4.大きな門。そして……
ブレブレだって? 気にすんな!
父さんに似ている男は、僕を力ずくで引っこ抜くと、そのまま片腕で担いで……って、え?
僕一応50キロあるんですけど……?
「うーし、鞄の他には何もなさそうだな。撤収だ」
ちなみに、鞄は僕の死角に落ちていたらしい。お気に入りの鞄だったからあってよかった。
缶バッチが大量についてたり、ぬいぐるみがボールチェーンでつながれていたりするから、ちょっと恥ずかしかったけどまあよしとする。
で、父さんに似ているこの男……かなり日焼けしているから仮にしげると呼ぶことにするけど、しげるは1人で来たわけじゃなくて、他に2人連れてきていた。
どちらも男で、なんだか頑固そうなイメージ。
で。しげるの顔や筋力にばかり驚いていたけれど、もっと驚くべきポイントがあった。
なんとこの2人、帯刀をしているのである。銃刀法違反だよね?
それに、いくら紛争が激化している土地であっても、刀は銃には勝てない。そこから導き出される答えは、そう!
「あ、もしかしてレイヤーのかたですか?」
「おい坊主。あんまし口開けんなよ。舌かむぞ?」
「いやいや降ろしてくれれば歩けるうううぅぅぅーー!!??」
およそ人が出していい速度じゃないよコレ! 時速60キロは出てるんじゃないかな!?
「無理無理無理降ろして降ろして降ろして!」
「耳元でうるせえな! ちったぁ静かにできねぇのか!」
「ギャァァーーー!!!」
ヒモなしバンジーと同等の恐怖がそこにはあった……。
▲ ▽ ▲
「おーし、ついたぞ坊主」
しげるが何か言っているがそれどころじゃない。
「し、死ぬかと思った……」
最初は普通に走っているだけだったのに、何をとち狂ったのか3段ジャンプとか背走とか、ジェットコースター5連続で乗れば分かるような恐怖。安全装置はしげるの片腕。本当に頭がおかしい。
「あー、何をへばってるのか知らんが、とりあえずこのまま連れてくぞ」
気を失っていないだけ褒めて欲しいね。でもちょっと休憩させてくれないかな。僕は引きこもりなんだよね。
相変わらず強引なしげるは、やっぱり片腕で僕を担いで門をくぐっていく……。ん? 門?
「うわ……でか……」
入り口は大男のしげるが余裕を持っては入れるようなサイズ。だけどそれはあくまで入り口であって、門自体の大きさとは関係がない。
いや、門というよりは城壁といった方が正しいのだろう。石の壁だ。堅そう。そしてでかい。
「万里の長城……かな?」
ただ、もし仮にコレが万里の長城だとすると、僕は中国に不法侵入してしまったということになる。そして周りは日本語が話せるレイヤー(屈強)。なんとかなると思いたい。
そんなことを考えている間に、しげるは黙々と歩き続ける。
ただ、僕を担いでいることもあってかなり注目されてしまっている。……僕が。
は、恥ずかしい……。
「おい、ついたぞ。さっさと降りろ」
「……アンタが降ろしてくれなかったんでしょうが」
文句を言いながらも降りる。ああ、久しぶりの大地……。
僕としげるの2人しか居ないように思えるけど、ちゃんとしげるが連れていた2人も居る。
60キロ出せる人間がここに3人も居るわけだ。キツいわぁ……。
「……で? ここは?」
何語か分からない文字で書かれた看板。西部劇で見るような酒場のような扉。そして、外にいても聞こえてくるやかましい声。
バーかな? バーだよね? 僕はそんなところに用はないんだけど? そう思いながら問う。だが、返ってきたものは想像とは違ったものだった。
「ここは、ギルドだ。集会場ともいうが」
「……へ?」
どうやらしげるは狂ったようです。