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アクアマリンの首飾り 3

 ハモリアンとアナゴリアンの二人組を目指し森の中央ブロックをそれなりの速度で進む俺達、念の為、ニカが音波探知のジィーンの魔法を軽く数回唱え状況確認はしていたが、特に問題は無さそうだった。

「あ、そうでした。アカネ、ケープを返します」

「いいよ、また日の当たる所に出るかも知れないし」

「すいませんね、それなら代わりにこの『霧のタクト』を預けましょう。結構応用が利きますよ?」

 ロスエールは袂から小振りな杖を取り出し、横を駆けていたアカネに渡した。

「わかった上手く使うよっ」

 アカネは大事そうに霧のタクトをリュックにしまい、ロスエールは被っていた毒除けケープを肩に掛け直したが、俺とニカは無言で顔を見合わせた。幽体で物理的な毒に耐性のあるロスエールに毒除けケープ。近接物理戦タイプのアカネに霧のタクト。あべこべだ。だが、アナゴリアン捕獲のこの作戦には特に影響の無い要素だったので、一先ずは置いておくことにした。

「そろそろじゃないの? 芋・・・ケム彦」

「わかった、ニカ」

 俺はつむじ風の帽子に力でかなり加減した『向かい風』を吹かせた。探知の為の精度の高い風では無いが、魚類臭い臭いが風に混じる。

「さっきの臭いだ。間違いないよっ、ハモとアナゴっ!」

「ニカ、ジィーンはバレそうですか?」

「距離が近いかなぁ? ハモリアンって魔法使うヤツ多いし、気付くかも?」

「『向かい風』だけで十分じゃないか? 大したレベルじゃ無かったんだろ? アカネさん」

「ハモはレベル7くらい、アナゴはレベル6から8くらい」

「6から8って、絞り甘くない? 兎ちゃん?」

「兎ちゃんだぁっ? チッ、アナゴのヤツは動きにムラがある感じだったんだよ。ああいうヤツはテンション上がると実力変わる、レベル判定し辛い」

「どのみち奇襲だ、何もさせないさ」

 特に即席チームでやる時、些細なことで土壇場になって作戦を変えると腰砕けになりやすい。俺は話を切り上げ、俺達は元のプランのままターゲットに接近した。


「でよぉ、あのズベ公の体位がようっ」

「またその話かよっ!」

 背後の茂みに近付くと、ハモリアンとアナゴリアンは件の下ネタ話をしていた。これでも他の連中のキツい下ネタに比べればまだマシらしいけどな。俺達はアカネに目配せし、アカネは頷いて更に後方の茂みへと消えた。続いてロスエールはカンテラの正面の蓋を触れずに外し炎を出して身を包み、特技『幻火変化』を使って『六足トカゲ』の赤色種に変身し、ペロリと舌なめずりしてみせ、アナゴリアン達の前方の茂みへと先行して行った。

 俺とニカは黙って隠れて追いながら待つだけだ。4秒、6秒、7秒経ったその時っ! アナゴリアン達の前方の茂みから六足トカゲの姿のロスエールが顔を出し、いきなり『火のブレス』を吹き付けた。

「アチぃッ?!」

「地回りのヤツか?! この野郎っ!」

「ヨソ者ハ出テ行ケッ!」

 ロスエールは適当に煽って素早く逃げ出し、アナゴリアン達は血相を変えて追い出した。俺達も追うヤツらを追う。数秒追っただけで大柄で装備もハモリアンに比べると重厚なアナゴリアンは想定した通り、ハモリアンに体二つ分程度遅れ出した。ここだな。俺がニカを振り向くと、ニカは特に合図を返すでもなく実行した。

