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リダンツ!〜霊魂離脱と異世界転移〜  作者: りれいか
序章
8/21

第8話 少女の本音

「ルース、ヴォア、イア!!!」



走りながらロロが後方に向けて火球を飛ばす。

既に追っ手はすぐ近くまで迫っていた。


火球は暗闇の中だというのに、見事ヘルハウンドに直撃する。

おお、流石オリバーさんの弟子!!

命中率がとんでもなく高い、これならいくら中級魔物のヘルハウンドとはいえど無傷では済まないだろう。


そう思いながら背後を確認したが、ヘルハウンドは一瞬たじろいだものの、すぐさま追跡を再開してきた。



「嘘っ?!火属性の魔法が全く効かないなんて!」

「冗談だろ…?」



ロロの魔法は初級魔法といえど、練度がかなり高く既に中級の域だったはずだ。

その魔法を難なく耐えるとなると、成る程言われた通り勝ち目は薄いハズだ。



『真人!この先に崖があるよ!!』

「わかるのか?!」

『うん、今走っている場所は僕らが湖に向かっている最中彷徨っていた場所だからね!』



クロがアミュレットの中から話しかけてくる。

そいつは頼もしい、知らなかったら崖へ真っ逆さまだっただろう。



「ロロっ!」

「はぁ、はぁっ、何よ!」



息を切らしながらも必死で付いてくるロロに叫ぶ。

既に寝巻きは土だらけで、額には汗が浮かんでいたがしっかりと俺の手を握ってくれていた。



「この先の崖で待ち伏せて、奴らが突っ込んでくる瞬間に避けて落とすんだ!」

「っ?!無茶言わないでよ!!それに、そんな簡単な策に引っかかると思う?」

「それでも何もしないよりマシだろ!!」



このままでは確実に追いつかれてしまう。

そうなったら二人とも一瞬で噛み砕かれて即死だろう。

それだけは何としても回避しなければならない。



「…わかった、とりあえずやってみましょう!」

「おうっ!!」



クロの言った通り、少し走るとすぐに崖っ縁に辿り着いた。

高さは20m程だが、落ちたら死にはしなくともすぐには追ってこれないだろう。

僅かな可能性に期待を込めて奴らが来るのを待機する。

間もなく、暗闇から4つの赤い眼が飛び出してきた。



「今だっ!!!」

「っ!!」



息を合わせて左右に別れる。

大きく口を開けて鋭い犬歯を覗かせながら嚙みつきに飛び掛った二匹のヘルハウンドは、思惑通り崖の下へ落ちていった。

おお、魔物ってやっぱり頭悪いんだな…。



「やった!」

「喜んでいる暇なんて無いぞ、すぐに迂回して追っかけてくるハズだ!」



俺の言った通り、地面へ墜落したヘルハウンドは少しの間衝撃で立ち止まったがこちらを悔しそうに睨んだ後左右へ別れて走り去った。



「…逃げよう!」

「うん…!」



再び手を繋ぎ暗い森へと駈け出す。

アテは無いが、とにかく奴らの索敵範囲から逃れなければ…!!


クロの注意を聞きながらひたすら森を疾走する。

こんな意味不明な世界で死んでたまるか!!

絶対にこの危機を乗り越えて、元の世界で好きなゲームに囲まれながら死んでやる!


俺の行動源なんてそんなものだ。

そんなものでも、生きる理由には十分すぎるモノだった。



※※※※※※



「はぁ、はぁ、っはぁ!」



どのくらい走り続けただろうか。

俺たちは既に全身擦り傷だらけで、息も完全に上がってしまっている。

もう随分遠くまで来たハズだ。

クロ曰く、とりあえず世界樹の元へ向かっているらしい。

あの場所は開けているから、もし追っ手が来てもすぐに行動できるしね。


ヘルハウンドの気配はだいぶ前から感じていない、少なくともすぐに見つかる事は無いハズだ。

しかし、奴らは鼻が効くし足も速いからあまり悠長にはしていられないだろう。

少し休憩したら、すぐに移動しよう。


そう思いながらロロを見ると、彼女も相当疲れ果てているみたいだ。

急いで家を飛び出してきたからロクな装備じゃないし、足も擦りむいてしまっているようだ。



「ロロ、大丈夫か?」

「こんなの、全然平気よ……っ!」



そう言いながらも痛そうに足を押さえている。

少し血が出ているようだ。



「仕方ないな…。」

「なにするのよ?」



さすがにそのままでは見ていられないので、服の裾を一部引き裂いて簡易包帯として巻いてやった。

応急処置に他ならないが、何もしないよりマシだろう。



「あ、ありがとう。」

「どういたしまして。」



彼女にしては珍しく素直にお礼をした後、恥ずかしそうに目を逸らしてしまった。

息が整うまでもう少しかかりそうだったので、俺も彼女の近くに腰を下ろす。



「…わたしね、自分の事が何一つわからなくて怖いの。」

「ん?」



唐突にそんな事を言うと、膝を抱えて俯きながらロロは続けた。



「オリバー爺に拾われた時、わたしは酷いパニックを起こしていたらしいの…。」



そりゃ、目覚めたら記憶は無いし森の中だし、そうなるのも無理ないだろう。

暗い森の中、またいつヘルハウンドが襲ってくるか分からないので周囲を警戒しながら話を聞く。



「それから2年の間、他の誰とも関わらずオリバー爺から色々教わりながら記憶を取り戻すきっかけを探したけど、何も見つからなかった。」



それは孤独な戦いだ。

自分の事すら信用できない状態で2年もの間一人で悩み続けるなんて、どれだけ辛い事だったのか俺には想像も付かない。



「だからね、マサトはわたしにとって本当に重要な手掛かりなの。ちょっと変態なのは玉に瑕だけど…。」



同郷の人間なんて今後現れるかどうかもわからない。

俺がいなくなれば、今度こそ本当にロロは一生自分の事を何一つ知る事なく終えてしまうのかも知れない。



「だから…、だから死なないで。二人で生きて帰って、その時は…マサトの故郷のお話を聞かせて。」



言い切ると、今度こそ膝に顔を埋めてしまった。

すすり泣く声が静かな森に木霊する。


彼女と出会ってから1週間程になるが、今まで気が付く事が出来なかった。

強そうにみえて、本当はとても弱く、脆かったんだな。

当たり前か、まだ年端もいかない少女だ。

そんな彼女が自分の境遇に対して、何も不安に思わないなんて事無いだろう。


そう思うと、ロロという少女が少し愛おしく思えてしまった。

け、決してロリコンなんかじゃないぞ!


でも、少なくとも今は俺が守ってやらなきゃ。

何も出来ないけど、少しでも彼女の助けになろう。



「あぁ、必ず生きて戻ろう。その時は、こんどこそ沢山話をしような。」

「うん…!」



その時初めて見せてくれた笑顔は、もう一生忘れる事ができないだろう。

木々の間から差した月明かりに照らされ、必死に今を生きようとしている少女の無垢な笑顔は何よりも美しいと思えた。



[グルルゥ……!]



しかし、そんな幻想的な時間に終止符を打つ声が森に轟いた。

まだ少し距離はあるが、間違いなくヘルハウンドの気配がする。



「とにかく世界樹の麓まで逃げるぞ!」

「わかった!」



先程の弱気な表情は既に霧散している。

一先ず、大丈夫そうだ。


俺たちは再び手を取り暗闇の中を駈け出す。

一縷の望みに期待して…。

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