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リダンツ!〜霊魂離脱と異世界転移〜  作者: りれいか
第一章
21/21

第5話 空いろの獣人 1-1

少し時間が戻りまして、オリバーが行方不明になった当日の話から始まります。


※今回は主人公視点ではありません。

※途中から勇者ルーク視点となります。

▽リテマニア王城 会議室▽



重苦しい空気の中、巨大なテーブルを囲うのはアルケー中央大陸に存在する各国の重鎮。

そこには20名程の王族や名のある貴族達が顔を並べていた。

腕を組み俯いている者、瞑目している者、溜息を溢す者—

数十年ぶりの緊急会議が行われたその翌日に、再び招集が掛かるという前例の無い事態から誰もが緊張を纏わせていた。



「…皆様、緊急の要請に応じて頂き誠に感謝致します。今回進行を務めさせて頂きますのは、本国王の書記であります私—

「いいから早く始めろッ!!多忙な我々を二日も連続で呼び出すからには、相応の理由があるんだろうな!?」



進行の前置き途中に大声で捲したてたのは、アルケー大陸の南西に位置するカトラス王国の現国王、マーガル・ハイド・パトラス王。

武力国家として中央大陸2番目に栄える大国だ。



「まぁまぁ、落ち着いて下さいマーガル殿下。冷静に順を追って話し合わなければ、何事も解決から遠ざかりますよ。」



対する位置から投げ掛けられた声に「ッチ、剣聖風情が…。」と忌々しく吐き捨てたカトラス国王は、乗り出した身を渋々引いて再び着座する。


カトラス国王へ臆することなく諫言した背の高い茶髪の青年は、肩を竦めて「ヤレヤレ」といった様子で同じく席に座る。

その態度に怒りを隠せないカトラス国王だが、一大国の王ですら彼に対して反論は許されなかった。


——剣聖


それは剣を持つ者ならば誰もが畏敬の眼差しを向ける、剣の王。

ジークス・ラヴァ・ドラフォニー、剣聖と呼ばれた彼は世界に多く存在する剣豪達の頂点に立つ者だ。

武力国家の国王だからこそ、彼に楯突く事は出来なかった。

過去に何度も敗北しているという私的な理由もあったのだが…。



「…それでは、早速本題から入らせて頂きます。先日の緊急会議は近頃の魔物の活性化の原因に、魔王の復活が考えられるといった内容でした。そして本日早朝、オリバー・J・カーディナル大公が本国王へと謁見された際に…魔王と対峙したという報告を受けました。」