「ヴァルっ」

 小声で呟くと、ニカの小さな指先から凍気が放たれアナゴリアンの足元は凍り付いた。

「おおうっ?!」

 喜劇役者のように派手にすっ転んで倒れかけるアナゴリアン。ヤツの体が地に着く前に、

「ふッ!」

 俺は思わず小さく声を出して残りの魔力で小型の竜巻を一瞬起こし、ヤツのをかなり後方に吹っ飛ばしてやった。

「どぅああぁ~っ?!」

 相棒が突然飛ばされ、振り返って立ち止まったハモリアンは唖然としたが、

「スパーラッ!」

 すぐに武器強化魔法を唱え、手持ちの細身の槍の穂先に魔力を付与した。

「どこだ?! 何匹いやがるっ? テメェらバテラ一味に手ぇ出して、ただで済むと思うなよ、クソどもがぁッ!!」

 脂汗をかいて周囲を見回すハモリアン。と、バンッ! ヤツの背中に小さな火球が命中した。

「痛ぇッ?! くっそ、クソがぁッ!!」

 後ろを振り返るハモリアン。しかし、別の角度のやや離れた茂みから六足トカゲ姿のロスエールは顔を出した。

「ドコヲ見テイル?」

 言って、即、茂みに隠れるロスエール。ちょっと楽しんでるな。

「殺すっ!」

 ハモリアンは強化した槍を手に茂みに跳び込んで行った。

「こっちはロスエールに任せて大丈夫そうだな」

「だね」

 俺とニカはアカネの方へ向かった。


 飛ばした方向と争う音を頼りに追い付くと、もう殆ど勝負は決めの段階だった。戦闘体勢で毛皮の下の特に腕の筋肉の盛り上がったアカネが拳を構える先のアナゴリアンは、鎧をあちこち割られ、兜もヘコまされ、得物の大振りの銛も折られ、石突きの方の柄だけ右手に持ち、左手には手入れは悪いが鉈のように分厚いジャックナイフを持ち、よろめきながらも二刀流の構えだった。見れば近くの木にアナゴリアンが投げたらしい短刀も9本程刺さっている。見た目より器用な戦い方をするヤツだったんだな。

「く、クソ兎『野郎』がっ、バテラ一味舐めんなよッ!」

 アナゴリアンは特技『酸のブレス』を放った。だが、ヤツの口が『めっちゃ酸臭い』ことはアカネは既に嫌という程知っていた。アカネはこのブレスを簡単にかわし、特技『高速ダッキング』で体が残像に見える程の速度で相手の懐に飛び込んだ。

「1っ!」

 ボディブローでアナゴリアンの腹の鎧を『素手』で完全に叩き割るアカネ。

「2っ!!」

 相手のむき出しの顎をアッパーで殴り付けるアカネ。たぶんこの時点で勝負は着いていた。

「3っ!!!」

 アカネの渾身のストレートパンチで『金的』をぶっ込んだ。

「あふっぅおおっううっっ?!!」

 哀れなアナゴリアンは股間を押さえて跳ね飛ばされ、泡を吹いて気絶した。

「誰が『野郎』だよっ?! どう見てもモフモフ系美少女だろうがッ!!」

 一喝するアカネ。いや、どう見てもムキムキ系ケダモノ女だよ?

「兎ちゃん、結構いいスパンキングできるじゃあん。ご褒美だね、ハァハァっ」

 何やら興奮した様子のニカ。いや、スパンキングとかじゃないから。


 およそ9分後に六足トカゲの姿のまま「自足で歩くの久し振りなんですよね」と呟きながらロスエールが戻ってくる頃にはニカの『アッサ・ケッシ』も決まり、一通りの情報は引き出せていた。

「お疲れロスさん、そっちは?」

「排他的な土着モンスター設定で、軽く痛め付けて追い払っておきました。ちょっと待って下さいね」

 トカゲ姿のロスエールは軽めに炎を吐いて身を包み、『幻火変化』を解除して元のカンテラシェードの姿に戻った。

「ああ、体が軽い。これでバテラ一味と土着モンスター達が小競り合いでもしてくれれば、少しは動きやすくなるんですけどね? まあ、地元の方々はいい迷惑でしょうが」

「こっちも粗方引き出せた、ちょっとニカが『アッサ・ケッシ』を決め過ぎて、かえって聞き出し難かったけどさ」

「やり過ぎなんだよ、このチビはっ」

 木の幹に縛られたアナゴリアンは涎と鼻水と涙を流して白目を剥き、うわ言を繰り返して笑っていた。

「もう『自白』させたし、拷問していいよね? どうせ殺っちゃうんだし」

「いや、そこまでしなくても、この状態なら私の『幻灯縛り』で我々に襲われた記憶を一生消すこともできるでしょう。耐性も無さそうです」

 結構ヤバいことをさらっと言って、カンテラの火を妖しく光る紫に変えてアナゴリアンに近付くロスエール。これにニカは激しく反応した。

「ロスちゃん、『一生記憶を消す』とか、そんな激しいプレイしちゃうの? 凄いね、ご褒美だね。ハァハァっハァハァっ」

 荒い呼吸で身悶えするニカ。いや、ツッコむのもめんどくさいから。つか、SかMかどっちだよっ?! 

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