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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

能力を奪う能力

作者: もちもち

「あなたたちは、勇者としてこの世界に召喚されました。

 神より与えられた力を使って、どうかこの世界をお救いください」


 なんて目の前の金髪の女に言われた時は焦ったが、すぐに冷静になる。

 これは俺の夢に描いていた世界に来れたということか。


 同時に召喚されたのは十数人。興味ないから数えなかった。


 ただ全員が勇者と呼ばれて目を輝かせていた。


 目の前の金髪の女はどうやらこの国の王女らしい。

 こいつの説明で、召喚された勇者には特別な力が与えられ、それを使って魔王を倒してほしいということがわかった。


 他の奴らはどうだか知らないが、俺はすぐに自分の能力に気付いていた。


『能力簒奪』


 この力は他人の持っている能力を奪えるらしい。

 

 長い話が終わり、自分の部屋に案内してもらう途中、二人きりになった兵士の能力全てを頂いた。

 『剣術』と『体術』を奪われた兵士は、突然の体の異変に戸惑う。

 もらった体術で気絶させ自分の部屋に隠す。

 戦う力をもっと手に入れてないうちは目立つわけにはいかない。


 すぐに部屋を出る。

 ここからは俺の悪行が発覚するまで時間との勝負だ。

 目標は他の勇者どもだ。

 一人目の勇者は同い年くらいの男だ。

 自分はどこかの高校の二年生だといっていた。

 握手すると見せかけ能力発動、『光の勇者』という能力をもらう。どうやら最初からあたりだったようだ。

 一般人に成り下がった男を気絶させて次の部屋へ。


 次に出てきたのは黒髪の女だ。

 いぶかしんで部屋に入れてくれなかったが、無理やり進入して能力を奪う。

 『全属性魔法』と『永久魔力』をゲット。

 ファンタジーといえば魔法だ。後で使ってみよう。


 三人目は高校一年生の男だ。

 新世界に興奮して能力で遊んでいた。何でも瞬間移動ができるらしい。

 もちろん奪った。『瞬間移動』ゲット。


 内心ほくそ笑んで部屋を出ると、遠くから兵士が走ってくる。

 目つきを見れば彼らの目的は明白だ。


 手をかざし魔法を発動。

 能力として『全属性魔法』を手に入れている俺には、どうすれば魔法が使えるかも完全に理解していた。

 大爆発を起こした通路には人間の影も形もない。

 さすがに威力を高くしすぎたようだ。


 そして人を殺したことにまったく動じていない自分に驚く。

 戦いを求められる勇者に慈悲の心などいらないということか。召喚魔法万歳。

 後は逃げるだけだ。

 魔法で穴の開いた壁から外を見る。遠くまでずっと草原が広がっていた。


 場所を決めて『瞬間移動』発動。

 一瞬にしてさっきまで見ていた場所に到着。

 そしてその場所からさらに遠くに狙いを定めて『瞬間移動』。

 もはや俺に追いつけるやつはいなかった。


 だが俺は油断しない。

 この世界の住人がどれほどの力を持っているかまったくわからないのだ。

 今の俺よりもっと強いやつはきっといるだろう。強くならなければ。


 そんなことを思っていると遠くに町が見えた。 

 新しい人間に会える。能力が奪える。

 そう思うと一瞬でその町に侵入した。


 町の人間に聞くと、ギルドと呼ばれる場所があるらしい。

 冒険者と呼ばれる魔物と戦うことを生業とした戦闘人間たちがいるとのことだ。


 俺にもってこいの場所だ。


 すぐにそこに向かう。

 ちなみに話を聞いた町の人間からも『剣術』が奪えた。

 最初は同じ能力には意味がないと思ったが、剣の腕が上がっている気がする。きっと何度も奪っていけばもっと強くなれるのだろう。


 ようやくやってきたギルド。

 なにやらあわただしい。

 近くの男の話ではどうやらすぐ近くに魔物の大群が迫っているようだ。

 コレを迎え撃つために冒険者を募っているということだ。

 この男からは『自然治癒』と『槍術』を手に入れた。


 よさそうな能力がいないか物色していると、ギルドの店員に呼ばれた。

 何を勘違いしたのか俺が冒険者になりに来たと思ったようだ。

 丁重にお断りしたついでに能力を奪う。『爆裂魔法』と『回復魔法』だった。


 手伝いだけでもしてくれないかとしつこい店員を振り払うと、でかい冒険者の男に目をつけられる。

 魔物との戦いができない臆病者といわれた。

 とりあえず能力を奪う。『剣術』と『剛力無双』を手に入れた。

 無視していたら殴りかかってきたので爆裂魔法で吹き飛ばす。


 男をぶっとばすとギルド内の全員が挑みかかってきたので、建物ごと特大の爆裂魔法で全員を倒す。

