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怪事件推理

休み時間

俺は美袋に会い、今朝の騒動を説明しアリバイを確認した。

美袋は一度教室に行った後ずっと部室にこもっていたという。これに関してはアリバイとはいいがたいが、美袋の中学時代の話を聞いて俺は確信を得た。しかし目撃者がいない。犯人だと思われる人に「あなたがやりましたね」と言い放っても「違います」と言われてしまえば終わりだ。証拠がない。証拠があれば、確実に犯人を攻められるのに。多分俺の推理は当たっている。だが、本人たちが白状しない確率のほうが高い。一人で考えても埒が明かない。そろそろ休み時間も終わる。昼時間にでも飯塚に話を聞いてもらおう。美袋には放課後まで部室にいるように指示をだし、俺は部室を出た。

部室棟から科目棟へ移動しさらに教室棟へと移動する。階段を上り終えたところで後ろから声を掛けられた。

「なにしてんの、たけちゃん?」

そのたけちゃん呼びをするのはただ一人しかいない。俺は大きなため息をついて後ろを振り向く。

「荒瀬。たけちゃん呼びはやめてくれ」

「じゃー、えーと下の名前なんだっけ?」

「下の名前でちゃん呼びもやめてくれ」

本日の格好は頭の上にお団子が二つ左右についている。相変わらず化粧はばっちりだ。そして唾液がたまりそうなレモン果汁百パーセントの紙パック飲料を飲んでいる。にしてもメイクとヘアーの準備に果たしてどれだけの時間を費やしているのだろう。女子は大変だな。

「んもーつれないなー。それより、今朝B組すごかったってねー」

荒瀬はスマホを片手でもち、親指でタップしている。

「ほら、もうツイッターにあがってるよ? この子のせいだって」

俺にそのツイート画面を見せてくれた。また胸糞悪い拡散ツイートだ。そこにはその教室の荒れ果てた姿が数秒ほどの動画で投稿されている。ツイートされた時間は七時五十分。俺が教室に来る前だ。

「でも、犯人は美袋じゃない。今それを証明しているところなんだ」

荒瀬はポカーンとした顔で俺を見る。何かまずいこといったか?

「犯人じゃない? 証明している? え、え、どゆことー?」

なんだろう、このキラキラした目。見たことあるぞ。

「美袋ではない誰かがやったんだと俺は思ってる」

キラキラした目は輝きを失い元の荒瀬に戻った。そしてスマホ画面に目を戻した。

「ふむふむ。この子って人を恨むような子にみえないもんね」

「だろ? ましてやこんな噂が流れているのを知ったうえで本人がするとは到底思えない」

そうだ。教室にいたのは昨日の一日限り。その限られた時間で美袋が恨むような人などいない。美袋が自分のクラスをめちゃくちゃにする動機がない。

「じゃあその逆だね。逆ならありそうじゃない?」

荒瀬はスマホをポケットに入れ、レモン汁をギューっと搾り取るようにストローから吸い取る。飲み終わった後、とてもすっぱそうな顔をする。俺まで口の中に唾液がたまる。

「逆ってどういうことだ?」

「逆は逆。恨むような人ではないなら、恨まれるような人なんでしょ?」

荒瀬は少し寂しそうに廊下の向こう側を見ている。生徒たちがそろそろ授業が始まることに気付き教室へと入っていく。俺たちもそろそろ教室に戻らないと。だが、荒瀬はそこから動こうとしなかった。

「荒瀬?」

「まーそういうことよ。何か役に立てることがあれば連絡してよねっ」

荒瀬は俺より先に教室のほうへ向かった。


そういえば、荒瀬って、いつも一人だな……


俺は教室に戻り、席に着く。

「慎也、どこに行ってたんだよ。あ、さては犯人探しにでもいってたのか?」

「違うよ。事情聴取に」

「美袋さんの居場所知ってんのか? クラスの奴らみんなで美袋さんを追い出そう運動起こしてるぞ」

生田は周りに聞こえないよう俺の耳元でいう。まさか俺がいない間にそんなことになっていたとは。きっとその場に飯塚もいなかったんだろう。あの荒れ果てた状況がなぜ美袋だと思うんだろう。災難女子だから? 美袋の存在自体が災難だから? お前らが被害にあいたくないからか? だんだん考えているうちに自分の眼鏡に怒りを込めてぶん投げてしまいたい衝動にかられた。

「慎也、眉間にしわ寄ってるぞ」

「おっと。すまない。俺の中のダークマターが吐き出されそうになっていた」

「だーくまたー?」

「そこは流せよ生田。まぁ、飯塚と話して明日になれば解決すると思う」

「だといいがな。女子ってどうしてターゲットを作っておきたがるんだろうな」

本当に。これが自分を守るための行為だと言いたいのか。違うだろ。自分を守るために他人を犠牲にするのはよろしくない。それが残酷な結果になることを君たちは知らない。この状況を俺は許せない。だから絶対に暴いて見せる。荒れ果てたようにした本当の犯人をな。


昼休み

結局飯塚に声を掛けるタイミングがなく、昼休みになってしまった。

「私は絞り込めたよ。本当の犯人がね」

キラリと目を輝かせ、名探偵飯塚は俺に自慢をする。ははは、笑わせる。俺だって犯人はほぼ絞り込めている。だから全然驚かない。

「美袋にアリバイを聞いてきた。それもあって今から委員長に来てほしいところがある。時間いいか?」

「べつにいいよ。いつも昼ごはんは一人なのでね」

飯塚は片手に弁当の入った巾着。片手に小さなメモ帳とボールペンを持っている。生田には美袋を探しに行ってくるといっておいた。生田は部活仲間と昼ごはんを食べると言って別れた。

