2.ヒモなしバンジー
「う、動けない……!?」
時が止まっているわけではないと思う。当たり前か。
さて、少し現状を整理していこう。
手足、埋まってます。具体的には肘とかへそとかのライン。そこまで縦に埋まってる。
周りは……芝生って表現が正しいのかな。とにかくアニメとかによくある緑の丘。それを、たくさんの木で囲まれてる感じ。
空は青く、気温もそれほど高くない。こんな状況じゃなければ昼寝とかしてたね。
「誰でもいいから助けて……」
そもそも、どうしてこんなことになってしまったのか。それはきっと、いや間違いなくあの魔方陣と、その後に出てきた得体の知れない女のせいだ。
そう。それは、大学で魔法陣に襲われた後のことである。
▼ △ ▼
「ここは……どこだろ……?」
辺りは闇に包まれ、自分の体でさえ目視することができない。
「早く帰ってゲームがやりたいなぁ……」
先月発売されたばかりのRPGの続きが!
「ねぇ、びっくりした? びっくりした!?」
「……?」
女の声だ。
声からして、10代。少しやかましい感じ。たぶん陸上部。運動部なのは間違いないね。
「もしもーし。聞こえてますかー?」
声は後ろから聞こえてくる。
振り返ってみるけど、やっぱり何も見えない。
「これこれ、無視するなー?」
また後ろから声が。おかしい。
僕は確かに声がした方向へ向いたんだ。
だから、女の声は正面から聞こえてくるはずなのに、また背後から聞こえてきた。
確かに、移動したという可能性がないわけではない。だけど、忍者でもない限り物音をさせないで移動するなんて不可能だ。
なら……彼女はくノ一なのだろうか……?
「ほほーう。私をシカトするなんて、いい度胸してるじゃん?」
あ、やばい。くノ一かもしれない人を怒らせたっぽい。
「あ、や、ごめんなさい」
「ゴメンで済むなら神様は要らないんだよ!」
「そこは神様ではなく警察なのでは?」
「そうとも言う!」
テンション高いなぁ……。
「ところで、貴女はどちら様で?」
「おや、おやおやおや! この私を知らないと、そう申すか少年よ!」
「ちょ、少年て」
未だに姿は見えないけれど、たぶん僕の方が年上だと思うんですけど。一応僕成人してるし。
「そうかー、知らないかー」
だいぶ前から分かっていたことだけど……面倒だなこの女。
「もー、しょうがないなー。それならお姉さんが教えてあげるよー」
「いえ、結構です。それより早く家に帰してくれませんかね?」
ゲームをやりたいんですよ! あと貴女の対応は非常に面倒だ。とは口には出さない。
「今……なんと……?」
「帰宅、ゲーム、小説!」
ほとばしるパッション故に片言になってしまったが、果たして伝わっただろうか……?
「ふふ……ふふふふふ……」
「……?」
と、ここで気づく。いや、気づいてしまう。
「あ、これ詰みじゃね?」
▼ △ ▼
で、その後怒り狂った女はどこかに消えて、気づいたときには100メートルくらいの高さからヒモなしバンジー。控えめに言って、パラシュートなしのスカイダイビングと同じだからね!?
ヒモなしバンジーに恐怖を感じるなら、フリーフォールを10回連続でやれば、たぶん同じくらいの体験ができるんじゃないかな。
フリーフォールもヒモなしバンジーも、ちょっとちびりそうになるよね。
で、まぁ地面にぶつかって、「ズドォォーーーン!!」って音を立てながら僕は埋まりました。
フリーフォールの一瞬の浮遊感は何度やってもなれないものです。