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アクアマリンの首飾り 4

 中央ブロックの森の端までくると、すぐ向こうに『虹の回廊の洞窟』の入り口が見えた。岩盤を無理矢理こじ開けたような裂け目の洞窟、海から離れているのにフジツボが入り口の至る所にびっしりとこびり付いている。この洞窟が相当濃厚な『海』の属性を帯びているのは間違いない。アナゴリアンに『自白』させた内容通り、入り口の脇に破壊された簡単な砦の跡がある。バテラ一味は当初、入り口前に築いた砦で自分達以外の者をシャットアウトしようとしたが、交渉に失敗した土着モンスターの嫌がらせと、場所が場所だけに定期的にカチ込みを掛けてくる冒険者達への対応に手間取り、結局作りかけの砦を放置して往き来し辛いが手出しされるリスクも少ない地下一層に拠点を作っていた。

「地上一階は宝物は残ってないそうだが、加工素材系守護モンスターがかなりいる。食材モンスターは嫌なんだろ? ニカ」

「ポーチが臭くならないヤツなら別にいいけどぉ」

 案外潔癖なニカは戦利品をどんどん詰める予定のうわばみポーチ中を清潔に保つことに拘りがあった。

「聞き出した範囲ではそういう食材を落とすモンスターも一階にチラホラいるようではありますが、相手によって対応を変えるのはちょっと手間ですね」

「そういうのはまぐれ狙いでいいんじゃねぇの? いちいち戦い方変えるのはあたし、めんどいわっ」

「対応がブレるのはリスクも高い、やはりリュウグウバヤシの下位体狙いで後は無駄に構うのはよそう」

 俺達は中の特定エリアで繁殖しているらしい珊瑚系モンスター、リュウグウバヤシの下位体から手に入る『大珊瑚の欠片』をメインターゲットにすることにした。そのつもりで丁寧に狩れば1体から3マンゼムから7万ゼム程度の価値の欠片が手に入る。目標金額は最低でも2千万ゼムなのでこの狩り自体は話にならないのだが、どの道バダーンの着地点にした最初に来た集落を何度も往復して、有効な装備やアイテムを買い揃えながら金を貯めるつもりでいた。最初のアタックとしては『程好い』目標設定だった。「なんでもいいけど、さっさと入ろうよ? 珊瑚君達を可愛くしてあげようっ!」

 普通に狩るだけなんだがまあ、いい。俺達はテンションを上げたニカが促すまま、いよいよ『虹の回廊の洞窟』へと入って行った。


 中へ入るとひんやりとはしているのに凄い湿度、むせそうな潮の臭いが立ち込めていた。

「これはたまりませんね、『日光』の次は『潮』ですか」

 ロスエールはボヤいた。彼は『水属性』も苦手だ。

「一応集落で『火雀の羽』を3枚は購入しておきました」

 袂から1枚約1万ゼムの火属性の触媒になる紅い羽を1枚取り出し、

「カグチ」

 火属性強化の魔法を唱えるロスエール。一瞬、体から紅く燃えるような魔力が立ち上がる。

「それ、どんくらい持つの? ロスさん」

「6時間程は」

「じゃ、今回のアタックは『5時間』でいいよな? 帽子っ」

「まぁ」

 俺がそれでいい、と応えようとするとニカが入ってきた。

「羽2枚使えば、10時間はいけるよね? ロスちゃん」

「ロスさんに無理させんなよっ、チビッ!」

「んんっ?」

「ああッ?!」

 睨み合うニカとアカネ。ロスエールは困惑して間に入ろうとしたが、

「5時間だ! 最初のアタックは5時間。今日はさっきのヤツから情報を得られただけでも十分なくらいだよ。無理はよそう、ニカ。嫌な食材は一切回収しないから」

 俺はニカを見て言った。

「・・・・ま、別にボクはどっちでもいいけどさぁ」

 ニカはなんとか引き下がってくれたようだ。アカネも鼻から息を吐いていたが、それ以上は絡まなかった。


 いきなり軽く揉めてしまったが、俺達はその後ロスエールが3つ分唱えた照明魔法ポーラの明かりと、5分置きくらいでニカが唱えるジィーンの魔法を頼りに、地上一階のリュウグウバヤシ下位体出没エリアを目指した。途中、ターゲットではない守護モンスターやたまにウロついていたバテラ一味らしいグループや冒険者達は多少時間は食っても全てやり過ごした。アナゴリアンから聞き出した通り、海から別ルートで洞窟にアタックしているらしい人魚達は地上一階では全く見掛けず、

「人魚達、ホントに来てんのか?」

 アカネが疑う程だった。


 直行すれば10分掛からないはずだが最初のアタックで、なおかつ無駄な戦いを避けた為、ターゲットの出没エリアまで1時間以上掛けて俺達はたどり着いた。

「ああ、いますねぇ。幼体は無視ですね?」

 確認してくるロスエール。岩陰から見ると結構大きく育ったリュウグウバヤシ下位体が2体と、離れた所にリュウグウバヤシの幼体が3体が見えた。幼体は食材になるがもれなく加工前は生臭い。