 その後全員同時に『能力簒奪』ができないかと思ったら簡単にできた。

 『鑑定』と『常時発動』と『空中停止』という能力を新しくゲット。


 もうこのギルドに用はない。


 崩れ落ちたギルドの中、絶望顔で地面に座り込んでいるギルド店員を見下ろしてから『瞬間移動』。

 町の上で『空中停止』して『能力簒奪』で町の住人すべての能力を奪う。

 やっぱり簡単にできた。最初からコレをすればよかったのだ。


 再度『瞬間移動』の連発で街道を進んでいく。

 もちろん途中で出会った人間からはすべて能力を奪っていく。


 すでに剣と槍には絶対的な自信があった。


 次についたのは城壁で囲まれた大きな街だ。


 町の上空で町の住人全員の能力を奪うが……一人だけ失敗する。

 こんなことは初めてだ。

 すぐにその存在の前まで『瞬間移動』する。


 この『能力簒奪』は自分より極端に強い相手には無効化されることがあるようだ。

 ただしその相手が抵抗できない状態にしてしまえば別だ。


 銀髪の少女が目の前で驚いた顔をしていた。それがすぐに苦悶の表情に変わる。

 俺は『瞬間移動』直後に拳を少女の腹に放ったのだ。

 突然のことに防御もできない少女のやわらかい腹に深々と拳が突き刺さっていた。


 だが胃液を吐きながらもまだ立っている。その目には明らかな敵意がこもっていた。

 俺の『体術』は相当あがっているはず。それでも倒れないこの少女はやはりかなり強いということだ。


 だが俺が最初に手に入れた『光の勇者』は最強の能力である。

 この能力は複数の能力の合体した能力だが、その能力のひとつに『絶対勝利』というものがある。

 呼んで字のごとく絶対にに負けることはない。ただ膨大な魔力を消費するため一瞬しか使えない代物だった。

 しかしいまの俺にはちがう。

 この力『光の勇者』の能力を『常時発動』させても、『永久魔力』で力を消耗しない。


 銀髪少女の反撃。目に見えないほどの速度の連続攻撃をすべていなし、もう一発腹に入れる。

 動きが鈍った少女を押し倒し左手で口を押さえる。握った右のこぶしは当然腹にぶち込む。

 腹を殴るたびに体をくの字に折りながら白目を剥く。

 口の中から逆流するものを左手で抑えて、体が動かなくなるまで殴り続けた。

 腹のダメージが効いたのか、自分の吐しゃ物で息ができなくなったのかわからないが、ピクリともしなくなった。

 結局地面にクレーターができるまで殴り続けていた。

 最後は痙攣していただけかもしれないが念のため。


 能力を奪うと『神龍の威光』という能力が手に入った。

 残念ながら『鑑定』で見つけた『人化』は奪えなかったようだ。いらないからいいか。

 きっとこの少女固有の能力なのだろう。


 ぼろ雑巾のようになった銀髪の少女を捨てて次の町に進む。


 こうして何度も街を渡り歩き、何度も『能力簒奪』を使ってきた。

 途中からは魔物からも奪えるということに気付き、出会うすべての魔物からも奪った。

 ただ能力が奪われても魔物は肉体自体が強く、人類の脅威であることは間違いない。

 この世界に勇者を召喚した理由がなんとなく伺えた。


 もちろん勇者たちとも出会った。

 実は他国も同じように召喚していたようで、勇者の数は実に百人を超えていた。

 しかしこの世界に来たばかりの勇者たちは例外なく雑魚ばかり。

 そして持っている能力は強力なので俺にとってはごちそうだ。


 簡単に能力が奪えないものたちもたくさんいた。

 特ににエルフの女王は強く、またもクレーターを作ってしまった。

 吐しゃ物と鼻水で汚れ白目をむいて失神している姿は、美しさのかけらも感じなかった。

 こいつから手に入った能力はもう覚えていない。大したものではなかったのだろう。


 そういえば魔物の能力狩りをしている最中に魔王を倒してしまった。

 持っていた能力は『世界の破壊者』。発動に多くの条件を必要とするが、すべての生命を死に至らしめるという能力だった。


 もはやこの世界の能力は狩りつくしてしまったのかもしれない。


 それでも俺には足りない。もっと能力が欲しい。

 その欲求を満たすためだけに俺は動く。


 生まれてくる生物全ての能力を奪うため、この星自体に『能力』を使った。

 今まで手に入れてきた能力を合成し、この星の能力を永遠に俺に集めるという『能力』を作ったのだ。


 それに反対してくる国は沢山あったのだが、見せしめに大陸ごと沈めてやると静かになった。

 所詮は能力を持たない国。能力を積み重ねてきた俺と戦うことなど不可能だ。


 ――こうしてこの世界には平和が訪れた。

 凶暴な魔物は能力を失い弱体化し、人のいない場所に隠れるように棲んでいる。

 国同士の戦争は、大きな被害をだす能力がなくなったことで泥沼化するようになった。自然と戦争は減っていった。

 

