表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/50

アクアマリンの首飾り 8

 谷の霧の中に入ると突然バダーンの風の魔力がまた不安定になり出した。

「おおっ?」

「ロスさんっ?」

「まさかの『ご褒美』結末?」

「やはり、属性攻撃が効いたようです。ケム彦、あとはよろしく」

 見ればニカのリーマで塞いだ傷口が開き始めていた。幽体モンスターは回復の際、水分や滋養は普通必要無いが、苦手な属性攻撃の影響は大きい。

「霧は越えられそうか?」

「なんとかっ、行けます」

 やるしか、ないな。

「一人に集まろう。バダーンが解除されると宙で散らばってしまう」

 言うと俺以外の全員が、中型犬くらいの大きさの俺に掴まったきた。

「いや俺かよっ! 小さいよっ! つかロスエール、掴まる力も弱いぞっ?」

 俺の鞄に軽く手を沿える程度の握力のロスエール。仕方無い! 俺は片方の触手をロスエールに絡め、もう片方をしっかり掴まってはいるがいかにも飛ばされそうなニカに巻き付けた。

「越えますっ、ここまですっ!」

 霧を越えると共にロスエールは力を失い、風の魔力は解け、強烈な風圧と気圧の変化が俺達を襲い掛けた。

「んんんっ!!」

 俺は特技『旋風飛行』を使い、それらから全員を守った。だが、落下制御まで手が回らない! 地上の発着所の辺りにどんどん高速で落下してゆく。俺は叫んだ。

「ニカ! 止めろっ! ニカ!!」

「ああ、はいはい。ユ・リックっ!」

 ニカはポーチからマリオネットタクトを2本取り出し、さらに戦闘用の念力魔法まで使い、落下制御を始めた。だが、減速はしたが落下が止まらない! 発着所が迫る。発着所で二つ目の指標器の調整をしていたらしい朝見たマージハパーンの若い方のやつが斜めに落ちてくる俺達に気付いてギョッとしていた。

「おいっ! チビっ! ちゃんとやれっ!!」

「やってるけどぉっ?! んんっ! これは、『ご褒美』かなぁ?!」

 俺達がいよいよ発着所に迫ると、マージハパーンは腕代わりの2本の蔦の触手をこちら向け唱えた。

「ユ・リックッ!!」

 正面から圧され、体に圧迫感を感じる程の念力を当てられた俺達は、発着所に数メートルの中空で止まった。俺はマージハパーンが飛ばされそうになっていたのですぐに『旋風飛行』を解除した。

「途中で解除したの? アンタ達何してんの? バカなのっ?」

 改めて話してみるとやっぱ当たりの強かったマージハパーンだが、へばって、ユ・リックを解除したニカに代わって、念力で俺達を発着所の床に下ろしてくれた。

「ダンジョンで幹部に遭遇して、ロスエールが属性攻撃を受けた。鯛のヤツだ。バダーンを保てなくなってな」

 俺は早口で言った。

「見せてみなっ」

 マージハパーンは床で膝をついたまま実体が揺らめき出すロスエールの様子を見た。

「おいっ、モブ葉っぱ! なんとかできるのか?!」

「誰がモブ葉っぱだよっ! わたしはたぶん年上で、レベルも上だからね?」

「そんなのどうでもいい! 治せんのかっつってんだよっ!!」

「落ち着け、アカネ」

 マージハパーンの方は冷静だった。

「リーマ」

 回復魔法で一先ずロスエールの実体を安定化させる。それでも開いた傷口は上手く塞がらない。

「アンタ、火雀の羽は持ってるかい? カグチは使える? 火属性なんだろ?」

「2枚、持っていますが、もう魔力が」

「ユーマ」

 マージハパーンは魔力譲渡の魔法を使い、ロスエールの魔力をいくらか回復させた。

「何から何まで、すいません。やってみます」

 ロスエールは袂から全ての荷物を出した。トランク二つ分はある。その中から火雀の羽を2枚摘まみ出し、さらに毒除けケープの止め紐にも手を掛けた。

「燃えてしまうといけない。返します、アカネ」

「いいよロスさん。そのケープは守りの力も少しはあるから、そのまま着てて。着てていいからっ」

「・・・わかりました。使わせてもらいます」

 ロスエールは発着所の床からふわり、と浮き上がり、俺達から少し離れた。

「ケム彦、もしも上手くゆかず私がこのまま脱落した場合、一度あなた達の森の集落に戻り根本的に対策を立て直して下さい。仇討ちは無用です。元々私は『死者』ですから」

「わかった」

 ロスエールは火雀2枚を構え、唱えた。

「カグチ」

 使える最大の魔力で、おそらく持続時間を『数秒』に圧縮して火雀の羽2枚を触媒に火属性強化の魔法が発動した。ゴウゥゥッ! 中空でロスエールの全身が燃え上がった。人間の男が火葬されているようだ。バリバリッ! ロスエールの仮面と片手に持つカンテラにヒビが入る。

