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アクアマリンの首飾り 5

 バダーンの風の魔力に包まれて海沿い飛行すると夕陽が海に映えていた。

「美しいですねぇ」

「行きは余裕無かったからなぁ」

「集落の連中が一人でも洞窟に行ってりゃ行きもバダーンで一発だったのに、結構近いのに様子も見に行かないって、チキンにも程があるわっ!」

「ホント、ボク眠いわ」

 あーだこーだ言いながら、10分程飛行すると、岩壁に沿って細長く霧の掛かった岩の谷が見えてきた。霧の帯の中心だけ霧が晴れ、その周囲だけより濃い霧が立ち込めている。あの晴れた部分が俺達の森からのバダーンで着地した『虹の回廊の洞窟』に一番近いモンスター集落だ。俺達の森は『迷い』の結界で守られているが、この集落は『霧』の結界で守られていた。

 そのまま集落の端にあるバダーンの発着所に着地した。近距離飛行なので俺達の森からかなり離れたこの集落に来た時のような大袈裟なフォローは必要無く、燕の宝珠があればそれで十分だった。1個1万5千ゼムするけどさ。

「さっさと、ババア(長老)の家行って休もうぜ? それとも酒場でも行っとくかぁ?」

「ボク、眠っ、い・・・」

「いや、ニカまだ寝るな」

 俺はロスエールのフードの上で眠り込みそうなニカの頭に伸ばした触手を軽く絡めて頭を起こした。ギョッとして起きるニカ。

「うはぁあっ? ケム彦っ、不意打ち触手攻めとか、激しっ」

「いや違う違う」

 すぐに触手を離す。いちいちめんどくさいヤツだなぁ、もうっ。

「今日中に戦利品の売却と買い出し済ませたいんだ。個別の予算は今日の分から一人15万使うのがいいと思う。眠るなら何を買うか伝えてからにしてくれ。俺もこの集落の長老達と俺達の森の方にも経過報告があるから、できれば誰か代わりに買ってきてほしい。それからうわばみポーチの中の物を出してくれないと売れないよ」

「なら、あたしとロスさんで買って来てやんよっ」

「ボク、なんでもいいよ」

「よくない、今日も結構ヤバかったぞ? ニカ」

「そうですよ、ニカ。ちゃんと買い出し、選びましょう」

「めんどくさいなぁ」

「フニャフニャするなよっ、チビっ!」

 また暫く軽く揉めたが、なんとか話は着け、俺は一人で集落の長老の家へ行った。


 来た時と同様、今回の件に深く関わるつもりの無い集落の長老達からはさほど質問も出ず、せいぜい集落で積極的品物の売り買いをして集落の経済に貢献してくれといったようなことを言われたくらいだった。ま、こっちはこんなもんだ。問題は俺達の森への報告っ! 個室の水晶通信を繋げてきたのはケムぴょんさんだった。

「ケム彦っ! いくらになった?! いくらになりそうだ?! いくら稼げるっ?!」

 開口一番これだよ。

「今、ロスエール達に売却しに行ってもらっています。今日の分は90万ゼムちょっとですね」

「90万?! そんなもんなのか? 話にならないじゃないかっ」

「段階的に高額獲得を目指します。それよりバテラ一味の者を一人捕獲して自白させました」

「何っ?! 何か有益な話はっ? 金になりそうか? 金はどうなんだ? 金の方はっ?」

 俺は今すぐ通信を切りたくなったがそうもいかない。

「地上一階と地下一階についてはかなり聞き出せました。有益です。それよりバテラ一味の組織構成について我々の情報は古過ぎたようです」

「何っ?! 不利益なのか? 金はっ? 金の方はどうなる?!」

「落ち着いて下さい」

 俺はかいつまんで話した。俺達はバテラ一味は古株ではあるが、概ねよくあるモンスター海賊団だと認識していた。だが現在のヤツらは主な収入源は水運業と海運業で、荒っぽい仕事もそれらの業種に纏わる『陸』でのマフィア業が主体だった。そういった事業をしていることまでは一応把握はしていたが、実態は海賊業は示威的に小規模維持しているに過ぎず、今回の洞窟攻略も一線を退いていた先々代の『頭』が突然独断で始めたものでバテラ一味の本営も困惑しているという。

