散文詩『オレンジの夜』
畜生……盗聴されてる……自閉など不可能。奴等は俺の幻覚、妄想、願望の中にすら侵入してきた。いや、今もしている。俺の想念の中に核を送っているのだ。ぼんやりとした想念に核を与えることは雨の発生に似ている。雨は雨粒として成るために核となる微粒子を必要とする。奴等は俺の想念に核を送り、水蒸気のように定まらない俺の想念を雨粒のように降らす。
送られる核はユダヤでガフと呼ばれ、瑞穂では母是と称される胎児の魂だ。極限まで凝縮したエーテルだが、決して物質化することの無い、ヘルツを超えた振動数を持つ。揺らぎ、流れ、輝く恒河沙だ。
「その通りだ」と蝋布に包まれたキリストが告げた。俺は闇雲に信用している訳では無い。ただ、奴の白紙には空白が無く、びっしりと言葉が這っていた。
インマヌエル。神、我と共に。神通自在。柳薄荷から垂れる香油が額を伝い、俺の口に入ると、それが苦い味だと知った。
煙水晶の床上には芋虫が置かれている。
俺は追った。
辿り着くと、芋虫の中には翅が詰まっているのが分かった。七色に変色し、幼い子のように鳴いている。その鳴き声を摘まみ出して、水性インクで描いたヘキサグラムの中央に十字形を作る。四平方メートルのレースの敷物を敷いて、その上におとなしく座っている。
暗闇が皮膚を犯し、ランプに火を灯すと、そこにはオレンジの夜が腐ってた。