書記の言葉が終わると、その場は一瞬にして凍りついたように沈黙が落とされた。


魔王の復活。


それを恐れられていた時代は遥か遠く、永く平和が続き過ぎた今世においてはあまりに現実味が欠けている報告だった。

実際、1日前の会議では真面目に考える者は極一握りで、魔物の活性化は別に可能性があると現実逃避する者が殆どだったのだ。



「——それは誠なのか?」



沈黙を切り裂いたのは、末端に座るまだ若い貴族。

その声の主に鋭いプレッシャーを押し掛けたのは、彼以外の全員だった。



「貴様ッ!!畏れ多くもカーディナル大公の御言葉を疑うと申すか!!」



ガタガタッ!と出席者の数人が若い貴族へ怒りの形相を露わにして立ち上がる。

「ひぃっ!申し訳ありません!申し訳ありません!」と直様謝罪し平伏した彼だが、爵位の剥奪は免れないだろう。

伝説の生き証人の唯一であるオリバー・J・カーディナルは人間国宝とも言える存在。

彼への如何なる暴言や疑念の声は、反逆罪と同等に重かった。



「そうか、魔王が…。幾ら我々が秘匿しようと、国民へは直ぐに伝わるであろうな。そうなった場合、どれだけの混乱が訪れる事やら…。」



落ち着きを取り戻していたカトラス国王が発言し、その言葉に他の貴族達も暗い表情を浮かべて思案に暮れる。

最後に魔王が現れたのは200年近く前、その間に発展してきた文明により人々は恐怖を忘れ、対策も疎かにしてきた。

突然魔王が復活したと判れば、人々は確実にパニックに陥るだろう。

貴族達も頭を悩ませるだけで具体的な案を提示する事は無い。

出来ないのだ。


そこに、これまで沈黙を貫いてきたリテマニア王国の現国王、ドスティン・テオ・ロートスがタイミングを見計らったかの様に一つの提案をする。



「——人々の混乱を避けるには、勇者の存在が必要であろう。」



リテマニア国王の言葉に、その手があったと強く頷く貴族達。

しかし、直ぐに重い空気へと戻り、勇者の発見が如何に大変かを小声で囁き合う。



「御言葉ですが、リテマニア国王。勇者は魔王の復活と同時に世界の何処かに現れるとされていますが、勇者の発見を待っていては人々の混乱は免れません。」



剣聖ジークス青年は、囁き合う貴族達を代表するかのようにリテマニア国王へと最もな意見を発言する。

この広い世界で、数日中に勇者を発見するなど不可能に近い。

それでは問題視されている人々の混乱は避けられないのだ。



「…この国の王祖が、我が家系の祖先がどの様な人物であるか、知らない者はおるまい。」



剣聖の言葉を待っていたといった風に、口角を吊り上げてみせるリテマニア国王。

その言葉の意味する事は、この場に居る全員が知っていた。



「勇者の家系…!!まさか、リテマニア王国の王子の誰方かが…!!」



驚きを露わにする剣聖と、目を見開く貴族達に向けてリテマニア国王は更に言葉を続ける。



「残念ながら、愚息達の中に光魔法を扱える者はおらん。しかし、勇者として仕立てる事は可能であろう。国民を騙す様で我としても遺憾ではあるが、混乱を避けるには最良だと考える。如何だろうか、諸君。」



その提案に、反対の声は挙がらない。

リテマニア国王の提案した通りに事を進めれば、魔王が復活した事による混乱は避けられ、それに弊害して発生する損失も免れるからだ。

一様に冷汗を浮かべ、誰に言い訳するでもなく仕方ないといった声がいくつも溢れた。



『—これで政治不信の問題は解消され、死んだ妾の息子なんぞを放り出せる…。クク、ここまで思い通りに行くとはな…!』



国王は内心で仄暗い笑みを浮かべて、魔王の復活に何処かで感謝すら覚えていた。

己の魂が少しずつ、少しずつ穢れて行くのも知らずに…。



その3日後、勇者を送り出すパレードは恙無く行われ、ハリボテの勇者は王城を追い出されたのだった。



※※※※※※



「クソッ!!クソがッ!!!」



城下街の路地裏で、煤けた煉瓦の壁を蹴り飛ばし、己の理不尽な境遇に悪態を吐く。

どうして、どうして僕ばかりこんな目にッ!!



