1.ぼっちじゃないよ、ほんとだよ
新シリーズ。更新速度は未定。
「からだバキバキだじぇい……」
首や腰を回すと、バキバキバキッと小気味良い音が聞こえてくる。
違和感のなくなった己の体に満足した僕は、家に帰るために鞄を手に取り席を立つ。
そう、ここは大学にある教室の一つだ。
先程まで講義の行われていた教室……のはずなのだが、今は誰もいない無人の教室となっていた。
それもそのはず。何を隠そうこの僕は、今まで寝ていたのだから!
……いや、普通は友達が起こしてくれるだろうとか、講義の最中に居眠りするなとか、一般の学生ならば言いたいことはたくさんあるのかもしれない。
だが、一つだけ言わせてほしい。僕は眠かったのだ、と。仕方のないことなのだと。
建物の外に出ると、辺りは薄暗くなっていた。
「ぼっち……べ、別に友達が欲しいなんて、思ってないんだからねっ」
声に出している時点でお察しである。
いやまぁ、地元に帰ればそれなりに友達はいるよ? ただ学内に友達と呼べる人間がいないだけで……。
人前ではやらないけど、一人暮らしの弊害か独り言は割と多くなってきた。エア友達と会話しているわけではない。いや本当だからね!?
と、テンションが高くなっていたときのこと。
「……ん? んん??」
目の前のアスファルトの上に、魔法陣としか言いようのないものが突然発生した。
その魔法陣は光を発している。LEDもびっくりするほどの光量だ。
その色は青っぽい緑。エメラルドグリーンってやつだね。
「幻覚……?」
もしくは夢か。この場合は、明晰夢ということになるのだろうか? 常識的に考えて、魔法陣が発生するなんてありえない。
魔法陣。魔法。まさにファンタジーな代物だ。そして、最近では異世界転生というものが流行りだ。よくトラックにひかれる、あれだ。
だけど、異世界転移というものも存在する。
まぁ、代表的なものは勇者召喚だよね。使い魔的な何かもあるけど。
と、そんな僕が冷静でいられたのはここまでだった。
「…………おいおいおいー!?」
その魔法陣らしきものが、突然こちらへ向かってきたのだ。
薄暗い中、一際強力な光を発する魔法陣が迫ってくれば、誰だって恐怖するだろう。
なまじオタク知識がある分、魔法陣に対する恐怖は常人のそれよりも強い。
「いやいやいや来んなって! 僕は主人公なんかになれないから!」
そこが大学構内であることも忘れ、全速力で来た道を戻りながら叫ぶ。
けれど、すぐに足が止まってしまう。あきらめでは、ない。
「はぁ、はぁ」
引きこもりに運動はきついものがあります。マジで。
どれだけ引き離せただろうかと、後ろを振り返ろうとしたとき、一瞬の浮遊感が僕を襲った。
「……は?」
魔法陣は足下に存在していたようで、その一言をつぶやくと同時、僕、小島清は意識を失った。