「幼体はスルーだ、ロスエール。しかしポーラにもろくに反応しないな」

 連中は明かりに照らされても振り向きもしなかった。目が特別悪いモンスターでもない。

「人の出入りが多くなったのと、ちょこちょこ自己発光種の光苔の類が群生しているせいですかね?」

「アナゴ野郎も一階は自分から突っ掛かってくるヤツは少ないようなこと言ってた、つか、毒針出すんだろ? ウゼぇなぁ」

 アカネはそう言いながらも何やら嬉しそうにリュックから間接攻撃用の柄は木製だが極太の五節鞭を取り出した。『戦い』が好きなんだね。

「毒除けケープ、返しましょうか?」

「いいよ、ロスさん。耐性は上がるけど針を直接射たれたらどっちにしろだし、それにあたし、一発も当たらないよっ」

 その場で跳ねてみせるアカネ。こうして見るとデカ過ぎる(人間並み)ウサギだ。ロスエールはアカネのやたら元気な応え方が面白かったのか、フードの向こうの仮面の下で「ふふふっ」と笑っていた。

「ヤツらは『毒針』『体当たり』『メナ』が地味にヤバい、俺が最初に目潰しするから散らばって間接的に回収しやすいよう、丁寧に仕止めてこう」

 メナは通常は旋回する水流弾を射つ魔法だ。弾速は遅いがある程度操作が利き、貫通力は高い。

「ボク、仕事少なそうだね」

「回り飛び回って気を散らせるだけでも助かるさ」

「ふーん?」

 簡単に打ち合わせを済ませ、俺が特技『突風』で土煙を巻き起こしてリュウグウバヤシ2体に目潰しを決めると、アカネと袂から細身の鋼の鎖鎌を取り出したロスエールがそれぞれ1体ずつに躍り掛かった! ロスエールは分銅を相手の顔面に叩き付けたじろがせ、アカネは五節鞭を狂った蛇の様にしならせ眉間に撃ち込んでこれは一発で仕止めていた。上手いな。

「ギギギっ? メナッ!」

 残り1体のリュウグウバヤシはまだ俺の目潰しのせいで見当外れな方向にメナを撃ち、水流弾を洞窟の壁にぶつけていた。

「ご褒美だよっ!」

 目を離した隙に高速で飛んで位置がわからなくなっていたニカはいつの間にかポーチから取り出していたらしい特性不明のピクシーフォークで残りのリュウグウバヤシの片足の甲を突き刺した。『間接的に』って言ったのに、あのバカっ! 案の定、目潰しが効いたまま苦痛に怒り狂ったリュウグウバヤシがデタラメに体中から素早く突き出しては縮め戻す無数の毒針に襲われるニカ。

「キャハハハっ! そんなに一杯突いたらボク壊れちゃうよっ!!」

 興奮して笑い、小さな体で飛び回って回避するニカ。見てられない!! 俺が皮鞄から触手でダーツを2本取り出すのと同時にアカネが五節鞭の穂先を相手に撃ち込んで仕止めてくれた。

「チビっ、大概にしとけよっ!」

「なんだよ兎ちゃん、せっかくいいところだったのにぃ」

「ああっ?! ゴラァッ! 降りてこい、チビっ!」

「キャハハハっ!」

 興奮が収まらないらしいニカの相手は取り敢えずアカネに任せ、俺はため息一つついてから、ダーツを鞄にしまい、代わりに折り畳みノコギリ+1を取り出し、獲物に近付いた。と、鎖鎌をしまったロスエールが銀製の算盤らしいのを取り出してきた。数字の表示枠もあり、片手で持てるよう持ち手付き。

「算盤?」

「長老に預かった『銀の算盤』です。物の値段がわかるとか」

「へぇ」

 回収した『大珊瑚の欠片』を鑑定すると2体合わせておよそ9万ゼムになった。


 俺達はこんな調子で、主に獲物との戦いよりニカの気まぐれな行動に手こずりながら4時間弱狩りを続け、約72万ゼム相当の『大珊瑚の欠片』とまれにリュウグウバヤシが落とす高価な『珊瑚結晶石』を約27万ゼム相当を回収し、集落では5万ゼムで購入可能な『脱出の鏡』を使って洞窟の入り口まで転移した。もう日が暮れていた。俺達を送った後、鏡はその場で砕け散っているはずだ。

「ボク、もう眠い。ご褒美あげ過ぎたよ」

「綺麗な夕陽ですねぇ」

「アタシ、腹減った。帽子っ! 帰るからアレ出せよっ」

「ああ、出すけど、他の人も持ってるよな?」

 まあいいかと、俺は1個、1万5千ゼムするバダーンの魔法の安定性を高める『燕の宝珠』を触手で鞄から取り出しに掛かったが、ふと、後ろの洞窟を振り返った。何か、なんだろう? 誰かに呼ばれたような気がした。

「おいっ、帽子っ! どした?」

「いや、なんでもない」

 俺は燕の宝珠を取り出し、その力で安定化させつつ、ロスエールが唱えたバダーンで元来た集落へと俺達は飛び帰って行った。

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