「ルークリウッド様!ルークリウッド様!!お止めください、足を怪我してしまいます!!」

「—ッ!!ティナには関係ないだろうッ!!」」



自分の滑稽な姿を心配そうにオロオロと見ていた空いろ髪の猫人族のティナ——ティナ・ウラノスに向かって羞恥と八つ当たりから思わず大声を張り上げてしまう。



「ひっ!も、申し訳ありません、ルークリウッド様…。」

「ッチ…。あぁ、良い。分かったからこれ以上着いて来るんじゃない。」



その発言にショックを受けたのか、片耳だけ少し歪に折れている猫耳をペタンとさせて俯くティナ。

そう言われても、彼女にも行く当てなど無いのだろう。

分かってはいるが、僕には関係無い。



王城を追い出される際渡されたのは、ほんの僅かな支度金(金貨50枚)と目の前にいる少女ティナだった。

僕も彼女も私物を纏める時間すら与えられなかった為、彼女に至っては給仕服のままだった。



「…はぁ、仕方あるまい。同じ境遇の誼みだ、渡された支度金から少しだけ分けてあげよう。」



幾ら奴隷の成り上がりで獣人族とは言え、死んだ母の一番の側近だったティナ。

母親は王城で唯一自分が信用できる人間だった為、そんな母が大切にしていた彼女を蔑ろにする事は躊躇われた。


渡された金貨50枚の内5枚だけ取り出してティナへ差し出すと、彼女は驚愕の表情を浮かべて手を突き出して拒否した。



「こ、こんな大金受け取れませんっ!!」

「は?大金?」



50枚の内の、たった5枚だけにも関わらず遠慮するティナ。

金貨5枚なんて、数日だって暮らせないじゃないか。



「金貨1枚でだって1年以上は生活できるのに、そ、それを5枚だなんて…!!」

「はっ、そんなわけないじゃないか。僕をからかっているのか?」

「?!」



信じられないといった顔で見られても、意味が分からない。

しかし、彼女がそう言うなら別に良いだろう。


5枚の内2枚を差し引いてティナへ放り投げる。

慌ててキャッチしたティナの尻尾がピンと張っているのを横目に路地を抜けようと僕は歩き出した。



—ティナとは別に、それ程親しかった訳では無い。


ティナが王城で国王の妾——第二王妃である母親へ仕えるようになったのは4年程前だった。

聞いた話によると、辺境の領地へ視察に訪れた際に偶然遭遇した奴隷商人が抱えていたのがティナだったそうだ。

もちろん第二王妃の面前で奴隷商人を放置する訳にもいかず、騎士が処罰した後取り残された彼女を母親が引き取った。

国王を始め多くの反対があったが、普段自分から何かを要求した事のなかった母親の必死な願いから、ついに国王が折れてしまったのだと言う。


それから4年間、僕の母親の側を片時も離れず甲斐甲斐しく世話をし、時には貴重な会話相手にもなっていた。

楽しそうに笑い合う母親とティナは、他人の目からも本当の母娘にしか見えない程、仲が良かったのだ。


僕と彼女の接点としては、病気がちだった母親の見舞いに行く時や、廊下ですれ違う際に挨拶されていたくらいで、他に無い。

僕自身、何故か亜人への偏見が無いのはきっと母親の遺伝子を受け継いだのだろう。

彼女が母親の側近として働いている事に嫌悪感こそ抱かなかったモノの、ただそれだけだった。


そんな事を考えながら、これからどうしようかと思案し路地を抜ける寸前で、服の裾を引っ張られた。



「…なんのつもりだい?」

「っ!すみません!!あ、あのぅ…すみません、やっぱりルークリウッド様を一人にする事は出来なくて…。お金は要らないので、私をお連れしては貰えませんでしょうか…?」



その不躾な態度に少しの不快感を覚え、鋭い視線で彼女を射る。

しかし、相変わらず耳をペタンとさせ、上目遣いで見上げてくるティナ。


もちろん、そんな要求を飲むつもりは一切無い。

ティナが獣人だからなどとは関係なく、旅の同行者なんて自分にとっては精神的に邪魔者でしか無いのだから。


裾を掴む小さな手を冷たく振り払い、鼻で一息着く。



「何度も言わせないで貰えないかな?僕にとって同行者なんて只の邪魔者なんだよ。着いて来ないでくれ。」

「で、でもっ!!」

「くどいッ!!!」



流石に頭に来たので、今度こそ突き飛ばすようにして彼女を遠ざけて踵を返した。

「ぅっ!」という小さな悲鳴が聞こえたが、自業自得だ。

自然を装い視線だけで後ろを振り向き、転んだ訳では無い事を確認すると、今度こそ路地裏を抜けたのだった。

読んで頂きありがとうございます!


暫く3話〜5話毎に(偽?)勇者ルーク視点を挟む予定です。

今回は長くなりそうでしたので、2話に分けて投稿させて頂きます!

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