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リダンツ!〜霊魂離脱と異世界転移〜  作者: りれいか
序章
10/21

第10話 朽ちた刀の記憶

イセカイ…インシ…?


何なんだコイツは…。

イセカイっていうのは、異世界の事を言っているんだろうか。


コイツからすれば、異世界っていうのは俺の元来た世界を指しているんじゃ…?

もしもそうならインシというのは…、因子という認識で間違いないのだろう。



片言で理解し難いが、それは疑いようも無く俺の故郷の言葉だったので意味はなんとなく理解できた。

それにしても、異世界の因子というものが何のかは正確にわからない。



呆然とそんな事を考えていると、ローブを纏ったそいつは突然スピードを上げてこちらへ突っ込んできた。



「おぁッ?!」



避けようとした所で、突きだしていた木の根に躓いて盛大にこける。

先程の戦闘で消耗し切った体力では仕方あるまい。

恥ずかしくなんてないっ!


受け身も取れず頭から叩きつけられ、痛みで視界がチカチカとした。

幸いにも突進を避ける事ができたが、すぐにまた攻撃してくるかもしれない。


警戒しつつ何とか立ち上がり、振り返る。

目前には、ローブを纏った深い闇。



『イセカイ…インシヲ、ヨコセ…。』



身体の奥底から恐怖が這い上がってくるような錯覚に囚われる。

何て邪悪な奴だよ、俺の世界で現れたら確実に案件モノだぞ?!

その姿から、某童話の何でもしまっちゃうおじさんを連想させながら応える。



「異世界っていうのが何の事かはなんとなくわかったけど、因子ってなんだよ?!知らねぇよそんなもんっ!!」

「ヨコセ、ヨコセ―――」



こちらにゆっくり手を伸ばしてきたので振り払い、やっとの思いで立ち上がり距離を取る。

そして、傍で眠っていた存在を思いだしてハッとする。



「ロロ!!!!」



いつの間に起きたのか、ロロは眼を見開いて絶望したような表情でへたりと座り込んでいる。



「そ、そんな…。何でコイツが…っ!!」



彼女は何か心当たりがあるかのような反応をする。

でも、今はそれどころじゃない。

距離を取った俺から標的を移したのか、今度は震えているロロに向かって手を伸ばす。

くそっ!!どうにか出来ないのか?!


何か無いかと周囲を見渡すと、すぐ隣にボロボロの刀身が突き刺さっていた。

コイツが使えれば、少しは状況を変えられるかもしれないのに…!!

ぶん投げて使うにしろ何も無いよりマシだ。

そんな事を考えている間にも魔の手はロロに向かって伸びる。

早く何とかしないと…!!



「…っ!そうだ…!」

『何か思いついたの?』



敵を警戒しながら俺の周囲を飛んでいるクロを見て気が付いた。

なんで今までわからなかったんだ!



「クロ、お前モノにだったら憑依できるんだよな?!」

『う、うん。アミュレットに憑依したように、他のモノにも憑依できると思うけど。」



それは望みの薄い可能性だったが、もしクロがこの刀に憑依できたなら、或いは…!!



「クロ、こいつに憑依してみてくれ!」

『わかった、やってみるよ。』



そういうとクロは一直線に朽ちた刀身へ突っ込んだ。

突如、刀から眩い光が放たれ俺の脳に激痛が走る。



「うっ、うぁぁあああッ!!!」

「マサト!!!」



漆黒のローブは動きを止め、ロロが俺の名前を叫んだ。

なんだ?!今までの怪我とは比較になら無いほど痛ぇっ!!


