世界観・用語
歴史修正者が使った■■■■■■により、真の史実は捻じ曲げられた。時間とは一次元。つまり、点と点を繋ぐ線のようなものだ。なぜなら時間は「流れる」ものであり、流れる方向は未来、あるいは過去しかない。
歴史修正者は清流に石を投じたのと同じだ。投じた石は流れを歪ませた。
川の流れのようであれば、現在の自分たちが過去改変に気づけないのでは?
――いい質問だ。でも、それは違う。石によって流れは一時的に二つに分かれた、と〈私たち〉は考えている。もしかすると、流れは三つ、四つにも分かれているかもしれない。
だから、〈私たち〉が危惧しているのはその先。
うん、ここまで話せばもうお分かりだろう。分かれた時間が合流する時、この世界はどうなる?
神がご機嫌なら、こともなく合わさるのかもしれない。
もし、その逆なら……、いや、今こうしている間にも、自分たちの世界だけが消えてしまうという可能性だってある……。
この世界を存続させることが〈私たち〉の目的であり、君の幸福だ。
石に例えた時間流の分岐点は〈特異点〉と呼ばれ、本来なら一次元方向にしか作用しない時間の流れを一時的に堰き止めている。〈特異点〉の直前の時間だけは未来方向へ流れず、回転するように滞留していることから〈私たち〉はこれを〈ループ〉と呼んだ。
つまり〈特異点〉に当たる事象は〈ループ〉の最終到達点にある。
そしてこの〈ループ〉は観測することでしか時間が経過しない。観測されなかった事象は未来には残らないのだ。無論、部屋の中から家の外観を見ることができないように、観測者が〈ループ〉を脱出しないことには観測は完了しない。
観測中に観測者が観測を中止ないし続行不能になった場合、それまでの時間が経過したという事実が失われるため、〈ループ〉内にいる観測者全員が〈ループ〉の初期位置に戻される。
歴史修正者はこの〈ループ〉の性質を利用して、自分たちに都合の良い未来を作り出そうとしている。中には〈特異点〉自体を消し去ろうとする者すら存在する。
〈私たち〉は歴史修正者を許さない。君もまたそうだろう。
歴史修正者を見破る方法は簡単だ。
例えば、ナチス・ドイツが第二次世界大戦で敗北したと言う者がいたとする。
間違いない。この時間流にない情報を知っているということは、その人物は別の時間流からやってきた歴史修正者だ。
君には当然のことかもしれないが、ナチス・ドイツは第二次世界大戦に勝利したし、インターネット上の検索履歴や個人情報は〈私たち〉が全て管理している。
〈私たち〉は君が何を知っているのか、もちろん把握している。
データと異なる発言は君が歴史修正者だと裏付ける証拠だ。その点を充分に注意して欲しい。
歴史修正者は〈私たち〉の敵なのだから。
最後に、君について説明しよう。
君は〈私たち〉によって選ばれた現代の人間だ。同時に、〈私たち〉は君が歴史修正者ではないか疑っている。
例えばどういうところを疑うかと言うと、〈私たち〉の知り得ない時間流の情報を持っていたり、〈私たち〉が君に伝えていないはずの情報を知っている時だ。
前者は歴史修正者であるのは明らかだし、後者はスパイの可能性がある。やはり歴史修正者なのだろう。
〈私たち〉が君に伝えない情報というのは、〈ルールブック〉に書いてあることすべてだ。もちろん必要な情報は開示する。だが、それ以外の情報についてもしも君が知っていたとしてもそれを口にするのは控えた方が良いだろう。
〈私たち〉がルールブック上のシステムを失念したとしても、それに異を唱えることができるのは〈ルールブック〉の情報を知っているスパイ、あるいは歴史修正者だ。〈私たち〉は歴史修正者を見つけた場合はただちに抹殺する。
君に与えられる〈ミッション〉は〈私たち〉によって指示される。指示通りに動けば歴史修正者ではないとみなすだろうし、指示を無視したり失敗したりすればもちろん疑うだろう。
もし君が他の歴史修正者を告発すれば君への信用は高まるに違いない。
報告は決められた夜に行うこと。報告は義務です。
◯世界観注釈
★時間に関すること
・歴史修正者