「好都合じゃないか。連中は本腰では無いということだな?」

「そうですが、どうもその先代の『頭』の判断が不自然です。捕まえた構成員は末端でそれ以上はわからなかったので、もう少し探りを入れるつもりです」

「うーん、人魚達と冒険者達は?」

「冒険者達はあの辺りを縄張りにしているいくつかの冒険者協会の対応が遅れているようで、今のところそこまでのプレッシャーはありません」

「なぜ遅れる? いかにもヤツらが好みそうなクエストじゃないか?」

「どうも協会自体が近海の人魚達や思ったより商業規模が大きいらしいバテラ一味と事を構える事態になるのを避けたがっているようです」

「ああ、それはそうか・・・まだ広域活動する大きな冒険者協会の連中は手を出していないんだな?」

「ええ、しかしいずれ来ると思いますよ? 勇者の仲間の遺品ですし」

 苦い顔で唸るケムぴょんさん。この人も最近老けたなぁ。

「人魚達は?」

「ヤツらは海からいきなり地下2階にアタックしているようです」

「そんなことができるのか?!」

「のようですね」

 また苦い顔をするケムぴょんさん。

「わかった。詳しい報告は書面にまとめて送るように。それからっ!」

「ん?」

 話が終わる流れで急に切り返してきた。

「村長のヤツが当座の手付けに200万ゼムよこせと言ってきてるんだが、対応できるか? どうも本当に支払えるか疑っているらしい」

「あー、2日後の夜なら対応できます」

 明日はマップ作りや買った道具等の仕様確認をしたかった。

「2日後か。まぁ、いい。わかった。2日後の夜、誰か使いの者をそちらにやろう。必ず稼いでくれよ、ケム彦っ!」

「うッス」

 水晶通信を切り、俺はため息をついた。2日後か。金、金、金だな。


 宿泊用に集落の長老家の離れが用意されている。俺はそこでロスエール達を待とうと思って向かったが、既に灯りが点いて、中から笑い声が聞こえた。早いな。つーか、呑んでるな。

「皆、早かったな。ニカも起きたのかい?」

 と言って中に入ると車座にロスエールとニカと一緒に座っていた、部屋着を着ているがバニーガールのうさみみバンドと丸い兎尻尾を付けた小柄な人間の娘と目が合った。

「人間っ?!」

 俺は咄嗟に触手を構え、『風』を起こし始めた。

「ああっ、違いますよ? ケム彦。アカネです」

「アカネさん?!」

 改めて見てみる。うさみみバンドを付けた人間の娘は小柄で細身だが、確かに鍛えてはいるようで、顔や仕草等もアカネっぽい雰囲気はあった。

「さっきポーカーで負けて『人獣変化』の特技を使ったんだよ。お前、あたしが変化したとこ見たこと無かったっけ? 帽子っ!」

 声や話し方はまさしくアカネだった。

「なんだ、先に言ってくれ」

構えと『風』を解き、俺も車座に加わった。

「人間に変化したのになんでバニーガールみたいな格好してんだい? それもポーカーで負けた罰ゲームか?」

 俺が素朴に聞くと、ニカとロスエールは爆笑し、アカネは真っ赤になった。んん?

「あたし、戦闘以外の特技苦手なんだよっ!」

「・・・あっ、なんだ、その耳と尻尾自前か。逆に器用だ」

「兎ちゃん、リアルバニーガールだね?! ねぇ恥ずかしい? どれくらい恥ずかしいの? ご褒美だねっ! キャハハハっ!!」

「とってもかわいらしいですよ? アカネ」

「ロスさんまでっ!!」

 俺達は暫くアカネの失敗変化イジりを肴に酒を呑んだ。

「おいっ、帽子」

 不意にアカネが話を遮ってきた。お? ちょっとイジり過ぎたか?

「あたしのことは『アカネ』でいいぞ」

「ああ・・・わかった、アカネ。なら俺のこともケム彦と呼んでくれよ?」

「呼ばねー。帽子は帽子だ」

「ええ?」

 アカネはジョッキを手にそっぽを向いてしまった。めんどくさいヤツだなー。とにかく酒宴は続いた。詳しい仕事の話は明日の朝でいいだろう。

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