四
ーー姉?いや、慌てて振り返ると奇妙な、いや奇怪な生き物がそこにいた。
屋根裏部屋の奥に荒縄につながれた驢馬のような生き物がいるのだが、その首の一部から蟾蜍の手足のようなものが無数に発生しているのだ。
それらは絶えず蠢き、そして泡立ち潰れながらヌラヌラとした体液を滴らせている。また恐ろしいことにその先には両生類を思わせる巨大な頭部から、そしてその上顎から先には人間のそれが発生し、そのぶよぶよとした皮膚に、フジツボを思わせるグロテスクな毛穴からピンと硬い毛をまばらに生やしているのだ。
あまりに現実離れしたシルエットに、悪趣味な美術品の類か何か、もしくは見間違いかと思いたくなったが、どうやらそれは確実に生きた、そう生き物らしかった。
それは、絶えずブツブツと言葉を、それも著しくズレた抑揚で発しているようで、いよいよそれはハッキリとわたしにも聞き取れるものになった。
ーー影や道陸神、十三夜のぼた餅ーー
これは私たちの影踏み遊びの歌、それを、その生き物は低く、しゃがれた男性とも、あるいは獣とも老婆ともわからぬような声と、歪んだ声音で繰り返しているのである。
その生き物は、そうして耳まで裂けた口をぱっくりと開くと、黄色く汚れ、また大きく歪な歯の、その内には無数の、人間の指だ、それが所狭しと、イソギンチャクか何かのように犇めいているのだ。
それを合図にそれの、あるいは彼の歌はわーん、わーん、と頭に、鈍くそして痛覚を伴って響き、とうとう立っていられなくなる。屋根裏部屋の全体、私の周囲でドタドタと子供のような足音が、足音だ。うるさい、ああ、複数人の走り回る音がするのだ。そして床は人間の爪で敷き詰められ、その事にとうとう私は、いよいよ恐ろしさのあまりに、半狂乱になった私は死にものぐるいに屋根裏から転がり落ちるように降りて、姉の元へと戻り、姉の腕を握り、驚き様子を聞こうとする姉など無視して、その腕を掴み、一目散に寝室に戻って布団の中に閉じこもった。
布団の中で私は、あの生き物に今もつけ狙われているのではないかという恐怖に取り憑かれ、姉の手を絶えず握りしめ微かな物音にすら震え上がり、その日の夜は決して眠ることなどできなかった。