「で、美袋さんはどこにいるのか知っているのかい?」

「ああ。発掘部の部室だ」

飯塚は片手に持っていたメモ帳を開いた。ネタ帳といってもいい。今までのネタを書いているのだろう。

「なるほどね。点と点が結びつくってこういうことなのね」

「何のことだ?」

「なんでもないよー。じゃあ部活棟まで行きますか」

俺たちは美袋がいるであろう部室棟三階を目指した。


「美袋、おじゃまするぞ」

部室棟三階の奥の教室。今日は美袋だけがいて昼食を取っていた。

「あれ? 今日先生は?」

「仕事が終わらなくて、だそうです。えと…」

「もう二人の空気感できてるじゃーん。委員長のお仕事はなしでいいかな?」

俺の後ろから飯塚がひょっこりとあらわれ教室に入る。

「こんにちわっ美袋さん。今日の騒動は聞いているよね?」

飯塚は美袋が使っている席の向かい側に自分のお弁当を置き、メモ帳を開いた。なんだろう。本格的事情聴取が行われている光景がそこにあった。俺は教室の扉を閉め、離れたところにおいてある椅子を一つ席までもっていき座った。

「はい。わ、わたしのせいなんですけど…いや、わたしのせいではなくて」

どうやら俺が禁句だといったことをきちんと守っているみたいだ。もう言ってしまっているが。

「私は美袋さんのせいじゃないと思ってるよ。ていうか美袋さんのせいじゃないでしょ」

あはははと近所のおばさんの世間話をしているかのように飯塚は笑いながらいう。お前、さては年齢詐欺ってるな?

「はい。いや、はい。だって私ずっとここにいましたから」

「だーよねー。でも美袋さんがこの部屋にずっといたという目撃者がいないんだよねー」

飯塚は俺と同じ考えだった。目撃者さえいれば。

「ん? 目撃者…」

目撃者といえば休み時間に荒瀬が見せてくれたツイートを思い出した。

「美袋には申し訳ないんだが、また拡散ツイートが流れてて、それに数秒の動画が添付されているんだけど。これ証拠になるか?」

俺はスマホをポケットから取り出し、ツイッターアプリを起動する。俺のアカウントから検索をかけて荒瀬に見せてもらったツイートを探した。

「これかぁ~。うーん。これ、私たちが来る前に取られているよね? ん?」

飯塚が何かに気付いた。

「ねぇ、美袋さんと竹上くんの席って荒らされてなかったの?」

「荒らされてなかったんだ。綺麗に定位置にあった。俺たち以外のみんながいろんなところへ移動させられていた」

「なるほどね~。あと、この動画、数秒だけだけど、いい証拠だよ。これ使える」

ニヤリと名探偵飯塚は笑った。

「どうしてそう思うんですか?」

「この動画、みんなが自分の席を自分の位置に戻しているだけの動画なんだけど、よくみてみてよ」

机にスマホを置き、動画を三人でみる。

「なんか違和感ないかい? まぁ私は最初からこの子たちだと思ってたけど」

違和感? ただみんなが机と椅子をもとに戻しているだけなのだが。それに最初から知っていたとはどういうことなんだろう。

「お、おしえてください委員長様!」

凄く尊敬の意を表して様をつけたのか、まるで飯塚が神様のようにみえているのだろうか。美袋は両手を絡め、神のお告げを聞くような恰好をしていた。内心俺も気になる。俺たちは飯塚に目線を送った。

「ちなみに竹上くんは誰が犯人だと思ったのさ?」

「俺? 俺はクラスの女子の誰かだと思った。理由は美袋が中学時代にも同じような現象が起こったと聞かされて、美袋の近くにいたくない奴が俺たちのクラスにもいるんだとふんだんだ。だが、特定まではできてなくて今日委員長に話を聞いてもらおうと思ってたところだったんだ」

飯塚は椅子にもたれて腕を組んで深く息を吐いた。

「女ってなんでこういうことしちゃうんだろうね。同じ女子として情けないよ。これは委員長である私が注意と今後の忠告をしなければいけないね」

なんだか飯塚が凄く大人に見える。同じ同級生、しかも高校一年生とは見えない。お前、さては留年組か? そんな冗談はさておき、飯塚のその発言が凄く支えになる。俺にも、美袋にも。

「とにかく、犯人は誰なのか、どうしてこんなことをしてしまったのかを帰りのホームルームで話をするよ。立花先生にはこちらから話つけておく。そして明日からは美袋さんは教室で授業が受けられるようにできるから、安心して」

「は、はい!」

飯塚の「安心して」という言葉がどれだけ安心できるだろう。俺は肩の力を抜いた。

「あと、竹上くんは一人で突っ走りすぎだよ。頼らなすぎ」

急に俺に話を振ってきた。え、俺なの?

「まぁ、仕方ないんだろうけど…」

小さな声で飯塚はそういった。俺たちははっきり聞こえず聞き返したがはぐらかされた。

そのあと昼ごはんを食べ、俺たちは教室へ戻る。

「また放課後くるから」

俺たちは部室を後にする。俺は飯塚に話を聞いてもらえた分肩の荷が下りた気分だった。

「さて、私たちは安心するのは早いからね。帰りのホームルームが肝心だから」

「お、おう」

「推理するのは名探偵竹上慎也だから、そこんとこよろしくっ」

「え、なんで俺?」

「だって美袋さんの世話役でしょ? ちゃんと世話しなくちゃじゃん?」

飯塚はニヤリと笑った。

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