かくれんぼ
好奇心旺盛というのは本当だ。
何かしら人、物に関して興味がある。
特にみんなが信じないような都市伝説はかなり好きだ。都市伝説とは俺たちが知らないだけで実はいろんな所にヒントが隠されているのではないかというものだ。世界の裏で牛耳ってるものや事件や事故の陰謀。それに加えて霊感やスピリチュアル的なものにも興味はある。
そんなわけで、桜の妖精こと美袋きなこの世話をするように担任の立花先生に命じられ、俺はいま校内にいるであろう美袋を探している。
先生曰く、いつもは人気の少ない教室に一人でいることが多いと言っていた。
教室に行けない生徒は大抵保健室に居座っているが、美袋に関してはそうはいかない。美袋のせいで怪我をした生徒が立ち寄る部屋に元凶がいるわけにはいかない。
本人もそれを分かっていて違う教室に一人でいるのだろう。
「竹上がもしきなこを教室に連れて来てくれたら内申点アップするぜ」
俺はそんなつもりではないが了承した。
つまり、俺にとって美袋は「興味」の対象なのだ。
可哀相だとか同情とかではない。ただの興味だ。
どんな災難を呼ぶのか、被害が起こるのか、それが本当なのか嘘なのか。
そう、俺にとって美袋自身が都市伝説だと思っている。
俺は推理した。
人気の少ない教室というのは部活棟だろう。
秋風高校には教室棟と科目棟と部活棟(旧校舎)がある。
教室棟は文字通り俺たちの教室がある建物だ。一階が三年で二階が二年、三階が一年となっている。
歳を取る分だけ階段を登らなくていいシステムだ。
続いて科目棟は職員室や保健室、会議室がある他、選択授業なので使う教室などがある。
こちらの棟は結構頻繁に生徒が行き来するのでこの棟にはいないだろう。
残すは部活棟。昔教室棟として使われていた場所だ。建て替えができたと同時にこちらは部活動で使うための教室として残してある。なんせ多彩の部活動がある学校だ。教室を使いたい部活もあるだろう。部室としても活用している部もあるみたいだ。
そこなら放課後以外は誰も近寄らない。そう俺は推理して部活棟に向おうと思った。
「いやまてよ。今って放課後やん」
ミステイク。放課後なら部活棟に生徒が行き来している。
それを避けているんだ。だとすれば美袋はいったいどこにいるのだろう?
「放課後こそ教室にいるのかもしれない」
俺はあえて教室に戻ることにした。
俺が教室を出るときには三、四人しかいなかったからもういないだろう。
保健室がある科目棟二階から教室棟につながる渡り廊下を渡って教室へ向かう。
他の教室には生徒はいない。ならこの推理に間違いない。
俺の教室一年B組にたどり着き扉を開ける。
ガラ
時刻は17時30分
夕日が教室内をオレンジ色に染めている。
その光の中に俺は探しものを見つけた。
今度は太陽の妖精だ。そしてこないだと同様のツインテールだ。
美袋はブレザーの下に薄いピンク色のカーディガンをきている。
足元は相変わらず黒いタイツだ。
美袋は俺に気づきビクッとなって咄嗟にカーテンにくるまった。
「よう。何してんだよ」
「な、なんでいるんですか?!」
「お前探してた」
美袋はくるまっていたカーテンから出てきて驚いている。
そりゃそうだ。避けろと言われている人物に自ら会いに来るんだ。本人もびっくりだ。
「あ、あなたは私の噂知らないんですか?」
「知ってるよ。災難女子なんでしょ?」
美袋は脱力し、大きく深呼吸をする。
「だったら、今すぐここから出て行ってください」
長い前髪から俺をにらんでいる。威嚇だ。
「そうもいかんのだよ。立花先生に頼まれたから」
「え?」
美袋は凄く驚いている。
「お前の面倒を見ろってさ。担任命令」
驚いた顔からまるでトマトのような真っ赤な顔に変化した。
「な、なんでそんな、だめですだめですよ!!」
美袋は両手を前にだし、手を左右にぶんぶん振る。
完全拒否されるのは少し傷ついた。だが拒否するのは当たり前だ。
「だって俺、あの日怪我してなかったっしょ?」
入学式の登校中、俺は木に登っていた美袋が足を滑らせて落ちてきたところを受け止めた。
でも怪我はしていない。これが美袋を納得させられる理由になるはずだ。
「…たしかにそうですが。でも、たまたまだったんじゃないですか?」
「うーん。どうやら俺は強運の持ち主らしいんだよ」
「で、でも」
これだけいっても美袋は納得しない。どうしたものか。
「じゃあさぁ今から一緒に帰ろう。その帰路で何も起こんなかったら面倒みてもいいか?」
美袋は目を泳がせておどおどしながら決めかねている。
彼女の中では絶対何かが起きると思っているからだ。
俺はまだ被害にあっていない。あの日のことも被害だとは思っていない。
でももし今から一緒に帰って何か起きればそれは本当なのだろう。
俺はそっちに興味がある。別に命を落とすわけじゃないんだし。
「よし、決定! ほらいくぞ」
俺は美袋の腕を掴み教室を出た。
「あ、あの、本当に大丈夫なんですか?」
「大丈夫っしょ」
気楽な気持ちで俺は応える。
下駄箱まで降りてきたが今の所なにもない。
「ちなみに一番ひどかった災難って何なの?」
「いえません…おぞましくて」
え、そんなに?
「じゃあ軽めのだったら?」
「中学の時に、日直の子が集めたノートを職員室に持っていくようになっていたんですが、友達と用があるからって私に頼んできた子がいまして」
「ほう」
「その子が、その後階段から落ちて足を骨折し、入院しました」
あぁこれか。立花先生がいっていたやつ。本当なんだ。
「でも死んだとか、命に関わることじゃないんだろ?」
「…それはその」
美袋は少し身体が震えていた。
「とりあえず試してみないことには俺もきちんと面倒をみるとは言えないからな。俺自身強運の持ち主とは自覚してないし。どちらにせよ本当なのかどうか確認しないと」
「も、もし何かあったらとことん私を責めてください」
「いや、責めないよ。俺が勝手に言い出してるんだから」
お互い靴を履き替え、いざ戦場へ。
というのは冗談で、俺たちは一緒に帰ることにした。
「にしてもさ、お前いつもどこに身を潜めてんの?」
「みなさんに会わないように部活棟の教室にいます」
やはり俺の推理はあたっていたわけか。
「家にもいづらいので、学校には来ます。でも噂が流れていると先生からきいて教室にもいけなくなって、私居場所がなくて……」
ぽつりぽつりと美袋は俺に話す。
「だから私」
突然強い風が吹いた。
学校に咲いている桜の花が塀を超えて飛んできた。幻想的だと思った。
何かが始まるような気分になった。でもそうではなかった。
「だから私、死のうかとおもってるんです」
俺はその場から動けなくなった。
それは幻想的な景色に魅了されたのではなく、
美袋の口から「死」の言葉が出てきたからだ。