アクアマリンの首飾り 9
居眠りするニカをなんとか起こして、戦利品の売却を済ませた結果、約302万ゼムになった。銀の算盤の判定より高いのはもうリュウグウバヤシの狩りはできなくなったとハーフオークの道具屋のオヤジに吹っ掛けてやったからだ。実際、あの狩り場はもう使えないしな。
離れに戻り、タバ子が手配してくれていたハーブ料理中心の昼食を食べながら、俺達は改めて本来なら手を出すつもりも無かったバテラ一味の6体の幹部達と連中の『頭』の情報を整理し始めた。
『シュウサク』・・・突撃船の一番艦、艦長。鯖型海魔人サバーラ族。推定レベル22前後。双刀と仕込み槍、物理系特技、強化系魔法を得意とする。短気な性格。本性を現す『真海変化』で巨大な鯖型海魔に変化する。その状態では理性をあまり保てない。現在は洞窟北西の入江沖で停泊している船団の警護をしており、洞窟には入っていない。性格が短気過ぎて近海の海魔系モンスターとの交渉に失敗し、延々と小競り合いをしている。
『タクミ』・・・飛翔船の二番艦、艦長。飛び魚型海魔人トビウオッグ族。推定レベル23前後。多数のピンナイフ、ジャックナイフ2本、風系特技、撹乱系魔法を得意とする。トリッキーな性格。『真海変化』で巨大な飛び魚型海魔に変化する。変化しても理性を保てるタイプ。入江沖の船団停泊ポイントよりさらに北にある拠点と行き来して、主に物資の運搬等を行っており、洞窟には入らず、そもそも近海にも止まっていない。
『セイイチロウ』・・・透明化船の三番艦、艦長。烏賊型海魔人イカンガ族。推定レベル23前後。多数武器を持つが主武器はカトラス。クロスボウを扱うこともある。魔法は不得意だが、水系の特技が得意。船だけでなく、自分も透明化できる。冷静ぶるがすぐキレる。真海変化は巨大な烏賊型海魔に変化する。変化後も理性を保つタイプではあるが、キレてから変化するのであまり意味が無い。敵対する人魚達の陸上拠点のある近海西部に船を停泊し、人魚達と現在膠着状態。洞窟には来ない。今回の洞窟探索には批判的だった。
『ウニ蔵』・・・耐魔法船の四番艦、艦長。雲丹型海魔人ウニガー族。推定レベル25前後。衝撃特性の杖、ショーテル、水、霧、酸、その他多数の魔法を使う。陰湿な性格。『先々代の頭』の懐刀。真海変化は巨大な雲丹型海魔に変化。変化後も理性を保つが種族の特性を解放して『猛毒』の範囲攻撃をする為、変化することを制限している。当代の頭とは距離を置いている。洞窟北西部の入江に拠点を作り、体調の優れない先々代の頭の警護をしている。洞窟には今の所来ていないはずだが、来れる立場ではある。
『ゲン』・・・潜水船の五番艦艦長。鮟鱇型海魔人アンコージャ族。推定レベル26前後。ハンマー、両腕の仕込み鉤爪を使う。魔法は不得意だが水系特技と再生能力を持つ。打算的な性格で有利な条件で戦うことを好む。真海変化は巨大な鮟鱇型海魔。変化後も理性を保ち、海水を召喚した上で陸上でも暴れる。その姿のまま中空を飛行する能力は低い。平時は頭に代わって、このゲンがバテラ一味の海賊業を仕切っている。現在は地下2階で人魚達と交戦中。アナゴリアンはゲンの手下だった。
「ノブアキ」・・・形式上、六番艦、艦長となっているが、船も手下も持たない。鯛型海魔人タイゴーラ族。推定レベル22前後。刀、小太刀、水系特技、強化系魔法を得意とするが、魔法を使うことはまれ。勘の良く、合理的なタイプ。真海変化は巨大な鯛型海魔に変化するはずだが、変化することはほぼ無いらしく、アナゴリアンは見たことがなかった。本来コイツは地下一階で『頭』の警護をしており、出入りも地下一階の守護モンスターだらけの危険な地下水脈を使っており、地上一階には現れないはずだった。
『バテラ三世』・・・バテラ海賊団の頭。旗艦にして戦艦の零番艦の艦長だが現地の人魚との全面抗争を嫌い、零番艦は近海北の拠点に置いてきている。鯱型海魔人マシャチ族。推定レベル33前後。斧、ダガー、水系、風系、雷系、物理系特技を使い、魔法も攻撃系意外は満遍なく使える。保守的で神経質な性格。普段は力を抑える為に『人海変化』の特技で人間のような姿をとる。真海変化の真の姿は巨大な鯱型海魔。変化後は理性のタガが外れがちで、嵐を発生させる特性もある為、ウニ蔵以上に変化を制限している。地下一階で洞窟攻略の現場指揮を行うが、宝を奪っても投入費用を回収はできないと、先代主導の今回の仕事に批判的。普段は陸上でのマフィア事業に専念しており、直属以外の海賊団員達からの支持は薄い。
ざっとこんなもんだったが、
「そのノブアキ、という幹部が出張ってきたのは私がアナゴリアンを見逃したせいですね」
ロスエールはやや落ち込んだ風に言い、ハーブティーを飲む。さっきから仮面の口の絵を通して3杯もハーブティーを飲んでいる。固形物は相変わらず食べないが、クラスUP前は付き合い程度にやはり仮面越しにコップ一杯飲む程度だったが実態が濃くなったからか、ごくごく飲んでる。食事になると、ばっちり目覚めたニカは香草ピラフの米の一粒をかじり、アカネは離れに戻るとすぐにポーカーで負けた訳でもないの人獣変化を使ってウサ耳ウサ尻尾人間に化けてフィッシュパイをモリモリ食べていた。
「少しでも判断材料があればすぐに自分で確認してくる。あれはどの道、長くはごまかせなかったよ」
「そうだよロスさん。あんな鯛野郎っ、今度合ったらこのパイと同じにしてやんよっ!」
息巻くウサ耳人間のアカネ。
「それ(変化)、疲れるんだろう?」
「練習だよっ、帽子っ!」
なんの練習だか。ま、いいか。
「で、どうすんの? ケム彦」
今度は焼き栗にかじり付きながら聞いてくるニカ。
「『虹の回廊の洞窟』のある岩盤の北東にはコボルト族の砦がある。連中とはなんの交渉もできてないが、そこからも洞窟に入れるようなことを以前長老達が言っていた。取り敢えず、今日のことを報告するついでに聞いてみるよ。そろそろ行くかな?」
「もうですか?」
ロスエールは言ったが、居間の掛け時計を見ると午後3時を過ぎていた。夜には俺達の森の集落から使いが来るはずだ。待たせると面倒になるかもしれない。
「じゃ、あたしとニカは食べ終わったら風呂行くわ」
「その姿で?」
「戻るよっ、うっせぇ帽子だぜっ!」
俺は怒鳴られながら乗っていたテーブルを降り、居間の出入り口のドアノブに触手を掛けたが、視線を感じた。振り返るとニカがこちらを見ていた。
「後で話す。コーヒーも淹れるから」
「ココアの気分かなぁ?」
「じゃ、ココアで」
俺は居間を出て行った。