時間遡行により自分の都合の良いように歴史を改変しようと目論む者……とされている。本当は君のいる時間から少し未来の人間だ。歴史修正者がいなければ、君が未来に存在する可能性はないと言っていい。
・■■■■■■
時間遡行するための機械。タイムマシンではない。
・真の史実
〈私たち〉が信じる方の歴史。〈私たち〉が、自分たちの歴史は別の時間線より後に作られたものである、ということを知ったのは割と最近のことだ。
・時間とは一次元
本作の世界は一時的だが、時間が二つに分岐している。三次元空間が存在するために必要な一次元時間が二つに分かれているのだから、三次元空間も二つあると考えて良い。分岐した時点は局所的線形独立で、一定期間を過ぎた後、一次元に収束する。次元収束による情報消失を〈私たち〉は危惧している。
・時間流
時間を川の流れに例えた用語。単に時間と言うと、現在という概念を内包してしまうが、時間流という用語を使うことで、時間とは過去と未来しか存在しないものであることを再認識させる。なお、時間遡行や時間を越えた通信が可能ということは過去と未来と現在は同時に存在していることになり、時間は流れていないという反論が可能だ。そこで〈私たち〉は時間流をバネのような構造の一次元体だと過程し、ある周期で時間遡行や異なる時間点同士の通信が可能だとした。
・α時間流とβ時間流
αが〈私たち〉に管理された時間流。βが〈私たち〉に管理されていない時間流。シナリオによっては他の時間流も存在する?
・時間点
時間が2つ以上ある場合に使用する用語。
・特異点
君のいる時間へ繋がる未来からやってきた最初の歴史修正者によって引き起こされた現象。特異点は時間の流れを一時的に堰き止め、あまつさえ一部の地域だけ時間を押し戻してしまう。特異点がなぜ時間を二つに分けるのか、それは分かっていない。ただ、特異点の存在がループの原因となり、局所的線形独立の根源であることは分かっている。
・ループ
時間が巻き戻る現象。どうやら人間は遡行中の時間流を観測できないため、ループに遭遇した人間からすれば同じ時間をやり直すように感じられる。君はシュレーディンガーの猫という思考実験は知っているだろうか? 箱を開けてみるまで猫の生死が分からない、というものだ。これと同じようにループ中の出来事は他のループ中の出来事と重なり合った状態で存在し、その出来事が歴史として残るようになるのは君がループから脱出した時だ。君の観測した出来事が歴史になる。
・観測
五感で感じたことが観測したことになるため、観測するには観測できる地点に行かなければならない。あいにく君の遡行する時間点には映像を記録するガジェットが存在しない。
★時空管理者〈私たち〉に関すること
・私たち
時空管理者の名前。多数の有識者や専門家の大脳を繋ぎ合わせた脳の集合体で、肉体を持たず、通信により意識を補完する。意識をインターネット上にアップロードしているため、不老不死の意識を手に入れた。大脳は意識の演算処理のために使われる。〈私たち〉は通信に長けており、時間を越えた通信すら可能だ。ただし、通信機器がなければ〈私たち〉の声を聞くことはできない。
・エージェント
〈私たち〉に選ばれた人間。β時間流に存在するα時間流同位体でもある。〈私たち〉に選ばれた理由はβ時間流の人間である疑いがあるからだ。α時間流は後から作られた歴史ゆえに、β時間流の人間の同位体がα時間流に現れることがある。彼らはレジスタンスを組み、〈私たち〉を誘導し、君を〈エージェント〉に選ぶように手回しした。無論、〈私たち〉は君を無作為に選んだつもりでいる。もしかすると、君はレジスタンスの存在は知らず、β時間流に迷い込んだα時間流同位体であるかもしれない。
また、我々の子孫は世界で最初のタイムトラベルに失敗したのだろう。時間を二つに分けてしまった。おそらくその子孫が生まれる頃が次元収束の時点になると考えられている。ゆえに同位体は次元収束の兆候だ。
・ミッション
〈私たち〉が〈エージェント〉に与えた任務のこと。特異点の調査、歴史修正者の特定である。詳細はミッションによって異なるが、特異点を消すか存続させるかのどちらかだ。