頭が割れるんじゃないかと思う程の激痛の中、俺の脳内には覚えの無い景色が広がっていた。


それは、金色に揺れる稲穂と、その真ん中で微笑を湛える黒髪の女性。

俺は、気が付くとそんな景色の中に立っていた。




※※※※※※




『…本当に行ってしまうのですか?』



彼女は、悲しそうな声音でそう言った。

吹き抜ける風に、長く綺麗な黒髪をたなびかせて。


そうだ、俺は行かなければならない。

敵勢はすぐ近くにまで迫ってきている、ここも直に戦火の渦に巻き込まれるだろう。



『申し訳ありません…。このまま逃げ続けてもすぐに敵に追い付かれてしまうでしょう。

ですから、お一人でお逃げ下さい。』



握った刀が震えているのを隠すように、彼女に背を向ける。

遠くに見える城壁が崩壊し、大勢の怒声が鳴り響いている。



『なりませんッ!!貴方は私とこのまま逃げるのです!!私を、一人にしないでください!!』



悲痛な叫びを上げて大粒の涙を零す彼女に、掛けられる言葉は無かった。

彼女だって分かっているはずだ。



『わがままを言わないで下さい、後生ですから…!!』

『霧丸、これは命令です!!命令、ですから…お願い…。』



ついに泣き崩れてしまった彼女に歩み寄り、肩を抱く。

あぁ、これだけ華奢な身体に重圧を負わされ続けていたのか。

それなら、俺が最後まで彼女を守って解放してやらなきゃな。


泣き止んだ彼女をそっと離し、再び振り返る。

黄金色の景色が焦土に変わる。

彼女の従者として過ごした思い出の場所が、消えていく。



『生きて、下さい。それだけが私の願いです。』

『霧丸っーーーー!!!」



名匠が打った長い刀身を構えて疾走する。

彼女と、彼女の大切な場所を守る為、たった一人で。




『……ウォォォオオオオオオあああッッ!!!!』



あぁ、俺は、この瞬間の為に生まれて来たんだな———




※※※※※※




「マサトっ!!!マサトっ、しっかりして!!」



数m先で倒れている彼に必死で呼びかける。

マサトが剣に触れた瞬間、辺りが急に輝き出したと思ったら悲鳴を上げて倒れてしまった。


目の前で静止している漆黒のローブを纏った正体不明のそいつは、マサトが倒れた事を確認すると再びこちらに向き直った。



――思い出した


わたしはコイツと会うのは二度目だ。

表情の伺えないローブに向かって恐怖を抑え問い詰める。



「なんのつもり…?これ以上、わたしから何を奪うっていうのよッ!!!」



そう、コイツは、コイツこそがわたしの記憶を奪い去った犯人だ。



あの時、気が付いたらわたしは暗闇の中に居た。

何もない暗闇の中で一人歩いていると、どこからか漆黒のローブを纏った奴が現れてわたしにこう言ったんだ。



『…異世界の者よ、お前の記憶を頂く。』



はぁ?いきなり現れて何を言ってるのよコイツは。

只でさえ意味不明な状況でそんな事を言われたので、戸惑いよりも怒りが先立ちそんな事を思ったのを覚えている。



『異世界の記憶に宿る異世界因子、それを得て私は…。』



何かを言い切る前に、そいつは私の頭に手を突っ込んできた。


そこで記憶は完全に途絶え、元居た世界の記憶をわたしは失ってしまったのだ。

気が付いたら世界樹の麓で倒れていて、オリバー爺に保護してもらった。

つまり、今目の前にいる黒いローブこそが、私の仇だった。


_



ゆらゆらと不気味に浮遊しているそいつは、私に向かってゆっくりと手を伸ばしてきた。

マズい、また記憶が…っ!!


怠い身体で必死に避けようと力を込めるが、うまく入らない。

誰か、誰か助けて…!



「お願い、誰か、助け——―」



そう言い切る前に、黒いローブの腕が落ちた。

その瞬間、灰色に輝く剣筋が見えた気がした。



「えっ…?」



困惑しているわたしと、素早く退避する黒いローブ。

いま、何が起こったの?


状況が一切わからないまま周囲を伺うと、白とも黒とも言えない灰色の妖気をゆらゆら漂わせている一人の少年が目に入った。



「マサ、ト…?」



幽鬼を思わせるその立ち姿からは、普段の彼を全く想像できない。

瞳は殺意を帯びて赤く輝き、その手には一刀の剣を構えている。

あの剣は、まさか…っ!!



「――従六位の上、左右衛士府佐官、霧丸キリマル。」



マサトは聞き覚えの無い名前を名乗ると、灰色に輝きを放つ剣を振り払い漆黒のローブへ向き直った。

一体彼の身に何が起きたっていうの…?



「―ロロには、指一本でも触れさせねぇ。」



やっと元の口調に戻りこそしたが、離れていても感じる膨大な魔力と、無属性魔法を象徴する灰色の妖気を放つ彼の変わり様に、わたしはただ呆然と眺めている事しか出来なかった。

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