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美袋さんは今日も死にたがっている  作者: 稚明
第一章 出会い
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高校生という変化

4月

俺、竹上慎也は秋風高等学校に入学した。

偏差値は進学校より下回るが、それなりに評判のいい普通科の高校だ。

まず決めては制服だった。中学は学ランで首周りのアレが苦しく感じていた。身だしなみに関してはきちんとしておきたいのだが、どうしてもあの首を締められるような襟が苦手で受験の時以外はフックを外していた。

秋風高校は男女共通のブレザーだ。女子はリボン、男子はネクタイ。それぞれ赤色のものだ。

ブレザーは「秋風」からきているのだろうか、濃い茶色をしている。女子のスカートは赤いチェック柄と、全体的に秋をイメージさせるデザインになっている。

あまりにも制服が俺好みだったので、入試面接の時に志望動機で言おうかと思っていたが、中学の担任に

「それだけはやめてくれ」といわれたので言うことはなかった。俺はどうしてもこの抑えきれない気持ちを誰かに知ってほしくて入学式の日のホームルームで自己紹介のときに話した。

クラスのみんなに爆笑され一躍人気者になった。


そしてもう一つの決めては


「多彩な部活動」


この学校にはいろんな部活動がある。

俺が耳にしたものでは「針金研究部」とか「漫画評論部」とか、誰が入るんだろと思う。

その中でも奇抜な部活なのが「発掘部」

この学校には遺跡でもあるのだろうか?

もしあるのならばぜひ掘り出してみたい。埋蔵金とかでてきたときはどうしようか。


「なぁ、慎也は部活どうすんの?」

部活の入部届の欄に記載されている多彩な部活動名をみていたら、友人に話しかけられた。

「いまんところは決めてないな~。こんだけあると回ろうと思っても一週間はかかるだろうし。お前こそ気になる部活あった?」

「俺は中学の延長線でバレー部だな! 秋高の男バレはめちゃくそ強いらしいぞ!」

親指を立てて決めポーズをとるそいつは中学のときからの友人で貴重な相棒、生田忠成(いくたただなり)。何がきっかけでこんなに仲良くなったかはまた別のところで話そう。

生田と同じクラスに慣れたのは少し救いになっている。

「バレー部かぁ。俺、運動はしたくないからな~」

「お前、黙っているとただのガリ勉くんだもんな」

ガハハと生田は笑う。

何がおかしい。ただメガネをかけていて制服をきちんと着こなしているだけでガリ勉くんだと決めつけないでいただきたい。

「てなわけで俺はバレー部の見学いくけど、慎也は?」

「俺は、いろんな部活見て回るよ。謎な部活の活動内容とか気になる」

「発掘部とか? たぶん裏山へいって土掘ってんじゃね?」

「ありえる。でも、汗かくなら嫌だな」

「そこかよ」

運動が嫌な理由の1つは汗をかくことだ。

嫌だろ? ベタベタした肌なんて。

「そういえば生田」

「なに?」

「俺のクラスに桜のようせ……いや、月にかわっておしおきしそうな女子いたよな?」

「なにいってんの? 慎也」

「うちのクラスにほら、髪を2つにくくった女子、いたよな?」

「いたっけかな?」

入学式の登校中に出会ったあの桜の妖精がまさか同じ学年で同じクラスだとは思わなかった。

これは何かの運だと思って次の日見かけたら話しかけてみようかとおもったが、美袋は教室にいなかった。あれから美袋を教室でみることはなかった。

担任の立花先生が出欠を取る際に「美袋…は、ここにいないっと」といいながらいつも出席簿に何か書き込んでいる。どうやら教室には来ていないが学校には来ているようだ。

だとすればいつもどこにいるんだろう?

「てか、慎也が1人の女子に興味もつとか珍しいね」

「そうか? 俺は好奇心旺盛な少年なのだよ生田くん」

「少年なんだ」

つっこむところはそこではないが、納得してくれた。

でも生田は美袋の存在を知らなかった。席も教えたが見たことがないという。

「俺はもしかして幽霊でも見ているのだろうか」

「いやいや、きっと存在感がすごく薄い子なんだよ」

いらぬフォローをもらい、生田は部活見学に行ってくると体育館へ向かった。


「部活見学がてらに探してみるか」


確かに俺ははちゃんとみたし担任はちゃんと美袋を認識している。

だからちゃんと生きている人間でちゃんと学校に来ているのに何故教室にいないのだろう?