 今では世間の話題は能力狩りのことだ。もちろん俺のことである。

 魔王が死んだことに気づいた人間は誰一人としていない。

 だが能力がなくなった世界は争いが減ったことに気づくものは少しだけだった。 






























 ――俺は退屈していた。


 いくら能力を手に入れても満足できない。

 ならどうする。

 ふと見上げた夜空には満天の星空。

 

 口角が上がるのが分かる。

 俺は次の獲物を見つけた。


 しかし星は無限といっても差し支えないほどの量がある。

 いくら俺が無限に分身を作れようが、いくら永遠の命を持っていようが、果てしない旅になることは明らかだ。


 だから効率化しないとな。

 

 星ごと能力を頂いたら、もう一度来る必要はない。

 ならば能力を奪った星は、なくしておいた方がいいだろう。

 

 果てしない宇宙空間に、俺だけが残ったとき。


 きっと俺は満足しているはずだ。



 まずはこの星を破壊しておこう。

 やろうと思ったことはなかったが、やってみれば簡単なものだった。

 一瞬にして塵と化した星を見て、俺はなにも思わなかった。


 さて、無限に分身を作りながら無限の旅を楽しむか。


 そんなことを思っていると、突然目の前に光輝く女が現れた。

 女は泣いていた。

 女曰く、自分は召喚の女神で、自分の助けたかった人間が皆死んだことに悲しんでいた。

 

 どうしてこんなことを?


 と俺に聞いた女神に対して、俺の答えは単純。――能力を奪ってやた。


 『転生案内』と『能力創造付与』という能力が手に入った。

 この二つの能力を奪われた女神は苦しみもだえ消えていった。

 能力はその生命と密接にかかわり合っている。

 特に肉体を持たない超自然的な生命にはそれが顕著だ。

 女神は死んだのだ。


 いい能力が手に入ったとほくそ笑む。


 『能力創造付与』でどんな能力でも作れるようになった。

 しかし俺は能力が作りたいではない。奪いたいのだ。

 さらに効率よく宇宙全ての能力を奪う能力を作ろう。

 

 『転生案内』は今までの能力と一線を画した能力だった。

 これは別世界への扉を開くことができる。

 こうして俺は、無限にある別世界の全宇宙全ての能力を奪ってやろうと誓った。

 死んだ人間どもの魂も大量にやってくるが邪魔なので全て焼き殺した。


 気付かないうちに『時間操作』も出来るようになった。

 まずは過去と現在と未来をつなげる。

 時間が圧縮された世界は、宇宙の始まりから終わりまでを一瞬にして覗くことができた。


 俺の『能力簒奪』を『能力創造付与』で改良した。

 その効果範囲を三次元的な空間だけでなく、時間という概念を組み込む。

 この新しい『能力簒奪』によって、宇宙の始まりから終わりまでに生まれた能力は、一瞬にして全て俺のものになった。


 そして奪い尽くした世界は必要ない。

 俺の指先一つで崩壊していく世界の輝きは、まるで地面に堕ちて消えていく線香花火のように静かだった。



 そして最後に残してきたこの世界、この宇宙全ての能力を手に入れた。

 当然俺がいる世界も破壊する。

 しかしここで一つの疑問が生まれる。

 最後の世界がなくなったとき、その住人である俺は一体どうなるのか。

 ……そんなこと考えても仕方ない。


 俺は自分のいる世界を、宇宙を、破壊した。


 残ったのは無だ。

 宇宙も、時間も、なんの存在もなくなった世界に有るのは、無。


 しかし俺は確かに有った。


 今考えている俺が有るのに、どうして無といえるのか。


 その時俺は世界の始まりに気付いた。


 有と無。

 全ては矛盾から始まった。


 矛盾のエネルギー。

 矛盾の答えを求めるエネルギーは、全ての概念を超えた衝撃をもたらす。


 衝撃は拡散し、次元世界という有を生み出した。

 宇宙が誕生し、星々が生まれ、能力が生まれていく。


 その時俺の中の最大の欲求『全ての能力を手に入れたい』という気持ちは、無に帰した。

 

 なぜならば。


 俺は、『すべての世界』になったのだから。


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