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第1話 ほぼ裸一貫サバイバル

 真冬の朝。時々吹く凍てつく風と、快晴の空から降り注ぐ暖かい日差し。

 それらが演出する極端な温度差を痛感しながら、ちょうどあったコンビニを見つけるとすかさず駆け込む。

 一歩一歩踏み出す度に感じる足の痛み――砂利を踏み続けるような感触――をグッと我慢しながら。


 全く車のない駐車場。その奥の塀とコンビニの壁の隙間にかがんで身を隠す。足の痛みが気になり、塀に背中を預けて恐る恐る足の裏を見る。

 赤く生々しく炎症している。冷え切ったアスファルトの上を歩いた両足は、マンションから五分歩いただけでも悲鳴をあげているようだった。

 まだ靴もない時代を生きた原始人の偉大さと、靴を発明した社会のありがたみが身に染みる。


 凍てつく風から無意識に両手と膝で丸まる。このままでは足がボロボロになって歩けなくなるだけでなく、体も長くは持たない。

 なにを隠そう、今の格好はパジャマなのだから。長袖の紺色の寝巻姿に裸足で歩く男の姿は、犬を連れて散歩する通行人や家族連れの子供とすれ違う時も奇異な目で見られたものだ。

 

 早急に臨時にでも服、靴下と靴を調達しなければならない。胸ポケットにある、この真新しいクレジットカードだけが最後の希望である。立ち上がって、駐車場の方へと出ていく――、


「おい、この金田かねだ鉄生てつおって男見かけたらすぐに知らせろ」


 荒々しい声が聞こえた。慌ててコンビニの壁にしがみついて身を隠す。

 そっと、隠れながら声がした方向を見てみると――やはりというべきか――コンビニ入口前で二人組の黒スーツの男が、店員にビラを見せて話をしている。

 ついにビラまで作って聞き込みを始めたようである。顔写真が載ったそのビラを見てみたい気もするが、今出ればたちまち蜂の巣だ。

 駆け込んで良かったのかもしれない。あと一歩遅れてたらあの二人組に襲われていただろう。


「なにしてるのよ、アンタたち!」


 道路の方から――二人組の背後より――制止すべく現れたのは一人の少女。その瞬間、鉄生に身体的な意味ではなく、精神的な意味で寒気が走る。

 ――やばい、あの女が来た。

 幼く精悍な顔つき。背丈の小さい体には少し大きめの、襟と袖に青いラインが入った黒コート。黒いリボンで結んだ涼しげな水色のツインテールに、海のように透き通った蒼き双眸そうぼう

 腰のホルダーにしまってある二丁拳銃は――何も知らない店員からすれば――コスプレの小道具に見えるのかもしれない。だが、あれはれっきとした本物である。

 実際、その銃弾は()()()()()()()()()()()()()()()()()

 どうしてあんなに小さい女の子が銃を平然と扱えるのか――謎で仕方が無かった。


「これはこれはイリアさん! 金田鉄生の聞き込みをしていた所です」


 先ほどまで荒々しい口調だった男も急に腰を低くした態度でイリアに接する。

 するとイリアは男の一人が持っていたビラを取り上げて、


「ウチのバカが迷惑かけました。なんでもありませんのでお引取り下さい」


 急に襟を正した態度で弁解する。

 小さいのにしっかりしたその姿はとても立派で人を殺そうとしてくる相手には到底思えない。

 格好はおかしいが礼儀正しい少女を前に、店員は「そ、そうですか」とやや困惑しながら店の中に戻っていった。


「二人とも! ビラなんか配って聞き込みする必要ない。二子ふたこ玉川たまがわ二子ふたこ新地しんちを固めなさい。そうすればアイツは足でしか逃げられなくなるわ!」


 自分よりも大きい男二人に物怖じせず、イリアは不機嫌な態度で二人組の男を引っ張るようにしてどこかに立ち去った。

 だが、重要なのは見つからなかったことではない。


 二子玉川と二子新地。隣接するこれらの駅は橋を挟んで徒歩で行き来出来るが、他の駅まではとても徒歩で逃げられる距離ではない。

 このままでは普段滅多に使わないタクシーかバスを使うしか逃げる手段がなくなる。

 それにいずれもクレジットカードの支払いが出来るか、思い出せない。

 最悪、別の意味でジエンド。答えはひとつ。

 ――賭けで自分追い込むぐらいならば、最も確実な方法で逃げるのが効率良い。


 だいぶ休息出来た。この格好では追っ手にすぐ見つかってしまう。

 格好さえ変えれば、今の状況を覆すことも可能なはず。

 追っ手に気をつけながらコンビニを出る。確か、駅のある街の外れに洋服店があった。自らの記憶を頼りに頭の中で地図を構築し進む――。

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