「ロスさんッ!」

 アカネが燃えるロスエールに飛び付く勢いだったので俺は両触手をアカネの片腕と片足に巻き付け止めた。

「止せってっ」

「ロスちゃんヤバいかもね」

「見てる場合じゃないよ? ユーマっ」

 マージハパーンはニカに魔力をいくらか譲渡した。

「わたしはユーマを、アンタはリーマを掛ける。狙いは心臓の辺り。アンタの方がわたしより強いみたいだ。できるね?」

「いいけど、狙うなら本体のカンテラか、カンテラを持つ手にした方がいいんじゃなぁい?」

「いや、たぶんこの人、クラスUPするつもりだわ」

 クラスUP? 炎の中、動かないロスエールは。ただ自分の炎に焼かれ、仮面とカンテラのヒビは益々激しくなっていた。

「わかった。やるよ」

「ガチでやれよっ?! チビッ!」

「ああ、わかったって言ってるじゃんかっ」

 小さな指先を真っ直ぐロスエールの『心臓』の辺りに向けるニカ。マージハパーンも蔦触手を心臓に差し向けた。

「せーの、ユーマっ!」

「リーマっ!」

 魔力と癒しの力が燃えるロスエールの心臓に注がれる! ロスエールの仮面は再生した。だが、カンテラは砕け散り、中の灯火は燃え盛って、ロスエールを包み、その姿は完全に炎で見えなくなった。アカネは何か叫び、涙を溢し、俺は怪力過ぎるにも程があるアカネのパワーに巻いた触手を引き千切られそうになって悶絶させられた。死ぬっ!


 ゴォオオオォォッ!!


 紅蓮に燃え盛るロスエールであった中空の火柱。その炎は程無く人の形を取り始め、再びロスエールに再構成され始めた! 身に付けた合わせて再生されたローブ、毒除けケープ、仮面、グローブ、そしてはっきり足先まで見え、靴までやや古風に装飾が派手になった。ローブ赤色に、ケープはオレンジに彩飾が変わった。カンテラは持たず、代わりに数個、鬼火を従えていた。

「どうやら命拾いしました。ハイ・トーチシェードにクラスUPできたようです。妙に実体が濃いですね。ふむ」

 手を開いたり閉じたりして確認するロスエール。

「ロスさんっ!!」

 俺が触手を離したこともあり、ロスエールに跳び付くアカネ。

「おおっ、アカネ。大きな兎さんですね。ちょっと重いです」

 アカネに当たらないよう、鬼火を消して発着所に降りるロスエール。

「重いってなんだよっ、もうっ!」

 抱き付いたまま泣いているアカネ。

「ニカ、マージハパーンさん。助かりました」

「回復するのにいちいちクラスUPとか、ロスちゃん大袈裟だよ」

「わたしの名前はタバ子。レベル15くらいには達したようね? こんなに実体がはっきりしたハイ・トーチシェードも珍しいけど、元々アンタ実体濃いタイプだったしねぇ」

 ロスエールを珍しそうに見回すタバ子。

「ケム彦、このまま今回のクエストを続けることは可能なようです。ただやはり対策は改めましょう」

「だな。戦利品の売却だけ済ませて、離れでちょっと話そう。さすがに疲れたしさ」

 俺は触手で鞄から薬草を取り出し、二つに割り、半分をアカネに渡し、残った半分から一欠けニカに渡し、残りを自分で食べた。口が曲がる程マズい。

「何度食べても薬草だけはなれねぇなっ」

「このご褒美はテンション下がる」

「回復するならなんでもいい」

 体力とアカネに千切られそうになった触手は大体は回復した。長老の家の離れに帰るまでの力くらいは戻った。

「一応、わたしがざっと長老達には話は通しておくけど、後でちゃんと報告するんだよ?」

「わかった」

「昼食まだだよね? 手配しといてやるから、買わなくていいよっ。ベッカーっ!」

 タバ子は加速魔法を使い、高速で駆けて去っていった。

「あの『モブ』タバ子、使えるヤツだったな」

 泣き止みはしたが、いつまでもロスエールにしがみついているアカネ。

「『モブ』って付けるのやめてやれよ」

「ボク、もう眠いよ?」

「変化せずに自分の足で歩いてみましょうかね?」

 あれこれ話しつつ、ロスエールが出した荷物を片付け、俺達は発着所を去った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