めるって」
「だが、吾輩達には時間がない。そういうことだな?」
「ええ、そうよ。現に魔王の仕業かは不明だけど、別世界が四つも破壊されたわ」
女神の言葉を聞いて背筋が凍った。
別世界……スケールの違いにも驚いたが、魔王とやらは世界をそんなに滅ぼせるのか。
「ああ、いや。その別世界四つは我が破壊した」
いや、お前かい! なんで味方が既に悪事を働いているんだよ!
「そうなの? なら、いっか」
いや、良くないだろ。なんで魔王は駄目でサタンは大丈夫なんだ。
「とにかく、そういう訳で私達には時間がないわ。一億年間という時間は貴方達が思っているほど長くはない。だから、私達はこの一億という限られた時間の中全力で修行するのよ。いい?」
今までにない程、女神の目が真剣だ。
彼女の言葉は事の重大さを物語るには十分すぎる力が込められていた。
「――して、具体的には如何様な修行をするのだ?」
「そうね……」
サタンの問いかけはもっともだ。
俺的には一億年もあるなら色々なことが出来ると思うが、一秒一秒を無駄には出来ない。
なるべく効率の良い修行方法を見出して取り組む必要があるはずだ。
「正直、最初は魔法やらスキルやら教えながら……とかも考えたんだけど」
魔法にスキルか。どちらも異世界を渡り歩く上では必要そうだな。
さっきのサタンを見てれば魔法の強さや便利さは理解できた。
「魔王とやらは小手先の力で倒せる相手でもなかろう? ならば我々が必要な力はただ一つ」
「……やっぱりそうよね」
サタンの言葉に女神が頷いた。
俺にはさっぱりだが、どうやら修行内容の答えは既に決まっているらしい。
「それで、その力ってなんなんだ?」
「カンタ殿。吾輩達が身に着けるべき力はただ一つ」
「――筋力よ!」
……はい?
「全ての力を圧倒的にねじ伏せ叩き落す力! それこそが私達に一番必要な力よ!」
「え、えーと。それって要するに一億年間筋トレするってことか?」
頼む、違うと言ってくれ!
もしくは筋トレしながら魔法の修行もするとかにしてくれ。
「そうよ!」
ちくしょう! そうだった! 正解してたよ、最悪だ!
「確か、ここ天界には結果にコミットするテンザップという修行場があったな?」
「ああ。あの、ゲームの攻略サイトで有名な……」
いや、それワ〇ップ! というかテンザップってなに? 何をコミットするの!
「よく知っているわね、サタン。今から四人一億年で予約するから早速行くわよ!」
「おう!」
「うむ」
こうして俺達の一億年間の修行……というか筋トレ生活が始まった。
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それからの生活は地獄だった。
指導員、もといトレーナーさんによる激しい指導と厳しい食事制限。
週に三日の食事風景の報告と睡眠時間の報告。
だが、毎日のトレーニングのおかげで、俺達は確かな絆を築き上げていた。
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「おい、女神! カップラーメンはマズいって!」
「うるさいわね! たまにはいいでしょ!」
ある時は違反摂生を行いそうになった女神を止めて……
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「女神殿! コーラとポテチは駄目だ!」
「うるさいわね! 偶にはいいでしょ!」
「取り上げるんだ! 没収だ!」
また、ある時は違反飲食をしそうになった女神を止めて……。
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「――我の上がりだ!」
「ちょっと待ちなさい! サタン、ウ〇って言ってないわよ!」
「サタン殿、カードを引くんだ」
これまたある日は四人で高度な心理戦も行った。
そうして一億年の修行を乗り越えて――俺達は鋼の肉体と圧倒的な力を手に入れた。
身長も伸びて二メートルはあるだろう。女神は俺より少し小さいが同じく伸びていた。
サタンとサンタは三メートルはあるんんじゃないか?
これもひとえに一億年の修行のおかげだ。
そして遂に、俺達は異世界へと行く。
「みんな、準備はいい?」
出発準備を終えた女神の言葉に全員が頷く。
これから向かうは異世界。
魔王を筆頭とした魔王群を打ち滅ぼすために俺達は転移する。
この一億年間の修行を無駄にせんと、各々の顔にはやる気が満ち溢れていた。
勿論、それは俺もだが。
「まさか我が世界を救う旅に出ることになるとはな……」
「サタン……」
俺もそうだ。
まさか世界を救う大役を背負うことになるとは思わなかった。
だから俺はサタンに言った。
「大丈夫だ! 俺達は辛い一億年を過ごした仲間だ! きっと救えるさ!」
「――カンタ。ああ、そうだな」
「それじゃあ、みんな行くわよー!」
少しだけしんみりした空気だったが、女神の一声で切り替わった。
女神が満面の笑みで声は張り上げた。
「力こそ――」
「「「「パワー!!!!!!!!!!!!!!」」」」
こうして、俺達の冒険が幕を上げた!
「はい、じゃあこれが電車のチケットね~」
そう言って渡されたのは『六番線各駅停車異世界行き』と記された切符だった。
……電車で行けるんだ。