俺はカバンを持ち、部活動を見て回りつつ美袋を探すことにした。


「あれー? 竹上くんじゃん! おっひさー!」

教室を出て廊下を少し歩いていたら前方から右手を上にしてぶんぶん横に振っている女子がいた。

聞き覚えのある声だったが、誰かわからない。

もしかして新手のナンパか?

「あいっかわらずきっちりだね~!」

俺の眼前まで来たのに誰なのか分からない。

名を名乗ってほしい。

「あれー? わすれたのー? ほらっ塾で席がとなりだった荒瀬(あらせ)荒瀬詞乃(あらせことの)だよ!」

名前を言われてぶわっと記憶が蘇る。

いやいやいやいやいや、まてまてまてまてまて

「おま、え、どうした? まさか、これが高校デビューとかってやつか?!」

俺の知る荒瀬詞乃は黒髪できちんと髪を一つくくりにし、化粧っけの無い素朴な女子だった。今俺の眼の前にいるのは、少し茶色がかった長髪で少し軽めのパーマがかかっている。多少化粧もしていて、目元はばっちり二重でまつげもすごく上を向いているただのギャルだ。

「えへへー。あれは偽物の私だよー? ここが受かったら好きなようにしていいってママと約束してたから~! 頑張った甲斐があったってもんよ!」

くるりと一回転して両手を広げてニコリと笑う。

女子って怖い。化粧と髪型1つでこんなにも別人になるなんて……。

「では、今の君とは初対面となるわけだな。初めまして竹上慎也です」

「初めまして~って私は二重人格じゃないやいっ!」

彼女は右拳を俺の胸板に叩きつけた。地味に痛い。

「てなわけで、高校でもよろしくね! 竹上くん!」

その右手で握手を求めてきた。反射的に握手をする。

彼女の手はとても綺麗で爪もキラキラしたネイルをしている。

ただ、一生懸命受験勉強をがんばった証のペンだこだけは健在だった。

「そういえば、荒瀬。美少女戦士みたいな髪型の同学年の女子をしらないか?」

そうだ、女子のことは女子にきけばなにかわかるかもしれない。そう思って荒瀬に美袋のことを聞いた。

「何その月に変わっておしおきよ的な表現」

荒瀬は決めポーズまで一緒にしてくれた。

彼女の素は全く読めん。

「そう、見かけたことあるか?」

「うーん。無いことはないけど~」

「どうかしたか?」

荒瀬は俺に言いたくないのか、話そうか話さまいか考えている。

おそらく俺のいう女子と荒瀬の思う女子は同一人物だ。

でもなぜ言いにくそうにするのだろうか。

「実は女子の間で少し話題になってるんだけど、もしかしてこの子のことかな?」

荒瀬はポケットからスマホを取りだして該当する子の写真を見つけ出し俺にスマホ画面を見せた。

「この子だ…」

荒瀬が見せてくれたのはツイッターに上がっているツイートだった。

『秋高の生徒は拡散』というタグがついている。

その後に文章が続く。

『この子と話したら災難が降りかかるらしい! 見かけたら避けること!』

そうツイートされていてその下には美袋の写真が載せられていた。

「竹上くんはこの子と知り合いなの?」

「いや、知り合いというか、桜の妖精というか」

「は?」

「いや、俺と同じクラスなんだけど、入学式以来教室で姿を見てないから気になって」

教室に来れないのは本人がこのことを知っているからだろうか。


これは『いじめ』だ


「でもなんか本当に災難にあった子がいたみたいで、その子はこの美袋さん? に会うのが怖いんだって」

そういいながら荒瀬はそのツイートのリプライをスクロールする。

「恐ろしい世の中だな。校内での噂がこうやって全世界に配信されているって考えただけで恐怖だ。圧倒的恐怖!」

俺は寒気がした。自分がその立場だったらと考えた。きっと生きるのが辛くなるだろう。


生きるのが辛くなる。

その気持はもう考えないようにしていたんだがな。


「竹上くんの担任ならなんか知ってるんじゃない?」

荒瀬はツイッターを閉じた。きっと荒瀬もそのツイートをみて憤りを感じたのだろう。

顔が険しくなっていた。

確かに、担任なら何か知っていそうだ。

「聞いてみるよ。ありがとうな荒瀬」

「あ、ちょ、せっかくだし、連絡先教えてよ!」

これも何かの縁かと俺も思う。こんな広い世界でたった何ヶ月の間、となりで勉強していた受験仲間とこうも再開(しかも相手は高校デビューしている)するとは思わなかった。

俺は荒瀬と連絡交換をし、何か情報を得たら連絡するといい別れた。


そうか、担任なら自分のクラスの生徒のことを把握しているはずだ。

俺はその足で職員室に向かった。



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